表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/240

129 幸せにする方法(1)

「今読んでる小説、運命の物語なんだ」

 リナリが興奮気味に持っていた一冊の本を示しながら言う。


 どうやらその本は、恋愛ものらしい。

 出会って惹かれあった精霊と人間が殺され、生まれ変わって結ばれるという転生ものだ。

 という話をリナリが一息に語ったので、珍しいものを見た気がした。


「だからね、もしかしたら前世で出会っていた運命の相手なんじゃないかって……!」

 リナリの目がキラキラしている。

 確かに前世の記憶は持っているけれど。そんなにいいものじゃない。ものすごく一方的な気持ち。

 ジークの世界には、私の存在なんてなかった。

 一方的にジークの死がショックで、死んでしまったような、あっけない前世だ。


 そこで、ふと、思ったことがあった。

『ジークを幸せにする同盟』のことだ。

 確かに、ジークの一生は、あまり自由なことができなかった印象がある。

 王太子と年齢が近いというだけで、小さい頃から決められた道を進んできた。

 魔力が強いというだけで、魔術師の道がすでにそこにあった。

 ……主人公のことを好きだったようなのに、それも告白ひとつできずに死んでしまった。


 いつも一人だった。

 いつも悲しい目をしていた。


 もし、自分の手で少しでも幸せな気持ちにできるのだとしたら、もちろんしたい、と思う。


「…………」

 エマは二人に向き直った。

「そういう運命の相手ではないんだけど。ヴァルにね、少しでも、楽しいとか幸せとか感じてほしくて。……ヴァルが好きなものって何だろう?」

 すると、二人して呆気にとられた顔をして、同じタイミングで顔を見合わせた。

「ヴァルが好きなものって……」

 言いながら、また二人してエマの方を見た。

「……え?私、何か変なこと言った?」

「ううん」

 リナリがフルフルっと顔を横に振る。


 チュチュが、腕組みをして、軽く首を傾げた。

「エマがすることなら、何でも嬉しいと思うよ」

「なんでも?」

 う〜ん、とエマが思案する顔になった。

「そういう厚意って嬉しいし、ヴァルはそういうの受け取ってくれる人だとは思うけど」

 そう言うと、チュチュが面白そうに笑った。


「エマと歩くだけでも、エマが笑うだけでも嬉しいと思うよ」


 エマが、きょとんとした。

「それは言い過ぎじゃない?」

 あははっ、と笑った。


 とはいえ。


 最近、緊張のあまり、ちゃんと話もできてなかったからなぁ。


 翌朝、エマは玄関ホールに居た。

 その日の朝の馬当番がヴァルだと知っていたからだ。

 厩舎まで行って、話でもしようかと思ったのだけど、緊張が拭いきれずに玄関ホールでずっと、深呼吸をしていた。

 階段のところで、何度も深呼吸をする。


 ヴァルが、階段を上がってくるのが見えた。

「エマ」

 先に声をかけたのはヴァルだった。

「どうした?」

 エマは、えへへ、と誤魔化すように笑いながら、必死に髪を撫でつける。

「えっと……」


 絶対、私、今、変な顔してる。

 こんなところまで来る理由もないし。


「何か困ったことでも……」

 そう言いかけたヴァルの言葉を遮るように、エマが口を開いた。


「お、おはよう……っ」

 言いながら、ヴァルに笑いかける。

 顔が熱くなるのを感じて。

 心臓がバクバクする音を聞いて。

 それでも。


 真っ赤な顔のまま目も逸らさずに、わざわざやってきて朝の挨拶をするエマを見て、ヴァルが一瞬足を止めた。


「…………」

 おかしな沈黙が流れる。


 やっぱり、おかしいんだよ……!


 突然、挨拶だけなんて……。


 あんまりうまく笑えてる自信もないし。


 流石に笑顔一つで幸せな気分にするのは無理がある!


「…………それだけ」


 と、小さく言ったエマの目の前に、ヴァルが歩いてきた。


 ヴァルが少し俯いて、

「おはよう」

 と、一言声に出す。


 どんな顔をしているのかわからなかった。

 ヴァルが先に立って、歩いて行ってしまったので、エマがその背中を見たまま立ち尽くす。

 すると、ヴァルが玄関ホールの真ん中ほどで振り返り、足を止めたので、待ってくれていることがわかった。

 追いかけて、隣を歩く。


 会話もなく、二人ただ並んで、階段を上った。

学園で小説を読むのは、リナリ、メンテ、エマ、それに大魔術師くらいですかね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ