表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/240

194 深淵

 夜だった。


 エマは、階段を上り、一番てっぺんのガラスのドームの部屋の少し段になっているところに腰掛けた。


 大きな部屋の、人のいない空間。

 それでも木の息吹を感じるからか、寂しい気持ちはしない。

 明かりはついているので、それほど暗くもない。


 夜遅くに散歩に来るには、ちょうどいい部屋だ。


「エマ?」

 声がかけられ、一瞬どきっとする。

「ヴァル……」

 階段を上がってきたのは、ヴァルだった。

「こんな時間に部屋の外に居るなんて珍しいな」

「あはは」

 ヴァルが、隣に座る。


「リナリがおすすめしてくれた本読んでたら、遅くなっちゃって」

「どんな?」

「恋愛ものなんだ。両親を亡くした女の子が貴族の男の子と仲良くなるんだけど、実はその男の子は隣国の王子なの」

 ヴァルがふっと笑う。

「リナリはそういうの好きだな」

「そうなの。双子は両方ともロマンチストだよね。ああいうところはそっくり」

「一緒にいる時間が長い分、余計にそっくりだよな」

「リナリが、チュチュと私におすすめしてくれたんだけど、チュチュは興味がなくて」

「チュチュは小説も読めないのか……」

「本好きじゃないからね」

 ヴァルは、ふっと何かを思い出したようだった。きっと、キリアンのことだ。

 親子共々、活字は苦手そうだ。


「ヴァルはどうしてここにいるの?」

「さっき仕事から帰って、廊下にいたら音がしたから」

「そうなんだ。お疲れ様」

「シエロもじいさんも人使い荒いんだよ」

 ヴァルが荒んだ声を出した。

「そうだね。学園にいない日、多いね」

「書類申請、偵察、観察……。暗殺がないだけマシか」

「暗殺って……。まさかぁ……。ただの魔術師だよ?」


「そう思うか?」


 ヴァルが、意味ありげな顔をする。


「ま……まさかぁ……」

 エマが、おどおどとした声を出した。


 ヴァルがハハッと笑う。

「まあ、国王付きのままでいたら、そんなこともあったかもしれないけどな。ここでは、そんなことないよ」


「だよ……。だよね…………」


 けど、国王の側にいたら、そんなこともしていたかもしれないんだ……。

 ヴァルがよけい荒んじゃう……。


 ただの学園の生徒でよかったと、ちょっとだけそう思う。

 あれだけ仲が良かったランドルフには悪いけれど。

 王子ルートを思い出す。

「王様になるのが怖い」と、ヴァルに言っているシーンがあった。


 エマは、床の模様を見た。

 魔術師の部屋にありそうな、何か意味のある模様のような綺麗な床だ。


 ちょっと暗い顔になったエマを見て、ヴァルが口を開く。

「大丈夫だよ。今の国王は、そんなこと滅多にない」

 その言葉を聞いて、エマが顔を上げて微笑んだ。


 静かな時間がやってくる。

 壁にかかった、豪華な細工が施された時計が、真夜中を告げている。


 話すことがなくなってしまっても、隣に座っていてくれることが嬉しかった。


 今、言ったらどうだろう。

 好きだって。

 ヴァルに。


 ふと隣を見ると、その気配でヴァルがこちらを振り返った。


「…………っ」


 いざ、前にすると。


 困ってしまう。


 先に口を開いたのは、ヴァルの方だった。


「もう、寝ないとな」


「………………うん」


 小さくそう返事をする。


 そっか。

 そうだな。

 さみしいけど、もう寝ないとな。


 ヴァルの顔が、ふっと優しくなる。

 そしてヴァルが、エマの唇に軽くキスをして、そして立ち上がった。


「おやすみ」


 エマが、ヴァルの顔を見上げた。

 ヴァルは、いつもの勝ち気な顔をしていた。


「………………うん。おやすみ」


 なんとかそれだけを言うと、そこに座ったまま、ヴァルの背中を見送る。


「え………………?」

ラブコメもこのあたりで最高潮ですかね。

ハッピーエンドに向けて突っ走れ〜!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ