164 王室図書館(1)
王都であっても、できる限り2人以上での外出が推奨されていた。
翌日、エマは、リナリと共に絵師エリオットの元へ行った。
スケッチブックに向かうエリオットの手元をじっと見る。
サカサカと、鉛筆が紙の上を走る音が聞こえる。
リナリは静かに、少し離れた場所で本を読んでいた。
付き合わせてしまって申し訳ないな。
「エリオットさん」
「どうしたの?」
エリオットは顔を上げず、声だけで対応した。
「王室図書館に行ってみたいと思ってるんですけど、誰でも入れるものなんですか?」
エリオットは鉛筆を顎に当て、「そうね」と少し考える顔をした。
「エマさんは、本が好きなの?」
「はい。私もですけど、リナリの方が」
名前を呼ばれ、リナリが本から顔を上げた。
「リナリさん、本が好きなのね」
「はい。魔術に関する本が多いですけど」
エリオットが本の題名に目を走らせる。リナリは丁度、レーヴ・ラビラントの著書を読んでいた。
「研究論文、好きなの?」
「はい。今、昔の精霊に関する本を重点的に読んでいて」
「あなたも、王室図書館に入りたいのね」
「はい」
そう静かに言ったリナリの目は、その声とは裏腹にキラキラと輝いていた。
「図書館は誰でもは入れないの。けど、私なら図書館に推薦状が書けるわ。あなたたち2人なら推薦してあげてもいいわね」
「本当ですか?ぜひ!」
エリオットが絵を描き終わると、正式な推薦状を書いてくれた。
最後に大きくサインを入れる。
この絵師さんはもしかして、この国でも結構すごい人だったりするのかな。
その推薦状を受け取った時、リナリの顔が綻んだ。
あ、やっぱりリナリとならここだって思ったんだ。
せっかくだから、リナリが行きたい場所にも行きたいし。
それに、もしかしたら、『メモアーレン』の攻略対象であるラビラントに会えるかもしれない。
ここで司書をしているらしいから。
二人は、その足で王室図書館まで出かけた。
王室図書館は、王城の側にある。
もちろん王族が使うために建てられた図書館だ。
けれど、その図書館は王城とは離れて建てられており、関係者の紹介で入館証を得られれば、誰でも入ることができる。
「入館証、もらえたらいいね」
「エリオットさんも学園の人間なら可能性高いって言ってたし、大丈夫じゃないかな」
そこから数十分ほど。てくてくと歩いた先に、その大きな建物はあった。
「こ…………ここが…………!」
興奮気味なのはリナリの方だ。
「おお〜……」
感嘆の声が出る。
王城と合わせたグレーの石造りの大きな建築物。
「ちょっと緊張するね」
リナリが、小さな声で言う。
エマの腕につかまり、おどおどとリスのようになっていた。
大きな扉をくぐり、ホールに入ると、正面に案内所のようなカウンターが目に入る。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶をすると、司書専用の落ち着いた色のローブを着たお兄さんが、顔を上げた。
「私達二人、図書館に入りたいのですが。推薦状も貰ってきました」
「推薦状……?拝見しますね」
そう言って、差し出した手紙を渡すと、司書さんは丁寧に中を確かめた。
「エリオット様の。わかりました。そちらでお待ち下さい」
案内の司書さんが示したのは、ロビーの片隅に置いてあるソファだった。小さなテーブルも据えられている。
二人、ちょこんとそのソファに座った。
さてさて、ラビラントさんはいったいどんなキャラなのでしょうか。