186 シエロくん(1)
ヴァルの足元に木箱が二つ。
「では、確かに」
荷馬車に乗っていた宅配のお兄さんが、挨拶をした。
「どーも」
一言返し、木箱を眺める。
学園への荷物には滅多にない大きな箱。人間の一人くらい入りそうだ。
タグを見ると、絵師のエリオットからエマ宛の荷物だった。
「あの人から……」
以前、エマがもらったあのゲームの大量のグッズの事を思いだす。また、ああいったものなのだろう。
仕方なく、エマの部屋まで運んでやる。
さっき訓練から帰ってきたようだから、今頃はまだ部屋にいるだろう。
コンコン。
エマの部屋の扉を叩く。
「はーい」
エマの声がして扉が開いた。
ひょこっと、エマが顔を出す。
「ヴァル!」
俺だとわかると、ふわっとした笑顔になる。
「荷物」
「荷物?」
床に置いた木箱に目をやると、エマがびっくりした顔になった。
「すごく大きいね?」
「エリオットさんからだと」
「あ〜〜〜〜……」
荷物が来る予定でもあったんだろうか。
「でかいから、中に入れるぞ」
「うん、ありがとう」
扉をギリギリでくぐり、部屋の真ん中に荷物をどん、と置いた。
「見た目ほどは重くないんだ」
言いながら、ふと、部屋の中が目に入る。
「…………」
以前入った時は、“ジーク”のグッズが所々にあったようだけれど、今回は全くない。
あったらあったで、俺よりもそっちの“ジーク”の方がいいんだろうかと複雑な気分になるけれど、なかったらないで、好きではなくなったんじゃないかと不安になる。
「もう一つあるから、持ってくるよ」
「一緒に行くよ」
ということで、二人で階段を上り下りすることになった。
エマが、ニコニコと隣を歩く。
……それほど、欲しかったものなのだろうか。
「中、あのゲームの?」
我慢しきれずに聞いてしまう。
「あ」
エマが、一瞬、言葉に詰まる。
言ってもいいのかどうか少し考える仕草をしたところで、
「うん。そうなんだ」
と、返事が返ってきた。
「エリオットさんにお願いしてたんだ。こんなに早く届くと思わなかったけど」
「よっぽど好きなんだな」
軽く笑う。
「うん……まぁ。あのゲーム、けっこう戦闘もちゃんとしてて、前衛と後衛に分けて、敵と戦うんだけど、意外と頭使うんだ。そういう作り込みも細かくて楽しいの。私、いつも前衛がジークと王太子で、後衛を主人公のアステールとシエロくんにしてたんだけど……」
「…………え?」
シエロ…………“くん”????
今まで、エマが誰かのことを君付けで呼ぶのを聞いたことがなかった。
ジークに向かって時々様付けしているのを聞いたことはあるけれど。ヴァルである今は、最初から呼び捨てだった。
年下のメンテだって、最初から呼び捨てだ。
……一体どうしてあいつだけ君付けなんだよ……。
2つめの荷物を持つと、エマが他愛ない話をするのを聞きながら、また階段を上がる。
エマに扉を開けてもらい、部屋になんとか木箱を入れる。
どうして…………俺の絵を飾らなくなった?
その時だった。
多少手荒く扱ったからか、持っている木箱の蓋がバカッと開いてしまう。
ドン、と音がして、木箱の底が床についた。
「わっ」
「あっ、ごめ……」
言いかけたところで、中身に目が行った。
「…………」
大量のグッズ。
そのどれもが、同じキャラクターが描かれていた。
肩まで届きそうな長めの髪。
空のような青い瞳。
自分よりも大きな赤い宝玉のついた杖。
憎らしい生意気な笑顔。
それは、間違いなく、シエロだった。
こんな展開ですが、ヴァルから見たらあまりにも複雑な心境でしょうね……。
ラブ度はゆっくりとどんどん上がるよ〜!