183 自分の部屋に(3)
「魅力……。えーと」
それでも、魅力は教えてくれる。
「か、かっこよくて」
声はどことなくカクカクしているが、顔が凛々しくなる。どうやらかなり本気らしい。
「強くて」
ヴァルは、その顔を見ながら、黙ってその声を聞いた。
「一人でいる時もずっと強くあり続ける姿に憧れて。側で元気付けてくれてるような気がして。……勝手にそう感じてただけだけど」
少しずつ、エマの瞳が潤んでくる。
泣くのか。思い出しただけで。
「けど、どこかほっとけなくて」
「…………」
「側に、居られればって思った。もし、寂しい想いをしてるなら側に居てあげたいって」
「…………っ」
その言葉が、小さく胸に響く。
あの頃の自分が、報われたような気がした。
つまらない、あっけなく終わった人生だったけれど、こうして、気にかけて側に居てくれた人もいたんだ。
あの頃の自分には、見えなくても。
「それがメイドでも、護衛でも……!」
「…………は?」
一瞬、期待した。
今ここにいる、俺に言ってるんじゃないかと。
……告白でもしてるんじゃないかと。
メイド……。
メイド……?
メイドって……誰の?俺の?……ゲームの中の"ジーク"の?
二人、窺うような顔を見合わせた。
ヴァルが鼻から息をひとつ吐くと、エマは、いつの間にか卵の殻だらけになった自分の手を、誤魔化すようにジャバジャバと洗う。
呑気に、
「今日のトマトはおいしいかなぁ~?お店のおじさんがね、今日のトマトは甘いからって、たくさん売ってくれたの」
なんて言いながら、ミニトマトを指で掴んだ。
「はい、あーん」
ヴァルの口元に、ミニトマトが差し出される。
「ん」
エマが、ヴァルの口にトマトを押し込む。
ヴァルの唇にエマの指が触れる。
「甘いよ」
ほにゃっと緩んだエマの口に、お返しにミニトマトを口に押し込む。
「ほら」
「うぁ…………あ……」
ぶわぁっとエマの顔が赤くなる。
「甘…………」
そのエマの顔を見て、面白くなってきた……、と思った所で、扉が開いた。
二人で、扉の方に慌てて振り向いてしまったものだから、怪しいことこの上ない。
扉から入ってきたのはメンテだった。
「…………」
メンテは少し面食らった顔をして、すぐに呆れた顔になる。
「……調理中に何やってんの、君たち」
エマは焦った顔になっているし、ヴァルの手はエマに向かっていてこの上なく怪しい。
「……手伝おうかと思って早く来たんだけど。お邪魔だったみたいだね」
「だ、大丈夫だよ!」
エマがそう言ったからか、メンテはそのまますんなり食堂に入ってきた。エマの声は、かなり震えた声だったが。
メンテが、そのままテーブルの自分の席に着く。
「じゃあ、ここで見守ってようかな」
にっこりと、二人に笑顔が向けられた。
……いや、出て行けよ…………。
ただのイチャイチャですね。