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108 炎の魔術

 その日は、それから部屋へ戻ることになった。

 翌日の夜には、パーティーが開かれる。

 パーティーの準備だけでも、時間はなさそうだ。


 ヴァルとシエロ、それにシュバツル家の人達は、まだ応接室に残るようだった。

「えーと……」

 ヴァルの顔を覗くと、いつもの偉そうな笑顔が見えた。

「もう、大丈夫だよ」

「……そっか」

 えへへ、と笑って、部屋を出る。


 それからエマは、明るい日差しの中、ベッドに転がると、いつの間にか寝てしまった。


 目を覚ますと、まだ外は明るい。

 眠い目のまま、ベッドに腰かける。

 眠気覚ましに庭へ出ると、そこには一人、エーデルがいた。


「こんにちは」

 日差しの中、振り向いたエーデルは、やはりジークに似ていた。

「こんにちは」

 上品で柔らかな笑顔。……ジークならきっと絶対にしない笑顔。

「ヴァルとシエロさんはまだやることがあるみたいで。また二人、取り残されちゃいましたね」

 その言葉は、どこか安心したみたいで、けど、どこか寂しそうで。

 もう少しここにいようと、そう思えた。


 そういえば、と、ふと思う。

「エーデルさん……。魔術を勉強していたって……」

 言いかけたエマの顔を、エーデルが窺うように眺めた。

「……炎の魔術です」

 静かな声。

 エマは知っていた。公式設定資料集の小さなイラストと数行で書かれた紹介文が載っていた、ジークの弟。

 兄と同じように、炎の精霊の加護を受けている。

 この国に生まれて、初めて出会う炎の使い手。

 ……ジークと同じ魔術が使える人。


 汗が額をつたう。

 ”見たい“けど、“見たくない”。

 特別な魔術。

「ぁ…………あの……」

 今、見せてもらわないと、もう見られないかもしれない。

 でも。

 この人はジークじゃない。


「見せましょうか?」

 屈託のない表情。

「………………はい」

 ひどく躊躇したあげく、その屈託のなさに圧されて返事をした。

 エーデルが、笑顔を見せた。

「少し、離れていてくださいね」

「はい……」


 静かだ。


 静かな庭。


 エーデルの息遣いまで聞こえそう。

 すぅっと、エーデルが息を吸うのが見えた。


「大いなる炎」


 エーデルの襟元に着いたチェーン付きのブローチの前に、魔法陣が光り、弾けるように消えた。


 あ…………。


 目を見張る。


 エーデルの目の前で燃え上がった炎の塊が飛び出す。目の前の広場で、炎が踊るようにグルグルと輪を描くと、天へ昇るように空中で消えた。


 息を呑む。


 きれい。


 きれい。


「きれい……」


 炎の魔術は、想像以上に綺麗だった。綺麗で、それでいて悲しかった。


 もっと、感動するものなのかと思っていた。


 でも、そんなことない。


 ただ、悲しいだけだ。心の中で大切にしていたものが、消えていってしまうような感覚。


 ああ、ヴァルに会いたいなぁ。

 ヴァルが居れば、きっとこんな気持ちになったりしないのに。


 眩しい日差しが、庭のバラを照らす。

 ちょうどその時、炎の魔術の気配で、ヴァルは窓の外を見た。

 ……エーデル?どうしてあいつが……。

 思ったところで、エーデルの近くにエマが居ることに気がついた。

 エーデルが、エマに駆け寄るのが見えた。

 炎の魔術……。エマに見せてたのか……。

「………………」

 ヴァルの隣でヒョコッと窓の外を覗いたのは、シエロだ。

「ああ、エーデルくん。もてなしてくれてるんだね」

 いいながら、ヴァルの顔を横目で見る。

「……おや、嫉妬?」

 シエロは、面白がるような顔で笑った。

「……するかよ」

 とヴァルが吐き捨てるように言う。


 シエロが、呆れた顔でクスッと笑った。

恋愛モードで突っ走ります!

ここから二人の仲は進展するのか!?しないのか!?

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