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113 夜会にて(5)

 それから、どちらからともなく、また裏庭を歩いた。


「パーティー、戻らなくていいの?」

 静かに聞く。

「いいだろ、もう挨拶もしたし。ダンスもしたし」

「…………」

 手は繋いだまま。


 話すこともなくて。

 それでも、真っ直ぐに部屋に戻ろうとは言えなくて、ゆっくりと歩いた。


 ぼんやりとする。

 さっき何が起こったのか、まだ頭の中が整理できてない。


 明かりの少ない廊下。

 部屋の前まで戻るのは、あっという間だった。


 扉の前で向かい合う。


 手を、離さないと。


 手を、離そうとすると、ヴァルの手に力が入った。


「ヴァ……ル……?」


 顔を上げると、真っ直ぐな視線にぶつかる。

 鋭い視線。


「エマ」


 名前を呼ばれる。

 名前を呼ばれるだけで、心臓が跳ねる。


「おやすみ、エマ」


 ヴァルはそう言うと、繋いでいた手を持ち上げて、口元にエマの手のひらを押し当てた。


 あ………………。


 熱い。

 身体中が熱い。


「……おやすみ……、ヴァル」


 なんとか声を絞り出すと、扉を開け、部屋に入った。


 入った途端、ふらふらと床にうずくまる。

 もう、限界だ。

 右手を握りしめる。

 気持ちが溢れる。泣きそうになる。


「今の…………、何……?」


 それから程なくして、メイドが着替えを手伝いに来たので、なんとかドレスを脱ぎ捨てた。

 平静を装っているつもりだったけれど、準備をしている時ほど話しかけてはこなかったところを見ると、あまり装えていなかったのかもしれない。

 言葉を交わさずに、髪の手入れをしてくれる姿を、鏡越しに見ていた。

 何かをしている間にも、さっきのことを思い返す。

 何度も何度も思い返しては、心臓が締めつけられる心地になる。

 事あるごとに右手を眺める。

「ヴァルが…………」


 からかわれた?

 けど。

 でも。

 冗談にしては……真面目な目だった。

 まるで、射抜かれるような。

 今までこんなこと……。


 どういう意味で、あんな……。


「うぅ……」


 その日は、眠ることが出来なかった。


 何度も、今日のことを思い出した。

 何度も思い出しては、浸るような気分になる。


 こんな風に、ずっと同じことばかり思い返してるなんて、本人に知れたらそれこそからかわれるんじゃないだろうか。

 それとも、もっと別のことを言うだろうか。

 どんなことを言うだろう。


「ああ……もう……」

 エマは、ベッドから起き上がった。

 こんなんじゃ、本当に眠れない。


 こっそりと、部屋の外に出る。ヴァルの部屋とは、反対の方向へ歩く。

 夜の風に当たろうとしたけれど、それさえも思い出すきっかけにしかならなかった。

ハッピーエンドに突き進もう!

次回から新展開!

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