142 大魔術師の落とし物(2)
エマは、それに触れるのを躊躇した。
どうして……、これがここにあるの。
けれど、意を決して、それを拾い上げた。
手に触れる金属の感触。
震える手で、学園長の方に向き直り、けれどそれを渡すことはせずに、学園長の顔を見た。
学園長は、誤魔化し笑いもそこそこな、冷や汗たらたらといった表情でこちらを見ていた。
「学園長……これ……」
喉から声を振り絞るように出す。
足が地についていないように感じる。
頭の中が、真っ白になる。
その時、エマが手に持っているそれから、音楽が流れ出した。
あ、大変、画面ついちゃってた。
流れ出す、軽快なイントロ。
柔らかなベース音。
楽しげな電子音。
ビクン……ッ、とエマの心臓が跳ねた。
これは…………。
これ…………、は…………。
エマが手に持っているスマホの画面に映し出されたのは、エマが前世で何度も何度も繰り返し見た、あの画面だった。
この胸の中に、強い熱としてずっと居座っているもの。
『メモアーレン』のオープニング映像だ。
泣きそうになって、けれど、今、どんな状態だかを思い出す。
その場にいる全員が、エマが持つスマホの画面を凝視していた。
画面には、5人の攻略対象の絵が、次々と描き出されていく。
わあああああああああああああああ。
これ、電源どこ!?
こんな機種見たことないし……!!
慌てているうちに、どんどん画面が変わる。
画面に、攻略対象キャラのイラストと名前が表示されていく。
『ランドルフ・セラストリア』
キャラ紹介に入っちゃった!!
『ジークヴァルト・シュバルツ』
ああああああああああああああああああああ。
久しぶりに見る推しの顔………!でも状況が最悪…………!!
本人がガン見してる…………!!!!!!
『シエロ・ロサ』
画面はどんどん変わっていく。
『キリアン・コンスタン』
投げ……!?
ダメか…………!
『レーヴ・ラビラント』
ああああああああああああああああ。
やっとスマホの脇に電源ボタンを見つけ出し、押したはいいけれど、時すでに遅し。
そこにいる全員が顔色を失って、その画面を見つめていた。
そこには、長い長い沈黙があった。
沈黙を破ったのは、学園長だった。
「ちょっといいかな、エマ……」
エマが顔を上げると、困り顔で笑っている学園長の姿が見えた。
「それに、ヴァル。シエロ。……君たちは、ワシの部屋へ来なさい」
「…………はい」
なんとか声を絞り出したのはエマだけで、後の二人は声を出すこともしなかった。
沈黙のまま、三人は黙って学園長に続いて、男子階の一角にある学園長の部屋までたどり着いた。
他の部屋とも同じ、なんの変わり映えもしない扉。
学園長の手によって、扉が開けられる。
黙って入ろうとしたエマが、そこで立ち止まり、戸惑いを見せた。
え…………?
攻略対象5人の名前が並んだのは初めてですね。
未登場の2人もそのうち登場させる予定です。