144 エマの来た道
エマは、痛いほどの視線を感じながら、話をした。
「私は……、その“日本”という国にいた記憶があるの」
ヴァルと、シエロが、押し黙る気配がする。
「この、『メモアーレン』という、学園長が作ったゲームをやってた。すごく、好きなゲームだった。その……ジーク様が…………、好きで…………」
ああ、こんな話をすることになるとは……。
ヴァルの方が向けずに、若干シエロの方を向いて話していると、シエロが、「ふむ……」と口元に手を当てて神妙な顔をするのが見えた。
そして、シエロが呟く。
「僕じゃ、ない……」
その一言やめてええええええええ。いたたまれない!!
「でも、たまたま、交通事故で、死んでしまったの」
ヴァルとシエロが、息を呑む。
「気付いたら……、この国の、クレスト子爵の家に、前世の記憶を持ったまま生まれていた」
「転生……?」
と、呟いたのは、シエロだった。
「そう、転生」
言うと、エマは顔を上げた。
「私を転生させたのは、学園長なんですか?」
学園長は少しの沈黙の後、口を開いた。
「そうじゃ」
それは、それが当たり前だというような口調だった。
「エマ……。お前さんは、死んだ後、ジークの魂に惹かれ、自分で異界の門をくぐってきたんだ」
エマは、頭を抱えた。
また、ジーク…………!
どうなってるの、私のジーク愛……。
それも、門をくぐったのが、自分で、なんて。
恥ずかしすぎて、もうヴァルの方が見られない。
お父様、お母様、マリア……、もし助け出してもらえるなら今がいい……。
「ジークの魂と、エマの魂。二人を拾ったワシは……、残っていた秘術を使って、二人を転生させた」
学園長は、顔を上げた。
「それが全てだ」
「…………」
三人は、茫然と学園長を見た。
話はそこで終わりだった。
部屋を出る直前、エマは、ふと思いついたことを口にした。
「もしかして……、『メモアーレン』を作ったマループロジェクトというサークルさんは……」
「ふふふ」
大魔術師が今日一番楽しそうに笑った。
「そうじゃ。ワシのサークルじゃ。多忙な身ゆえ、イベントなどには参加できんかったが……。エマ、お前さんのメッセージは、ちゃんとワシに届いておった。ありがとうな」
「…………」
そうだった。
嬉しかったことはちゃんと伝えなきゃと思って、通販する時や機会がある時には、よかったこと、感動したことなんかを必ず、言葉で伝えていたんだ。
「ふあっ……」とエマが小さな声をあげたかと思うと、そのままぼろぼろと泣き出した。
なんだか、衝撃だった。
ただただ、嬉しかった。
私が生まれ変わる前に生きた人生は、それほどいいことはなかったけれど。
ジークという心の支えがあったこと以外は、あまりいいものもなかったけれど。
全部、繋がってたんだ。
私がいた場所と、ジークが……ヴァルがいる場所が。
私の人生はちゃんと、ここまで繋がっていたんだ。
……ずっと、ジークを好きでいてよかった。
恋愛シミュレーションゲーム『メモアーレン』の音楽は、精霊たちが歌った歌を、録音したり、大魔術師自ら編曲したりしたものが使われています。