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57、秘めた想い

 ユーリウスは床に手をつき、震えている男を見た。


「やはりあなただったのですね、父上」


ユーリウスに薔薇の呪いをかけた犯人。前世ではついぞ判明しなかったが、今世は時期や入念な調査により人物は絞られていた。


王宮に自由に出入りできる高位の闇魔導士。


王の第三夫人は高位の闇魔法は使えない。ジャファラーンも然りだ。

すると東の宮に入れる者で光と闇の両方の属性に通じている高位魔導士といえば限られてくる。


「何故ですか?何故、私に呪いをかけるのですか」


「ユーリウス、お前は王家に生まれたかったか」


王は悲しげにユーリウスを見た。


この人はもう壊れてしまっている。


虚ろな瞳、顔には表情がなく、手足は痩せ細り、生きる気力が感じられない。


「アレクシアは私の正妻になる予定だった。邪魔をしたのはペトロネラと近衛騎士団の連中だ」


母が生前、近衛騎士団には注意しなさいと言っていたのを思い出す。

特に王の側にいる者達は自分たちの利益しか考えない連中だった。他の部署で人に使われることを良しとせず、高位貴族という立場を利用して能力はなくてもプライドだけは高い者達が集まってしまった。

王が彼らの傀儡となったのは、彼らが王を囲ってしまったためだとユーリウスも理解していた。


「奴らはアレクシアの父親を奸計に嵌め、罪を捏造し平民に落とした。私が不甲斐ないばかりに・・・」


「父上がそれを止められなかった事を母は恨んではいませんでした」


父が貴族同士の権力争いに巻き込まれたことには、むしろ同情的だった。

ユーリウスの祖父が父に突きつけた王になるための条件はエターナルリーベの取得であり、当時の王族達の能力からいえば厳しいものだった。

エターナルリーベが取れない王族を支持してきた者達が反発するのは当然だ。


『聖結界なんてね、王を支える者達がこっそり魔力供給してしまえばいいのよ』


母が口伝てに聞いた祖母の話では、大昔は政務を取り仕切る者達と、聖結界を支える者達とは別だったらしい。

そこから考えると祖父の無駄なプライドがここまで拗れた全ての元凶だともいえた。


「奴らはアレクシアを平民に落としたくせに、再びアレクシアを連れてきて利用した。近衛の連中は次代を誕生させるために、ペトロネラはアレクシアを王宮で働かせて顎で使う姿を私に見せるために。

私はアレクシアを守ろうと心に決めた。だが結果的には・・・守りきれなかった」


「・・父上・・」


王の寵愛を受けたいペトロネラと王からの寵愛を一身に受けているアレクシア。

この人は己の罪に気付いているのだろうか。

守れないのならば最初から近付くべきではなかった。少なくとも母にとってはその方が余程幸せだっただろうに。


「それが私に呪いをかけるのとどう繋がるのですか?私には理解できません・・」


「わからぬか。お前がこの世界で唯一エターナルリーベを取れる子だ。だからお前の魔力を封印する。私の代で呪われた王家の宿命など終わらせるのだ。エターナルリーベは誰にも取らせない。聖結界など壊れてしまえば良い」


王は歪んだ笑みを浮かべた。

ユーリウスの中で怒りが膨れ上がった。目が暗く淀み、魔力が渦巻きだす。


「そんなふざけた理由で私に呪いをかけたのか。あなたが勝手に自分の中で膨れ上がらせていった不満と憎しみのせいで世界を滅ぼすというのか。そのせいで私達がこのあと、どれほどの重荷を背負うこととなるのか、あなたは考えないのか。あなたは王としての資質はもちろん父親としても人としても間違っている」


真っ黒に染まった瞳から魔力が漏れ出し王を襲った。王が床に臥して苦しみ出す。


「ぐっ・・あっ・・誰か・・」


白目を剥き、空中に向かって手をばたつかせながら王は周囲に助けを求めた。

王はユーリウスの魔力をみくびっていた。


「ユーリウス様!」


アデルベルトとカイルが扉を開けて飛び込み、王の身体を掴んで遠ざけた。続いて入ってきたマティアスがユーリウスの身体を背後から引っ張り、王から離す。


「落ち着け、ユーリウス。王を殺してどうする」


「離せ、マティアス!守れぬのなら近付くのではなかった。幸せにできないのであれば、自分勝手な思いなど諦めるべきだったのだ。少なくとも私ならそうする。あなたが失ったものは全てあなたの所業によるものだ。世界を滅ぼすだと?

笑わせるな。あなたのせいで失ったものを取り返すのに、これからどれほどの犠牲が強いられることになると思っているんだ」


「ユーリウス様・・やはり記憶が・・」


アデルベルトの言葉にユーリウスはクッと視線を逸らした。


「アストリットは・・このあとエターナルリーベを引き継いだ者は本来は王になどなる必要はなかった。世界を元の姿に戻すために彼女は己の全てを捧げたのだ。もっと平和な世界であったなら私たちは・・私とアストリットは・・幸せになれるはずだったのに・・」


ユーリウスの瞳から涙が一筋溢れた。


例え時が巻き戻ったとしても、前世のアストリットを幸せにしてやることは、もうできない。


周りにいる者達はユーリウスが泣く姿を初めて見た。

ユーリウスは常に王族としての矜持を保ち、感情の起伏を表に出すようなことは滅多にない。

そのユーリウスが泣いている。


「ユーリウス様・・そんなにも、アストリット様のことを・・」


驚くアデルベルトを横目に、ユーリウスはグッと拳を握りしめて唇を噛んだ。


「王よ、錫杖を渡せ。そして余生を母の墓を守り、己の罪を顧みながら生きよ」


「ふふっ・・ふふ・・王笏は誰にも渡さぬ。北の宮は封鎖して誰も入れぬようにしてある。エターナルリーベなど、誰も取れなくなればよい・・」


身勝手な言い分を繰り返す王に対して、ユーリウスはとうとう覚悟を決めた。


「この魔術は使いたくはなかったが・・やむを得ぬか・・・」


ユーリウスは杖に闇の魔力を纏わせた。前世ではよく使った相手の精神を支配する闇魔法だ。使われた者は二度と元の精神状態には戻れない。

精神障害を引き起こし、一生を床に縛りつけられての生活となるだろう。

杖から漂う闇の魔力が王の体を捕らえた。


「闇の神 リュープテウス 罪を与えしトルテウスよ 深層に眠る メリルを呼び覚まし 我の傀儡とならん」


「待て!ユーリウス」


誰かがユーリウスの杖に向かって、魔力弾を放った。

杖が音を立てて床に転がる。


「それをすればお前が傷つく・・」


振り返るとあのクロ魔導師がいた。

以前、魔導学校でユーリウスを魔力攻撃から救い、先日も王宮での襲撃事件でユーリウスを手助けしたあの男だった。

黒いフード付きの外套をすっぽりと被っているため顔ははっきりとはわからないが、ユーリウスには魔力の質であの男だとわかった。


この魔力は、やはり自分と似ている。


「お前、城の門番だろう!」


カイルが叫ぶ。


「門番だと?どう見ても高位のクロだろ」


マティアスが剣を男に向けた。

だが男は動じず、じっとユーリウスを見ていた。


「王笏だ。持っていけ」


男が外套の中から王笏を取り出し、ユーリウスに向かって投げた。


「馬鹿な!北の宮には誰も入れないはずだ!」


床に伏した王が目を見開いて叫んだ。

ユーリウスが手にしたのは本物の王笏だった。彼は一体どうやってあの強固な結界を通り抜けたのだろう。


「たまたま俺の魔力が先に登録された者の魔力と一致したのさ」


「ラフィーネ様の・・第二夫人の魔力(もの)か・・」


ユーリウスはゆっくりと尋ねた。

今世でこのような出会いがあることは想像してもいなかった。

本物なら彼の方が先に試練を受ける資格を持つ。


「俺は城の門番、ヴェスパーだ。城内の見回りをしていたら、たまたま落とし物を見つけて届けた。そういうことにしておけ」


彼は腕を組みニヤリと笑いながら、なんともなしにそう言った。


「行け、ユーリウス。エターナルリーベを取り、エターリアに真の平和をもたらせ」


「感謝する、ヴェスパー」


ヴェスパーは頷くと、隠蔽魔法を唱えてその場から消えた。

項垂れた王が兵に抱えられ、部屋から出される。


「これよりエターナルリーベを取得する」


集まった側近達に向かってユーリウスは言い放った。


「アデルベルト、リティアーナに聖堂で待てと伝えてくれ。それほど時間はかかるまい」


ユーリウスは甲冑に身を包み、側近達を引き連れて部屋を出た。


守れぬなら近付くなとはよくも言えたものだ。前世の自分の過ちと王とが重なる。


「私は二度と同じ過ちは繰り返さない」


今度こそ守るための力を得るのだとユーリウスは心に誓った。



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