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134 今日もそんなセリフを

 夕食の終わり。


 エマが、チュチュの前に紅茶を置くと、チュチュがエマの前で潤んだ瞳を見せた。

「……精霊様……?精霊様なのですか……。ああ、もっとよく顔を見せて」

 言われたエマは、一度顔を逸らし、激しく振り向いた。

「……ああっ……!」

 エマが勢いをつけてそう言った時、

「ぶはっ」

 とヴァルとメンテが吹き出す。

 エマが、顔を作る。

「私が探していた乙女……!乙女よ……!やっと見つけた……!」

 ヴァルはもう下を向いてヒクヒクと笑ってしまっている。


「ああ……。もう離さないで」

「ええ、もちろん」

 エマが、チュチュの顔に、顔を近付けると、目の前で、「ちゅっ」とキスのふりをする。

 リナリがそれを、少し潤んだ瞳で見ていた。


 練習は進み、それぞれの役者も、台詞を覚え、事あるごとに練習に励んだ。


 授業中ですらそうだった。

「はい、じゃあこの証明問題、やってくれるかな。チュチュ」

 シエロが、黒板の前でにっこりとした。

 チュチュが、その場に立ち上がり、両の手を胸に押し当て、俯いた。

「お母様……。何故そのようなことを私に?」

 ふふっ、とそこここで声が漏れる。

 シエロが、ちょっとムッとした顔をし、

「あなたの為を思って言うのですよ。さあ、あの弓兵を連れ、森へ行きなさい」

 と、劇に乗っかっていったので、もう、みんな笑いを堪えるのに必死だった。

 結局、シエロが“弓兵”としてメンテを差し示したので、その数学の証明問題もチュチュがメンテに手伝ってもらいつつ攻略することになった。


 そんな練習が進み、いよいよ祭りの1週間前。

 学園では、舞台稽古を始めた。


 学園のメンバーは全員、毎日大広間に足を運んだ。

 そこに大道具を置いて、舞台に見立てた。


「第一幕から通しで!ヴァル!準備はいい?」

 リナリが指示を出す。

 音楽を流すため、蓄音機の横に待機しているヴァルから合図が出た。

 音楽が流れ、物語が始まる。

 舞台の中心にはチュチュが佇む。

 ふわっとチュチュが前を向く。

 その瞬間、エマの心臓が跳ねた。

 すごい……空気が変わった。

 みんな、演技が上手い。


 舞台袖で、深呼吸を繰り返す。

 頭の中で、最初の言葉を繰り返す。


 私は、森で乙女と出会う精霊。

 乙女に心を開く、精霊。


 私は精霊。私は精霊。私は精霊。


 場面が転換され、精霊の登場シーンになった。


 緊張する。

 舞台へ踏み出す。


 チュチュの顔を見ると。


「ああ、大丈夫だ」と、そう思った。


 今まで、冗談混じりに練習してきた言葉を思い出す。

 いつもの、チュチュの顔だ。


 そうだ。

 この子は、森に迷いこんできた、乙女だ。


 ふっと笑って、エマは、台詞を口に出した。

「こんなところに何の用?」

 声が出る。


「迷いこんでしまったのです……。あなたは……もしかしてこの森の……」

 エマの台詞に呼応して、チュチュが声を出す。


 物語が始まる。


 演劇って、こんなに楽しいんだ。


 そう、きっと本番だって楽しくできる。

 いよいよ、本番まで1週間だ。

正直なところ、チュチュはこの学園の中では、一番勉強が苦手です。

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