17 お土産
エマは、部屋に置かれた大量の品物と対峙していた。
「どれでも好きなものを好きなだけ持っていくといいよ」
全て、父が持って帰ってきたお土産だ。ドレスや宝飾品はもちろん、見たこともない部屋飾りや食料品まで……そのどれもが、エピソード付き。さすが、5年もかかっただけはある。
「う〜〜〜ん、これは?」
「北の方の山岳地帯に、山羊を飼っている民族がいてね。戦闘民族なんだけれど、山岳への登り方がすごいんだ。その山羊のミルクでできたチーズをもらうために、私も崖登りにチャレンジしたよ」
まだ、緊張はするけれど、それなりに会話ができるようになってきた。
帰ってきたときとは打って変わって、動きやすそうな商人衣装に身を包んだ父と、なんでも興味津々の母と、明るいサロンのふわふわ絨毯を足の下に感じながら、品物を見てまわる。
父親の声はなかなかの癒し系だ。もしやこの声で商売が成り立ってるんだろうか。
一つ一つ覗いているエマの横で、「これはエマのために手に入れたものなんだ」と父がマリアに品物を渡す。これもこれもと渡していくので、すでにマリアの両手はいっぱいだ。
「これは、シュバルツという土地の……」
父が言いかけたところで、エマはがばっと振り向いた。
シュバルツ……。
まさか……。
ジークの名前……「ジークヴァルト・シュバルツ」を思い出す。
「シュバルツ……伯爵……」
呟いたところで、父の顔がパッと輝いた。
「よく知っているね。ここより北西に位置するシュバルツの地は、シュバルツ伯爵が治めている。ここより少し寒いんだけど、綺麗な山や森が多くてね」
エマの手に、ころんと宝石が乗せられる。窓から入る光に照らされた、金色の水晶のような石。
エマの瞳が宝石のように輝くのを見て、父は満足そうに微笑んだ。
「これは、シュバルツで取れた石なんだ。シュバルツは清らかなものが多いから、この宝石もいい魔力の依り代になるよ」
「魔力の、依り代?」
言いながら顔を上げると、父親と目が合った。
まだ父親という実感はなく、ちょっと照れる。
「そう、魔術を使うときには精霊の力を借りるんだけれど。精霊は綺麗なものが大好きだからね。その綺麗なものに魔力を込めることで、精霊が気付いて力を貸してくれるんだ」
ふと、ジークの短剣を思い出す。
ああ、杖とか短剣のことか。
この国の魔術師は大抵杖を持っているけど、実は精霊の好むものならなんでもよかったのね。
「これも……もらっていいの?」
「もちろんだよ」
「あ、ありがとう、お父様」
エマはとても、嬉しそうに笑った。
「私……魔術師になれるかな?」
そう言うと、父と母がにっこりと顔を見合わせた。
「きっと、いい魔術師になれるよ」
もらった宝石は、街の職人さんを紹介してもらい、身に付けやすい腕輪に加工してもらった。
これで、魔力を込める練習をすることで、その人の魔力に馴染んで、その人だけの魔力の依り代となるらしい。
いつか、翼竜も倒してしまうような、そんな魔術師になろう。
日の光に腕輪をかざすと、宝石はエマの気持ちに応えるようにきらりと光った。
エマちゃんが魔術を使うための腕輪を手に入れました。魔術師に向けての一歩ですね。