表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/240

153 不本意ですが

 エマは、自分の部屋で一人、ベッドの上で膝を抱えていた。

 デスクの上には、投げ出して触ることもしていないスマホが置いてある。


「…………」


 そのスマホをもらってから数日、エマはそれを触れずにいた。


 それから、程なくして、学園長が帰る日がやってきた。

 今思えば、この学園に滞在する期間は、あっちの世界の活動をしている時だったんだ。そう、それこそ『メモアーレン』のプログラムを組んでいる時とか。


 その日の朝、エマは早起きすると、キッチンで一人、アップルパイを焼いた。

 丁寧にリンゴを切って煮込み、綺麗にパイ生地の上に並べた。

 無心に、ただ綺麗に。


 そしてその日の午後、食堂のテーブルをシンプルに飾り付けると、学園長を食堂に呼んだ。

 テーブルの上には、大きなアップルパイと、大きなポットに入れた紅茶。そして、その横に気まずそうに突っ立っているエマの姿があった。


「どうしたんじゃ?」

 学園長が、優しく問う。

 エマは、その気まずそうな顔のまま口を開いた。

「こんな風にみんなにバレてしまって、騒ぎにはなってしまいましたけど……。学園長が、『メモアーレン』を作ったマループロジェクトのサークル主様だというのは、違いないので……」

 エマはアップルパイを示す。

「今まで、イベントなんかには出ていらっしゃらなかったですし、ちゃんとお礼、出来ていなかったので、お礼、なんです。私、色々ありましたけど、『メモアーレン』には、沢山助けてもらって、思い入れもあって。だから……」

「ああ……、エマの応援は、いつも大切に受け取っていた。こちらこそ、ありがとう」

 学園長が、優しく微笑んだ。


 なんだかんだ匂いにつられて、学園の全員が食堂に集まってきた。

 アップルパイは、結局、学園長を含めた学園全員で食べることになった。


 チュチュが大きな一切れを口に頬張る。

「おいしい〜」

 チュチュの目がくるんとした。


 エマがリンゴの甘みを口の中で感じながら、ふと思ったことがあった。


 食後、学園長を引きとめた。

「学園長……、あの……。聞きたいことがあるんですけど」

「ほう……どうしたかな?」

 エマは、ヴァルをチラリと見て、「ここじゃちょっと……」と小声で言った。

「大事な話かな?」

「はい。とても大事です。すぐ済むんですけど」

 えへ、と冷や汗を隠すように笑う。

「ふむ……」


 それからエマと学園長の二人は、また食堂のテーブルに座り直し、人がいなくなるのを待った。

 そして、食堂に二人になった時、エマがおずおずと切り出した。

 飾りのように目の前に置いてあるティーカップをじっと見つめる。

「私……、今まで何度か、ジーク宛にバレンタインのチョコレートを送ったことがあるんですけど……」

 エマが、がばっと顔を上げた。

「あれって!本人が受け取ったりとかは……!」


 エマに取ってはそれはとても重大で、思いついたら聞かないといけないことだった。

 もし、ゲームキャラじゃなくて、本人が存在しているのだとしたら。

 もしかして……、と、期待せずにはいられない。


「あ〜……」

 学園長は眉をハの字に寄せ、困った顔を作った。

 その顔を見て、エマはその答えが、期待通りではないことを悟った。

「残念ながら、手伝ってくれている絵師やシナリオライター、精霊などに分けさせてもらった。スタッフで美味しくいただきました、というやつじゃな」

「ですよね〜」

 あはは、と笑ってみせる。


 それはそうか。

 得体の知れない人間からのお菓子なんて、そうそう渡すわけがない。

 ……食べてくれただけでもいいと思わないと……。


「……食べてくれて、ありがとうございます……」

「ああ…………。菓子はこれから本人に作ってやってくれ……」

「はい……」


 やっぱりこれが現実かぁ。

さて、次回からは絵師さん訪問旅行が始まります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ