193 シエロとチュチュのちょっとした世間話
「ヴァルもさぁ、もうガバッといっちゃえばいいのにね!?」
食堂でわーっと喋っているのはチュチュだ。
斜め前で相槌を打っているのがシエロ。
今日は珍しく、二人、食堂で話をしていた。
「本当にねぇ」
シエロが同意しながら、ミルクティーをすする。
「一緒にいて突然、そういう雰囲気作られるこっちの身にもなって欲しいよ」
今日は、チュチュのマグカップにもミルクティーが入っていた。
「お使い中にも!特にヴァルが!も〜〜〜〜〜!『エマかわいいかわいい大好きー!』って顔するし、もうほとんど抱えてるんじゃないかってくらい距離近すぎだし!!」
チュチュの勢いで、ミルクティーの表面が揺らぐ。
「そんなに好きなら、さっさとどうにかしちゃいなよ!!」
シエロが呆れた顔になる。
「そしたら、それはそれで、目の前で堂々とイチャイチャされるようになるんじゃないかい?」
「ヴァルはそうだろうけど、エマは人前でイチャイチャはしなさそうだし、多分その方がマシだよ」
チュチュが腕組みをして、ふんぞりかえる。
「これは、グッドアイディアなんだけど」
と、チュチュが神妙な顔つきで、ピッと人差し指を立てた。
「ん?」
顔を上げたシエロの金色の髪が、ふわりと揺らぐ。
「あれでも攻略対象なんだから、普通に口説けばいいと思うんだよね」
「あ〜〜〜……、やればいいけど、ね。僕もあんなヴァルを見るのは初めてだからねぇ。実際どう口説くのかは想像もつかないな」
シエロが、緩く苦笑した。
「『お前だけだ……愛してるよ……』」
チュチュが怪しげなイケメンの真似をする。
「ぷはっ」
シエロが一度吹き出してから、なんとか笑いを堪える顔をする。
「誰……!?」
「ヴァル」
「ないない」
「ここはやっぱり、部屋に忍び込んでさぁ、ジークグッズのふりしてベッドにいるとか」
「訴えられるよ」
言いながら、シエロはすっかり笑ってしまっていた。
「『やあ』」
「ないよ!訴えられるよ!」
「からの〜、“深淵の王”。がばあっ」
「あれでも僕の親友であり、尊敬する兄弟子だからね?」
「先生、“あれでも”って……」
二人で笑ったところで、食堂の扉が、バン!と開いた。
そこに立っていたのは、ヴァルだ。
「…………」
「…………お前ら、何の話だ?」
二人は聞かれていないことを願ったけれど、どうやらそんな都合よくはいかないらしい。
「深淵の王」
ヴァルの持つ短剣の前に魔法陣が光り、弾けるように消える。
二人の目の前が真っ暗になった。
カチャン、と扉が閉められる音がする。
「えっ!?暗……っ」
「ヴァル……?」
「え?ヴァルいないの!?冗談だってばぁ〜〜〜〜〜」
「ヴァルくーん?……出て行ったみたいだ」
「先生〜!扉がないようぅ」
「たぶんもっと右……、あ、痛っ」
「ヴァル〜〜〜〜!?ヴァル様〜〜〜〜〜!!??」
それから5分。たまたま食堂へ来たエマが助け出すまで、二人はそこで大騒ぎしていた。
学園メンバーが楽しげにしてる姿、いいですよね。