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195 深淵の王

 午後、チュチュが食堂の扉を開けた。


「うおっ!?」


 食堂の扉を開けたはずだったのだけれど、目の前は真っ暗だ。

 真っ暗というより、真っ黒。


 これ……“深淵の王”?


「え……?何これ?ヴァルいるの?」


 返事はない。

 とはいえ、食堂がこんなにずっと真っ暗だと、困ってしまう。


 様子を窺っていると、パッと暗闇が消失した。

 食堂を覗くと、ヴァルがテーブルですっかり項垂れている。


「…………え。どうしたの?」

 びっくりして声をかけたチュチュへの返事はこうだった。

「やらかした……」


「何を?」


 仕事で?

 授業にも昼食にもいないと思ったら……、何かあったんだろうか。


 キョトンとしていると、ヴァルが、テーブルに突っ伏して黒い毛の塊のようになったまま、また口を開いた。

「つい…………」


 つい???


 つい、と言われて、チュチュには思い浮かぶものがあった。

 午前中のエマだ。

 確かにいつも通りだった。

 けど、どこか、心ここにあらずといった雰囲気で、少し様子がおかしかったのだ。


「ごめん、それはアタシ、別に聞かなくていいやつな気がしてきた」

 手をビシっと突き出し、拒否の態度を示したけれど、テーブルに突っ伏しているヴァルに見えるはずもない。


 用事を済ませにキッチンへ向かう。


「あいつさ」


 突然ヴァルが喋ったので、少しびっくりする。


「あいつ!?誰!?」


「なんであんなに顔がいい男に弱いんだ……?」


 顔がいい男に弱い?


「ああ、エマのこと?」


 チュチュから見ればそんなことはない。

 先生やメンテといった魅力的な人は多いのに、あそこまでヴァル以外見えていないところを見ると、これ以上ないくらい一途だ。

 確かに、あのゲームをやっていたので、攻略対象になっている人には反応しているみたいだけれど。

 はしゃぐだけで、恋愛的な感情はさっぱり動く気配がない。


「ヴァルだって、顔は負けてないよ?目つきは悪いけど」


 そう。

 身近に人類ではあり得ないレベルの人がいるからか、目つきの悪さで好みが分かれるからか、あまり注目はされないけれど、一般的に見ればかなり顔はいい。


「…………」


 ヴァルが押し黙ったので、キッチンで用事を済ませ、食堂を出る。


 エマの様子を見る限り、……本当に何かしたのか告白でもしたんだろうけど、たぶん、悪いことじゃないだろう。

 エマに恋人が出来ちゃったら寂しくなるだろうか。

 う〜〜〜ん、まあ、双子もいるし。

 今までだってあれだけくっついてるんだから、変わらないかな。


 アタシは……。


 チュチュが、自分の部屋へ入る。

 チュチュの部屋は、シエログッズが満載だ。


 ドアに寄りかかり、部屋を見渡す。


 …………アタシは、好きな人なんていないけど。


 そう思いながら、チュチュはほっぺたをぷっと膨らませた。

シエロくんみたいにキラキラしてないだけで、ちゃんとイケメンですよ!もちろん!

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