156 小さなお屋敷(1)
馬車は、城下町の中を横断し、だんだんと町外れまで走った。
城下町の中でも、比較的長閑な場所に建っている屋敷で、馬車は停車した。
赤い屋根の、二階建ての屋敷。
今まで見てきたお屋敷に比べれば、ずっとこじんまりとして居心地のよさそうな家だ。
御者台から降りたシエロが、屋敷を眺めながらくるりと振り返る。
「今日からしばらく、ここが僕らの家だ」
馬車の中から、「わーっ」と歓声が上がった。
ひとまず、全員で庭に集まった。中心にはシエロが立つ。
まるで修学旅行だ。
ここは、魔術師の塔所有の屋敷だということだった。
「僕は、今日はこれから絵師さんに挨拶してくるよ。予定を調整してくる。時間のある日は、これまで通り、午前中は授業、午後はそれぞれの活動としよう」
授業……か……。
流石に、旅行気分だけじゃダメなようだ。
その後、シエロが出かけて5人になってから、掃除と買い出しを手分けしてやることになった。
「じゃあ私今日の夕食当番だし、買い出し行こうかな」
エマがそう言うと、すかさずチュチュが大声を出した。
「あ、ごめんエマ!アタシ、まず実家に顔出さなきゃ。パパが王都にいるらしくて。途中までは一緒に行こう」
今日の夕食当番は、エマとチュチュの予定だ。
「じゃあ、行くか」
と、当たり前のように立ち上がったのはヴァルだった。
「あ、うん。じゃあ行こっか。行ってきます」
エマとヴァルが当たり前のように連れ立って行く。
双子とチュチュが顔を見合わせた。
「いってくるね」
「いってらっしゃい」
ちょっと苦笑いになりながら、挨拶を交わす。
確かに、道もわかっていて、荷物も持てるヴァルを連れて行かない手はないけれど。
街の中を歩く。
人通りは多いけれど、整備されており、歩きづらいことはない。
住宅が並ぶ道を少し歩くと、だんだんと店も増えてくる。
キョロキョロしながら先を行くエマの後ろを、チュチュとヴァルが二人で付いていく形になった。
「中央マーケットでいいんだろ?」
「うん。東も近いけど、中央の方が品揃えがいいから。……そんなことより」
と、チュチュがヴァルに向かって小声になった。
「二人で歩かなくていいの?さっきまではあんなにひっついてたのに」
「あ〜…………」
ヴァルが、珍しくちょっと落ち込んだ顔を見せた。ふっとエマの背中を眺めて、すぐに愛おしそうな顔になる。
「ゲームのこと考えてるあいつ見てると……、あいつが好きなのって、俺じゃないんじゃないかって……」
チュチュが、あからさまに呆れた顔になった。
「うっわぁ…………二次元の自分にヤキモチやいてるの……」
チュチュが、ゲームの中のヴァルを思い出そうとする。
ゲームの中のヴァルは、どう見ても目の前のヴァルにそっくりだ。
「ヘタレ」
「うっせ」
個室がちょうど6部屋、リビング、ダイニング、キッチン、大浴場……。それぞれの部屋は小さいですが、なかなか贅沢なお屋敷なんですよ。