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1 プロローグ

「…………」

 気配がする。長い髭をたくわえた、老人の気配。

 いつもの朗らかな顔を思い浮かべる。

「すみません、師匠」

 朦朧とした意識の中で、老人に話しかけた。

 声ではない、意識だけの声。

 もう、自分には身体がないことが解った。師匠は確かにそこに居るのに、顔を見ることもできない。


 ただ、感覚だけを感じる。


「……ここまで育ててもらったのに……師匠よりも先に……」

 言葉にするのも憚られた。


 思い出せる。襲いかかってくる大きな翼竜の牙。兵士達の声。驚愕の顔の王太子。そして、苦しそうなあの人の瞳。


 終わったのだ。志半ばにして。


 最期に見たのがあの人の瞳でよかっただろうか。透き通る、キャンディのような甘い瞳。あの瞳を見る度にいつも、心が安らかになったものだった。

 いや、あんな姿を晒してしまって、さぞ悲しませただろう。とはいえ、あの人が心を通わせたのは、自分ではない。これからいつも隣にいるはずの王太子がそんな悲しみも癒してくれるだろう。


「いやいや」

 老人が静かに言った。

「お前の旅はまだ終わってりゃせんよ」

「旅……人生の旅は終わったのに、まだ旅が続くんですか?」

「お前の人生は、ここで終わらせるにはもったいないよ。私の弟子にしては、あまりにも学んだものが少なすぎる」

「魔術はかなり学びましたよ?……あまり、実戦には使えませんでしたが」

 小さく、苦笑のような声を出す。

「人生に大切なのは、勉学や力だけではないよ」

 ふぁっふぁっと独特な笑い声がした。

 それは懐かしいとすら思える、安心する声だ。

 ゆらゆらと、”自分“が揺れる感覚に包まれる。まるで、冷たくもない水の中に揺蕩っているようだ。

 沈黙の中、自分が、眠りに落ちることが解った。


 このまま自分というものが消えてしまうのだろう。消えてしまう最期の一瞬で、伝えたいことなぞあっただろうか。もう、未練の一つも思い浮かばない。

 学び足りないとずっと思っていたのに、言いたいことがたくさんあるような気がしていたのに。今まで感じていた憤りも、いざとなると、形にはなりそうになかった。

 旅……。旅とはなんだろう。輪廻転生が本当にあったとしても、この魂の次の人生は、この自分に何か関係があるのだろうか。その人生はこの人生とは関わりがなく、また新しい人生なのだ。記憶があるわけでもない。人間だとも限らない。海の底にいる小さな魚かもしれないのだ。もう、生きた。そして、死んでいく。


「……お前に、贈り物を用意しよう」

 優しい声が響いた。

 師匠がこんな優しい声を出すなんて、やはり、これが最期の一瞬なのだ。

「お節介かもしらんが……。きっと気に入る」

 師匠が、柔らかく笑った気がした。そんな声を聞いた瞬間、自分が小さくなり、意識を失くし、“自分”というものが消えるのを感じた。

転生ものを書いてみたくなったんです!どこまで続くかわかりませんが、よろしくお願いします!

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