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182 自分の部屋に(2)

 エマの叫ぶ声が聞こえて、ヴァルは扉をノックするのを一瞬躊躇した。


 “変態”……って、あいつ何やってんだ……。


 持っている荷物を見て、そして、やはり用事は早く済ませてしまおうと思い直す。


 コンコン。


「…………」

 返事はない。

 どうやらこっちを窺っているようだ。

「……俺だけど」


 声をかける。

 返事はないけれど、程なくして扉が開き、エマが扉の隙間から顔を出す。

 扉の隙間から、壁に貼られら何枚ものポスターが見えた。

 …………俺の……。

 これは見なかったことにしたほうが良さそうだ。


「どうしたの?」

 すっと出てきたエマは、後ろ手に扉を閉める。

 頬がほのかに火照り、あからさまにドギマギしている。

 本当にこいつ……、何してたんだ……。

「チュチュの荷物に紛れ込んでたって、これ」

 手に持っている小さなトランクを示す。

「ありがとう」

 エマが、にこっと笑顔になる。


 そこで、小さな違和感に気付く。

 こんな服だったか……?

 見慣れない服。


 何か絵が描いて……。


 そこでまじまじと見てしまい、目を逸らす。


 これ……も、ゲームの……。


 部屋に帰って直後に、その場で着たのか……。


 エマがトランクを受け取ろうと、手を差し出してくる。

 渡さずにいると、

「ヴァル?」

 と、怪訝な顔をした。


「そんなにそいつがいいの?」


「へ!?」


 エマが、慌てた声を出す。

「あ……これ……」

 イラスト入りの服を着て部屋を出てきたことに、やっと気付いたようだった。

「これは……あのね」

 シャツを若干引っ張りながら、しどろもどろする。

「だってこれ……ヴァルだから」


 俺だから?


 ……ふぅん。


 トランクを渡しながら、耳元に近付く。


「じゃあ、もっとこっち見たらいいのに」


「……え」


 ふわぁっと赤くなっていくエマの顔を見る。


 目の前に本物がいるのに。

 本物じゃダメなのか?


「じゃ、それ脱いだら食堂来いよ」

「あ、うん」


 今日の夕食当番は、ヴァルとエマだった。

 メニューはかぼちゃのグラタンだ。

 食堂のおかみさんが、いいかぼちゃが入ったからと、届けてくれたかぼちゃがあった。それもなかなか大量に。


 ヴァルは、食堂で、マルッとしたかぼちゃと向かい合う。

 よく研いだナイフを右手に持つと、狙いをつけてかぼちゃにナイフを向けた。

 ストン、とナイフを下ろすと、かぼちゃは真っ二つだ。

 サクサクとかぼちゃをスライスしていく。


 カチャリ、と食堂の扉が開いて、エマが入ってきた。

「えへへ」なんて言いながら、調理に参加する。


 キッチンに立つエマは、どことなく嬉しそうな顔をしていた。

 いつになく目がキラキラして、鼻歌まで歌って。


 6人分の食事は、なかなかの量だが、もう慣れたものだ。

 グラタン皿をオーブンに突っ込むと、エマをじっと見た。


 ……俺の敵は本当に、“俺”なんじゃないだろうか。


 エマは呑気に、ゆで卵と格闘し始める。

「ゲームでの俺の魅力、って何?」

「へ!?」

 エマのびっくりした顔が、こちらを向いた。

ここでヴァルが登場しないわけがなく。

自分がモデルのキャラクターグッズなんて、やはり複雑なものでしょうね。

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