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53、気づく思い

私のバカ。

なんでこんなにあっさりと騙されちゃうかな。


目の前には見知らぬ老婆がいる。

髪は真っ白でやけに目をギラギラとさせて、私を上から見下ろしている。

私は手足を縛られ猿ぐつわをかまされて身動きできない状態だ。

この部屋には無効化の魔術が施してあるようで、魔力弾で逃れようと試したが発動しなかった。

石壁に囲まれ、上部に明かりとりのためだけの小さな窓があることから、ここが地下牢だとわかる。

地下特有のカビ臭さが鼻につき、私は思わず顔を顰めた。


「魔力的には優秀なくせに頭は馬鹿なのよね、エトノス一族は」


エトノス一族って何だろう。

私を見て言っているので、私のことを指しているらしいが、前世でも今世でも聞き覚えのない名前だ。

それに人のことを馬鹿って・・随分と失礼な人だ!


「モゴモゴ!!」


「何を言っておるのかわからぬ、まぁ良い。とっととエターナルリーベとその美しい顔をいただくとするか」


老婆がナイフを取り出し、私の頬にそれをあてる。ひんやりとした鉄の感触が皮膚を通して伝わってきた。

背筋が凍る。

恐怖で身がすくんで動けない。


「まずは顔だ」


「モゴゴ!!!」


老婆が刃を立てようとした時、手首の腕輪が光り始めた。

バチンという大きな音を立てて、老婆が壁へと叩きつけられる。


「リティーアの腕輪!!何故それを其方が持っておるのだ」


「母上!何の音ですか」


男が階段を駆け降りてきた。。

着ている衣服から、かなり高位の貴族だとわかる。

壁に倒れた老婆に駆け寄ると、そっと彼女の上体を起こした。


「なるほど、ユーリウスに貰ったのか。エターナルリーベを得るために、あの子も必死だね。大方、お前はそれを愛だと勘違いしたんだろう」


違うと言いたいが、ユーリウスの気持ちが私に向いたのは確かにエターナルリーベを見せた後だった。


「はっきりと教えてやろう。王家の男が望むのは、お前ではなくお前が持っているエターナルリーベだ。愛されているなどと勘違いしてのぼせあがって、お前も可哀想な子だね」


「母上、どうしましょう?このままではエターナルリーベが取れません。この腕輪の外し方をご存知ですか」


男の問いに老婆は腕を組んで考え込んだ。


「確かリティーアの腕輪は王宮にある解錠の杖がなければ外せないと聞いたことがある。母が王宮に行って杖を取ってくるので決してこの部屋からその女を出すな。ついでにあの男の顔も、久しぶりに拝んでくるか」


老婆は覚束ない足取りで部屋を出ていった。

男が私の全身を舐め回すように見ている。

仄暗い欲望に満ちた瞳が私を射すくめた。


「次に母が戻った時、あなたは殺されるでしょう。しかし、殺すには惜しいほどの美貌だ。あのユーリウスが気に入るだけのことはある」


「モゴモゴ・・・」


あなたは誰!?と言ったつもりだが、伝わらなかった。


「何を言っているのかわからぬな。おい、猿ぐつわを外せ」


護衛の一人が私の口の布にナイフをあてて無造作に切った。

手荒にされて思わず咳き込む。


「・・あなたは誰?もしかして、ディートフリート皇子?」


「当たりです、リティアーナ。頭が悪いと聞いていたが、普通に知能はあるようだ」


ではあの老婆はペトロネラか。

親子揃ってムカつく人達だ。

私がムッとして睨むと、ディートフリートの手が私の顎を持ち上げた。


「なるほど触る程度ならば反応しないのか。ならば問題ない。死ぬ前に私が極上の快楽を与えてやろう」


ディートフリートが舌舐めずりをした。

これは、ユーリウスが以前言っていた貞操の危機というやつかもしれない。

私の背筋を冷たい汗が流れた。




 ユーリウスはビーザムに乗り、リティアーナの魔力を追った。

東の街道にさしかかったとき、不意に魔術が途切れ、髪が地に落ちた。


「リティアーナは魔力が遮断された場所にいるようだ」


ユーリウスの言葉にグレンとマットが青ざめた。


「申し訳ございません。私共が付いていながら」


「護衛の任を解いたのはリティアーナだ。相手は変化魔法の使い手であるし、騙されるのも仕方あるまい」


護衛達に対してそう言ったものの、ユーリウスはリティアーナに対しては烈火の如く怒っていた。


いくら私に似ていたと言っても、あっさり騙されるとは、あの迂闊さは何年生きても治らぬのか!

それにペトロネラの変化魔法如きを身破れぬとは、第一級の王宮魔導士とはいえぬな。

戻ったら再び前世のように鍛え直さねばなるまい。


「魔力が追えないとなると困りましたね。いかがいたしましょう」


カイルが尋ねた。


「この辺りの屋敷にいることは間違いない。隠蔽魔法を用いて、しらみつぶしに探せ」


「はっ」


護衛達が捜索するために素早く地上に降りていく。


「心配です。リティ様はこういった類の陰謀に巻き込まれた経験がございませんので」


クリスタが表情を曇らせた。

リシュリアも不安げにしている。


「前世ではリティアーナはどうであったのだ」


ユーリウスはアデルベルトに尋ねた。


「アストリット様はたまに魔物討伐や作戦の一環での大規模魔術を担うことはありましたが、基本的には王宮内で決まった者としか接触せず、ひたすら聖結界に魔力を注いでおりました。聖結界の縮小化により失った領土をもとに戻すのに必死だったのです」


「・・・そんなに酷い状態であったか」


父と同じように、ひたすら聖結界に張り付いているアストリットの様子を思い浮かべてユーリウスは心が痛んだ。


「はい、アストリット様がエターナルリーベを取って王宮に戻ってきた時に強い魔導波による衝撃が走り、それにより聖結界の弱化が早まったのです」


「そうか、それで聖結界はいつ壊れたのだ?」


「いえ聖結界は壊れていません。アストリット様が女神とお約束したそうで、アストリット様がお隠れになる前には完全修復され領土も元通りになりました」


それでは永久魔導機関が働く理由がない。

一体いつ発動したのか?


アストリットがエターナルリーベを取り、戻ってきてすぐの聖結界への衝撃。

女神との約束。


罪を償っている途中・・・。


「アデルベルト、どうやら私はとんでもない勘違いをしていたようだ」


聖結界に衝撃を与えたのはアストリットだ。

襲撃の時やアゼル村でのリティアーナの死への忌避感から考えると、王宮に戻り私の死を見た時の衝撃は激しかっただろう。

それに、このお守り。


『このお守りは一度だけ君の命を救うだろう』


私がこのお守りをアストリットの右手首につけた時の言葉を覚えていたのなら、私につけた理由もわかる。

どうやら私はアストリットの気持ちを見誤っていたようだ。

単なる十代の小娘の麻疹のような恋だと思っていたが、それほど深いものだったとは。


「アストリット・・・」


ユーリウスは、二度目の生を与えられて初めて、アストリットの自分に対する思いの深さを知った。





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