123 戦闘訓練(1)
ヴァルとエマを乗せた馬は、カポカポと歩いた。
このまま学園まで帰るのはいいけど、このまま二人きりというのは、心臓が持たないかもしれない。
気を抜くと、汗と涙でドロドロになってしまいそう。それくらい、ヴァルの近くにいることに緊張していた。
長閑すぎるくらいの青い空の下を、カポカポと歩く。
のんびり木陰の道を歩いていると、後ろから、少し速い馬の足音が近付いてくるのに気がついた。
ブルルン、と追いついてきた馬が鳴く。
「申し訳ありません、ジークヴァルト様」
「……キリアンの所の……」
ヴァルが馬を止めた。
それは、キリアンの家に仕える男性だった。
「……何か?」
「こちらを、キリアン様から」
と、手渡されたのは、侯爵家の紋章が入った封筒だった。
今別れたばかりなのに?
ヴァルが乱雑に封筒を開けると、中にはヴァルとエマ宛の招待状が入っていた。
今日から夏休みが明ける10日ほど、学園のみんなを、今出てきた屋敷に招待してくれるらしい。
「今日から……」
「あいつ、面白がってんな。こんなの誰が……」
と言ったところで、ヴァルはエマの目が興奮気味に輝いていることに気がついた。
エマは、じっと招待状を眺める。
パツパツ騎士団長にまた会いたくはない。
けど。
あれでもジークのことをよく知っている人物には違いない。
チュチュのパパでもあるし。
正直、興味がないってことは、ない。
「行くか?」
ヴァルが窺うようにエマの方を見た。
そのいつもの視線にさえ、フリーズしてしまう。どうしても、緊張してしまう。
「マリアも置いてきちゃったし、行ってもいい、な……」
「…………」
それにそれに、ヴァルを見ただけでこんな状態なのに、二人きりでやっていけるとは思えない。
「えっと、じゃあ、このまま行くことにするよ」
そんなわけで、その使いの男性の後について、またヴァルと二人、キリアンの屋敷へと引き返した。
屋敷へ戻ると、ニコニコ顔のキリアンと困った笑顔のシエロが並んで立っていた。
「あんな堂々と帰って行ったのにな」
「ごめんね、二人とも。学園の全員が招待されたんだ。双子にも招待状を出したところだ」
チュチュとマリアが、二人を見るなり走ってきてくれた。
「エマエマエーマー!」
「お嬢様!」
チュチュがエマにぴょーんと抱きついてきた。
「危ないよ、チュチュ」
言いながら、笑う。
「子爵邸にも手紙を出しておきました。ここにいる間は、わたくしがお嬢様のお世話をさせていただきますね」
「エマ!」
チュチュが満面の笑顔で言う。
「この屋敷で、戦闘訓練しようよ!」
「戦闘訓練?」
「そう!パパが稽古つけてくれるって!」
王都の騎士団の騎士団長による稽古……。
「えっと……それはけっこう、すごいこと、かな?」
ここからしばらくは、ほのぼのとイチャイチャの間をゆるゆると行きたいと思います。