118 囚われのお姫様(1)
馬車は結構な速さで進む。
途中、馬が替えられる音がしたのに気づいたが、ほとんど馬車は止まらず、エマは馬車の中にいた。
食事も馬車の中で食べた。
出発してから2日後、エマはとあるお屋敷に到着した。
馬車を降りると、そこにはチュチュのパパ、キリアンが立っていた。
「おう!お出ましだな。お姫様」
ヴァルとのことを思い出し、むっ……としてしまいそうになるけれど、顔には出さないように……。
「お久しぶりです。コンスタン侯爵」
貴族令嬢らしく頭を下げる。
キリアンは、
「ジークがねぇ……」
と言いながらニヤニヤした。
「クールな奴だと思ったけど、人間らしい所もあったんだな」
キリアンが品定めの目でエマを見ようとした瞬間、エマとキリアンの間に、大きな赤い宝玉が付いた杖が差し入れられた。
「うちの子で遊ばないでくれるかな」
キリアンに笑顔でそう言ったのは、いつの間にかこの屋敷に到着していたシエロだった。
「おやおや。魔術師の師弟関係ってやつか」
ニコッとキリアンも口角を上げてみせる。
「我らが騎士団長様の人間味は相当なものだからねぇ。あの時のことは、忘れられないよ。プロポーズするって、オリヴィア嬢を王都中お姫様抱っこで……んむっ」
そこで、キリアンがシエロの顔を平手で叩き潰すように口を塞いだ。
「娘の前で何言ってんだ!!!」
「あんなに張り切って家を飛び出したのに、オリヴィア嬢が……んんっ」
「ごめん、シエロくん。オレが悪かったから、その話はやめて」
エマは、コンスタン家で丁重にもてなされた。
庭が一望できる外のテーブルへ通される。
ただし、そこから見えるのは花いっぱいの庭園というよりは、剣士専用の訓練場だ。
そんな珍しい場所で、みんなで一緒にお茶の時間になった。
ジーク。
キリアンはそう言ったし、シエロもそれを自然に受け止めた。
やっぱり、身近な人は知っているんだ。
ヴァルがジークだっていうことを。
大人しく、メイドが入れてくれたお茶を飲む。
「ねえ、パパ」
チュチュが、真剣な顔をした。
「ヴァルが、ジークヴァルトだっていう話、どういうことなの?」
「ああ……ん」
キリアンが足を組む。
その堂々とした仕草。悔しいけれど似合う。
「あいつがジークだってわかったのは3歳の頃だ。その頃はもう話せていて、『やるべきことがある』と口癖のように言ってた。余りに子供らしくないから、大魔術師に相談したら、大魔術師の方が白状したんだと」
「…………」
そりゃあ、3歳児があの調子で喋れば、みんながびっくりしたに違いない。
けど、白状したのが学園長だってことは……。
「学園長は、ヴァルがジークだってこと、知ってたんですか?」
「知ってたも何も、生まれ変わらせたのがその大魔術師本人だって話だ」
「学園長が?」
「ああ。愛弟子が死んで悲しかったから、精霊の秘術で同じ家に生まれ変わらせたんだと」
「秘術?そんなのがあるんですか?」
エマが乗り出した。
もしかしたら、自分が転生したのも、その秘術のせいかもしれないと思ったからだ。
「詳しくは知らないよ」
キリアンが、つっけんどんに言う。
そこで、口を開いたのはシエロだった。
「……僕も詳しくは知らないけど、精霊と契約をすると、一度だけ願いを聞いてくれるんだって。少なくともこの国で精霊と契約をしたことがあるのは、学園長だけだよ」
そうすると……、もしかしたら私を転生させたのも学園長かもしれないってこと……?
思考を巡らせようとしたその時、正門の方が騒がしくなった。
キリアンの身長は185cmってところですかね。攻略対象の中では、一番高身長。