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139 秋祭り最終日

 劇は、順調だった。

 とうとう学園が祭りに初参加ということで、町では話題になっていた。それゆえ、期待外れだと思われたらどうしようかと思っていたけれど、広場に集まった人々は、温かく迎えてくれた。


 エマが一人、舞台に立ち、叫ぶ。

「こんな場所へ来てくれなくてもいい……!忘れてくれていい……。あなたが幸せなら……」

 エマの声に聞き入るように、広場が静まり返る。

「あなたの幸せが、私の願いだ……!」


 二人の再会シーンでは、どよめきが起こる。

 みんなが、見てくれている。


「あなたの永遠の命は……、なくなってしまったんですね」

「これでよかったんです。これからは、あなたと共に生き、あなたと共に死ねるのですから」

 そうして、手を取り合い、エンディングを迎えると、広場中から歓声と拍手が巻き起こった。

 最後に、全員で並んで挨拶をする。

 ちょっと感動してしまう。


 4日目も大盛況に終わり、それは、5日目のことだった。

 5日目の公演は、夕方を過ぎた頃だった。


「これで、最後だよ。がんばろう」

 シエロが鼓舞してくれる。

 重い紫色のドレスで女王様ファッションに身を包んだシエロだけれど、見なければいつものシエロだ。顔を見てしまえば、あまりにも美人過ぎて、「これが本物の精霊なのでは?」と思ってしまう程だけれど。

「がんばろー!」

 チュチュが大きな声で気合を入れた。

「おー!」


 最後の劇も順調だった。


「その後ろ姿……。知っています。どうか……こちらを向いて」

 舞台の上。エマの後ろ姿にチュチュが問いかける。

 すっかり太陽は沈んで、星が所々に顔を出している。

 広場は相変わらずの人出で、かなり多くの人が舞台に注目していた。


 もう少し。

 もう少しというところだった。


 ばちん!


 どこかで音がして、ふっと目の前が暗くなった。

「……!?」

 周りを見渡す。

 多くの騒ついた人影が見える。

 ……停電?

 騒つきが、大きくなってくる。

 舞台袖で、暗闇の中、ヴァルの声がした。

「祭り用の電線が切れたみたいだ。俺が見てくる。あと、頼む」

 そう言うと、ヴァルらしき影が動き、どこかへ走る音がした。

 ……この沢山の人を、混乱させるわけにはいかない。


 エマは、一際声を張った。

「その声……!まさか……!」

 芝居を続けて、この場を落ち着かせないと。

 エマは、チュチュに背を向けたまま、声を上げる。

「私の愛しい人なのですか。ああ、この色のない人生の中で、どれだけあなたを求めたでしょう!」

 ぐるん、と振り返る。

 暗い中、チュチュの影が見えた。

 なんとか、広場の人達も舞台に注目してくれているようだ。

「……精霊様……?精霊様なのですか……。ああ、もっとよく顔を見せて……!」

「ええ、いいでしょう!」

 エマが叫ぶ。


「輝け!」


 エマの腕輪の石の前に、魔法陣が現れ、弾けるように消える。

 広場の上に、キラキラと、いくつもの光が輝いた。

 広場が明るくなり、舞台も問題なく見えるようになった。

 舞台の上では、エマとチュチュが向き合っていた。

「私が探していた乙女……!乙女よ……!やっと見つけた……!」


 舞台は、そのまま、問題なく続けられた。

 エンディングを迎え、歓声と拍手が巻き起こったところで、広場の明かりがパッと点いた。


 よかった。


 エマが、両手を上げ、手をぐっと握ると、エマの魔術の光が空気に溶けるようにさっと消えた。


 ぱたん、と手を下ろす。


 なんとか……なった、のかな。

 ぼんやりとしていると、左手を、誰かに取られた。

 ふと見ると、チュチュがそこにいた。

「あ・い・さ・つ」

 そうだ。挨拶。

 みんなで並んで、大きくお辞儀をした。


 終わった、のかな。


 うまくいった、のかな。


 頭がフラフラして、ぼんやりとしていたのに。


「お疲れ」

 耳元で、ヴァルの声がして。


 うわあああああああああああ。


 ぶわっと目が覚めた。

次回、お祭りエピソードラストです!

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