12 大いなる炎
「おおいなるほのお」
いつもの部屋の片隅。大きな窓の前。
一人、呟く。
ここ最近、エマは気づくと、ぼんやりとしてしまっていた。
空を見る。
夕刻の空の色は、ジークの瞳の色だから。こんな色なのかなと思うだけで、少しだけ元気が出た。
どんな時だって……こんな時だって、やはり心の支えはジークだった。
心が沈むと、ジークの得意な魔術を一人呟く。
「おおいなるほのお」
ジークは炎の魔術が得意だった。
森で修行していたからか、ジークの得意なフィールドは森だった。
簡素な格好の上に、魔術師らしく暗い緑色のマントを巻き付け、木から木へ飛び移る。
そんな燃えやすそうな場所で炎を扱う。
敵が走れば、炎の魔術がそれを追う。
短剣を使い、走る。
そんな人だった。
乱雑にまとめた長い黒髪、炎の魔術に似合う金色の中に赤が差し込まれた瞳。
なんてかっこいい。
「おおいなるほのお」
呟く。
かといって、私の手から炎が出るなんてそんな面白いことは起きない。
エマには魔術師の適性がないのだろうか。何かやり方が違うのだろうか。それとも、この世界にはこんな呪文は存在しないのだろうか。
もう疑うことはない。ここは魔法がある異世界。
エマは、異世界に転生してしまった。
万が一……。と思う。
つい、思う。
もし、ここがジークのいる世界だったなら。
会うことができるなら。
なんて。
ははっ。
心の中で笑い飛ばす。
でも、異世界転生ならこうだよね。
もしかして、同じ年代でジークたちが育っていたりして。15歳くらいで王都に行って。そうすると、王子様やジークや他の攻略対象たちと、ヒロインも王都にいて。
私は、その人たちと仲良くなりながら、ジークが死なないルートを模索するの。
物語の中になかったイレギュラーな私が、一石を投じる。
そうすると、最後の翼竜との戦いで、ジークが死なないまま勝利して。
そして……私とジークは…………。
わ、私は別に、ただ推しているだけで…………ジーク推しなだけで…………実際に自分と恋愛してほしいなんて考えたことないけど…………!!!!
怪しげな妄想をどうにかしてかき消そうとする。
けど、『メモアーレン』の街が本当にあんな様子なのかはわからない。
王子様ルートしか存在しなかった物語は、ほとんどが王都と森や谷なんかで構成されていたからだ。あまり、王都以外の町に行くことがなかった。
妙な妄想。
変な期待。
期待しすぎないようにしなきゃ。
そもそも、推しのグッズに埋もれて部屋で推しのゲームをしてるのと、推しの世界だけど、推しに会えるかわからない騎士や魔術師や翼竜がうろついてる危険な世界、選べるならどっちを取る?
「…………はーぁ」
窓の外の夕焼けは、だんだんと、夜の色に染まる。
「寒くなってきましたね」
マリアがそっと、肩から小さなブランケットをかけてくれた。
『メモアーレン』の攻略対象は5人いるのですが、ゆくゆくは全員登場してもらおうと思っています。




