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163 異世界転生ってこういうのでしたっけ(2)

 ベッドの上に、大切なクッションを形を整えて、綺麗に飾る。

 ぽんぽん、とクッションを軽く叩く。


 学園では、男の人が部屋の扉をノックすることなんてないから、気が抜けちゃってた……。

 まさか、推しグッズで充電しているところを推し本人に見られるとは。

 余りにも気まずすぎるし。


 異世界転生って…………こういうのでしたっけ…………。


 私も、もっと典型的な……、推しの目の前に婚約者として転生したはいいけど悪役令嬢でなのに婚約破棄なんかされなくてすごく溺愛される系の異世界転生がよかった……。


 そんなことを考えながら、グッズにあるジークのイラストを見る。

 うん……、溺愛キャラじゃないな。


 推しのグッズを見渡す。

 でもだってそりゃあ……、本人が居たって宝物は宝物だもん。


「は〜〜〜〜〜〜あ」


 エマは、大きなため息を吐く。


 夕食をなんとか笑顔を装って平らげる。

 そういえば、チュチュとリナリは今日の夕食当番だったんだ。

 呼びにきてくれたのも……親切だったんだろうなぁ。


 夜。

 一人になるとまた、ため息を吐いた。


 こんな日は、いつも『メモアーレン』をしてたっけ。

 そして、ジークのクッションを抱えて。

 ジークの歌を聴いて。


「…………」


 そうだ。


 このデータ、王子様ルートを最後まで攻略したデータだって言われてたんだ。


 もしかして、ジークの歌も聴けるのかな。


 エマは、スマホの画面をじっと見た。

 躊躇しつつも、音楽の画面を開く。

 いくつか選択できるようになっている曲の一覧が見えた。


 画面をスクロールしていくと、その曲は存在した。


「…………」


 緊張する。

 久しぶり……というよりも、初めて聴く気分だ。

 記憶があるとはいえ、やっぱり体験としては初めてだもんね。


 音量……良し。

 震える手で、タップする。

 すかさず、お気に入りのジーククッションに顔を埋める。

 手探りで、クッションを抱え直した。


 小さなブレス音のあと、アカペラでのジークの歌が始まる。


『朝 太陽が照らすなら』


「…………」

 エマはゆっくりと顔をあげ、スマホの画面をじっと見た。

 画面には、曲の一覧が表示されている。


 ………………どうして。


 どうして…………スマホからヴァルの声が聞こえるの。


 確かに、耳慣れた曲が聴こえてきた。

 この国の言葉で。


 けど、歌っているのは、ヴァルだ。


 どう聞いたって、この声はヴァルの声にしか聞こえない。

 ヴァルの声を間違えるはずない。

 けど、どうして。

 録音しなおしたなんてこと……ない、でしょ。


「…………」


 呆然としたあと、はっとする。


 違う。

 これが、ジークなんだ。


 元々の、ジークの声なんだ。


「どうして……」


 私はどうして、違うと思ってしまっていたんだろう。


 私は、もともとヴァルもジークも知っていた。

 だから、なんとなく別の存在のような気分になっていた。どっちが誰かなんて、考えてしまっていた。


 ジークだから気になるんじゃないかとか。

 ヴァルの中にジークを見ているんじゃないかとか。

 ヴァルを身代わりにしてるんじゃないかとか。


 けど、違う。


 私が、神崎えまと地続きで自分であるように、ヴァルだって、ジークと地続きでヴァルなんだ。


 そうだ。


 私が好きなのは…………あの、ヴァルなんだ。

 ずっと……。


 出会う前からずっと、あの人だけを好きでいただけなんだ。


 なんでそんな簡単なことがわからないでいたんだろう。


 ふと、ベッドに出しっぱなしのジークグッズを見渡した。

 ぎゅっと抱えているクッションもじっと見る。


「…………これ…………」

 これ全部、ヴァルなんだよね。


 その事実にやっと気付いた時、ぶわっと顔が熱くなった。

エマちゃんが恋愛的に覚醒したようです。

そうだ!ハッピーエンドを掴むのは君だ!

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