127 本物なんだ(1)
2日後には、いつもの生活が戻ってきた。
午前中は、授業。午後はそれぞれの実技や研究などの活動を行う。
最初の授業は、ヴァルもいた。
席が離れていてよかったのか、悪かったのか。とにかく、気になって仕方がない。
最初の授業は数学だ。
課題を解き終わると、数学の本に隠れて、ヴァルを眺める。
じ……っと見る。
伏し目がちな横顔。するりと落ちる前髪。
「…………」
こんなことで。
こんなことで実感するのはちょっと変だろうか。
けど。
そのヴァルの横顔は、確かにジークのものだった。
本当だ。
ヴァルは、ジークなんだ。
見れば見るほどそうだった。
……学パロに手を染めたことはないけど。こういう感じなんだろうか。
教室にいる推し……。
数学の問題を解く推し……。
なんだこれ。ちょっと笑っちゃう。
それに、やっぱりヴァルをジークとして見るのは、ちょっと間違ってる気がする。
ヴァルはヴァルだし。
ジークじゃないし。
……何か、今まで通り接しないと、悪いことをしているみたいだ。
ヴァルを身代わりにして、推しとして扱うようなこと、してるみたいだ。
”身代わり“……。なんて嫌な言葉。
「百面相ちゃん」
後ろから、囁かれる。
「き、きゃあああ」
しんとした教室で、一人、悲鳴をあげてしまった。
「せ、先生……」
後ろに立っていたのはシエロだった。
そりゃそうだ。
授業中に、ヴァルを眺めてはニヤニヤしたり、落ち込んだりしていたら、注意されるに決まってる。
隠れられてなかったかぁ……。
みんなの視線が痛い……。
「すみません……よそ見をしていました」
下から眺めるシエロは、実に先生らしい顔をしていた。
「エマ、午後は僕の授業を受けたいみたいだねぇ」
「あ、あはは。そうですかね?」
「じゃあ、夏休み前にやってた光量調節、復習しておこうか。午後は実習室ね」
「はぁい」
久しぶりの、みんなで揃ってのお弁当で、また日常を感じた。
メンテが入れてくれたアイスティーの氷が、カラン、と音を立てる。
お弁当をパカッと開けると、揚げ物のいい匂いがした。
「アジフライだ〜」
ここ、シュバルツには海が無いので、魚介類は珍しい。
「ほんとだ〜!いっただっきまーす」
「美味しい〜」
アイスティーを口に運ぶ時、不意にヴァルが目に入った。
「…………!」
ヴァルが食事をしているだけで、流石にここまで意識することなんてなかった。
ストローでゴキュゴキュと、音が出るほど力いっぱい吸い込む。
目に入るだけで。
食事をしているってだけで。
……重症すぎるでしょ……。
ひとつ深呼吸をしてから、白いご飯を口に押し込んだ。
次の物語の中核に入る前に、しばらくほんわかで学園生活をしてもらおうと思っています。