9、あり得ない存在
「闇と時空の複合魔法だと?無効化だと?お前、何故そのような高位魔法が使えるんだ」
魔物は倒したのに、私は今、魔王のように怖い顔をした自称吟遊詩人のレイに詰め寄られている。
そっちだって正体を隠してるくせに・・。
第一、私が前世の記憶があるからと言ったところで、誰が信じると言うのか。
私ですら段々と記憶が薄れてきて、最近はあれは夢だったのではと思っているくらいだ。
「複合魔法は魔導士庁に勤める高位術者でも使えるかどうかの高等魔術だぞ・・・一体どこで覚えたのか、答えよ!」
脅せば素直に言うことを聞くと思っているのなら大間違いだ。見た目十二歳の少女だが、中身は半世紀以上生きて、王宮という伏魔殿をくぐり抜けてきた元女王なのである。
私はクスリと笑って、まずは相手の勢いを削ぐことにした。
「女の子には秘密があるものですわ」
「ふざけてるのか!?」
失敗だったみたいだ。かえって怒らせてしまった。睨みつけてくるレイを、私がどうしてくれようかと迷っていると、ゲオルグとオフィーリエがやって来た。
「リティは孤児院に捨てられた、ただの平民よ。私が保証するわ」
「そうだよ、レイ。魔術に詳しいのは小さな頃からギルドに登録して熱心に勉強したからだ。危険人物なんかじゃない」
二人の言葉にレイは呆然とした。
「ハァ、お前らマジで言ってんの?ただの平民でこんなの使える奴、国中探したっていないだろうよ」
複合魔法ってそんなに難しくないと思っていたけれど、どうやら認識が間違っていたらしい。私の方こそ愕然としてしまった。
では私の最終必殺技、三属性の複合攻撃魔法、アルカシア マダインなんて使ったら、もっと大騒ぎされるかもしれない。
これは前世の知識も場合によっては出し惜しみすべきかも。
私の当初の目的は、貴族となり王立魔導学校に通いユーリウスに会うというものだったけれど、今や変わってきている。
今の私には孤児院の子供達を見捨てることなんてできない。彼らは私の家族なのだ。
私と私の周りの子供たちがお腹いっぱいご飯を食べて、幸せに笑っていられること。
身近な者の幸せこそが私の最大の目標である。
そのためには変な貴族に目をつけられて、囲い込まれるわけにはいかない。
レイとゲオルグは貴族らしいけど、どの程度の地位なのだろうか。
魔力量的には高位貴族だが、それならば前世で彼らを見かけたことが一度もないのはおかしい。
稀に下位貴族や平民でも魔力の多い者もいるし、実際のところ中位貴族の現地採用された魔導士といったところだろうか。
私が話し合う二人を見つめていると、孤児院にいるはずのベスが必死な形相で広間に駆けてきた。
「リティ!大変なの!ビーチェが・・ビーチェが拐われたの」