18 転生少女は過去の英雄に恋をする(1)
5年が経った。
エマは、10歳になっていた。
今もきっとどこかにいるジークのことを助けるために、語学に歴史に礼儀作法にとたくさんのことを学んでいた。
いつか、ジークに会えることを夢見て。
会える可能性が少しでもあるなら。
期待……しても、いいんじゃない?
心臓は高鳴る。
だって、異世界転生だし。
異世界転生といえば、ゲームの知識を総動員して生き残るってやつでしょう。
この転生だって、そうなんじゃないの?
じゃなかったら、ゲームの記憶を持ってこの世界に転生した意味がないんじゃない?
記憶を持ってるけどゲームの世界でただ平和に暮らしました、なんてお話じゃ、誰が聞いたってつまらない。
だって、確かにここはセラストリアなんだから。
勉強机から窓の外を眺めて、ジークが歌っていた歌を鼻歌で歌った。
『メモアーレン』はフルボイスで、1度だけ、ジークが歌ってくれたシーンがある。
王城の屋根の上、庭園を見ながら、星空の下でジークは歌っていた。
ログをみることが叶わない世界。歌っておかないと忘れてしまうかもしれないから、時々歌うようにしている。
この生活で、いつかこの歌とも出会いたい。
どこのどんな歌なのかわからないから、今は調べようがないけれど。
学習室に入ったら、ジークについてわかることもきっとあるよね。
……本人がいるかもしれないし。
鳥が飛ぶのを見ながらぼんやりしていると、お茶を持ってルチアが部屋を訪ねて来た。
「お嬢様、お聞きになりました?王様がこの街を通るらしいですよ」
王様?
「なんでも王妃様と視察に行く道すがらだとか」
『メモアーレン』を思い出す。セラストリアの王様といえば、ヒゲダンディのおじさまだ。
そして、王妃様といえば、白金色の長い髪をした、まるで女神のような方だとか。
立ち絵で見たことあるけど、美人だったなぁ。
実際に見られるなら、見てみたい!
手際良くお茶が入れられる。
「ありがとう。この時間は夕食作りで忙しいよね」
「いえいえ。今日は2人で作っているので余裕ですよ〜」
ルチアはにこにことしている。
マリアやルーシンは侍女としての仕事が中心だけれど、ルチアは食事や掃除がメイン。家の仕事はほぼルチアがやっているはずだった。
「午後は、この子爵邸に立ち寄られるそうですよ」
言い残して、ルチアは部屋を出て行った。
どうしよう。
何を着よう?
1週間後、というので、1週間後は1日時間を空けておいた。
慌てて庭へ出る。
「ライリー!王様が通るところを街で見たいから、馬車を出して欲しいの」
「あいよー」
花壇から顔を上げたライリーは、エマの押しの強さに驚く。
「え、お嬢様、なんか近いっすね」
「朝、遅れないでね」
「そりゃあ、もちろん」
いつも飄々としているライリーも、ちょっと驚いた顔だ。
ここで10年生きて来たけれど、ゲームに関係する人を見るのは初めてのこと。
ゲームは基本的に王都が舞台。王都の外に住んでいるエマには、出会う機会などない。
ドキドキ、する。
それから1週間は、服選びや礼儀作法の勉強などであっという間に過ぎた。
なんて、楽しみなんだろう。
第20話で一区切りになります。やっと第20話でお相手も登場します。
転生編ラストエピソード、お楽しみください!