165 王室図書館(2)
ほとんど人の声の聞こえない建物内で、それでも人の出入りはそこそこあるようだった。
案内カウンターの左側を見ると、大きな本棚の列が見えた。右側はよく見えないが、同じような雰囲気だ。
推薦状が通ったら、あの奥に入れるんだろうと、そう思っていた。
「こちらへ」
と通されたのは、階段を上がった3階にある事務室のような場所だった。
また、ソファに座り、しばらく待たされる。
……こんなに大変なものなんだ…………?
ゆうにお茶1杯分待った後、やっと事務室の扉が開いた。
「こちらのお二人が」
と言って、案内の司書さんに連れられ入ってきた、男性がいた。
「…………」
エマとリナリ、慌てて立ち上がった二人の口がぽかんと開いた。
この…………人……。
なんて……優しい雰囲気を纏った人なんだろう。
窓が小さく、あまり光が入らないようになっているその部屋。
その薄暗さの中で、その儚さと優しさは、とても絵になるものだった。
目が離せない。
二人、その男性を見上げる。
司書専用の黒いローブを着た、大人しそうな、優しそうな男の人。
少し崩れたくすんだ色の髪を一つに纏め、それを肩に流している。
くるんとした楕円の眼鏡の奥には、キラリと光る切れ長の目が覗く。
ここに居るとは聞いていたけど、こんなに早く会えるとは思っていなかった。
この人は……、『メモアーレン』の攻略対象の一人、レーヴ・ラビラントだ…………!
なんて……、なんて絵になるイケメンなの……。
今までに会った3人の攻略対象とはまた違うかっこよさ。
シエロが空に舞う天使なら……、キリアンが太陽を背にした騎士なら……、ヴァルが馬に乗り森に佇む英雄なら……。
この人は……、この、人が作りし古き良き建物の薄暗い部屋を行く小さく淡い光……。
ああ…………っ!なんてかっこいいの…………!!
肖像画が似合いそう……。
ゲームでは21歳だったから、30代後半か……。
いいな…………。
『メモアーレン』があのお爺さんの日記帳だったことなんてどうでもいい!!
前世からこの心を熱くする攻略対象には違いないのだ。
「あなた達が、サンティさんから“推薦状”をもらってきた学園生ですね」
ゆったりした喋り方が癒しになる。
二人してちょっと泣きそうになったところで、先に立ち直ったのは、エマの方だった。
「は、はい」
「“推薦状“……」
レーヴが緩やかに首を傾げる。
つられて、エマも一緒に首を傾げた。
「何か……?」
「入館証を渡すだけなら、“紹介状”だけでいいんです。ここまでの“推薦状”は、仕事をする時のものですよ」
「え……?」
仕事?
王室図書館の仕事。
それは魅力的ではあるけれど、寝耳に水だ。
その時、かっと目を見開いたのはリナリだった。
「あたし……!ここで働きたいです……!」
「…………!!」
びっくり、した。
劇で監督をやってから、リナリのやる気が目に見えるようになってきたとは、思っていた。
でも、こんな声出すなんて。
「働かせてください!」
頭を、がばっと下げる。
レーヴが困った顔をした。その困った顔ですらどこかしら温かみがある。
「あなたは学生さん、ですよね。こちらには、いつまでいらっしゃいますか?」
「あと、7日ほどです」
「あなたも働きますか?」
レーヴがエマの方を見たので、「もちろんです」と返答した。
レーヴがにっこりと微笑む。
「では、お二方、その中の数日間、働いていただきましょうか」
二人の顔が綻ぶ。
「はい!よろしくお願いします!!」
新しく登場した攻略対象さんはこの人〜!
ちょっとぽんやりした眼鏡のお兄さんです。
名前だけはずいぶん前から出てきていましたが、やっと登場〜!