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52、不穏


 反抗していた北部勢力が解体されてからひと月が過ぎた。

ユーリウスはまだ北部の後始末に奔走している。首都では今回の内乱の責任の所在を求める裁判なども始まり、裁判所にも往復していてとても忙しそうだった。

 

 久しぶりに魔導学校に来た私は早速、嫌な奴に会ってしまった。第三皇子ジャファラーンである。

向こうは私を見るなりすごい形相で突進してきて、おもむろに私の腕を掴んだ。


「これは王家の三大秘宝であるリティーアの腕輪ではないか。なぜ其方が持っているのだ」


「三大秘宝ですか?」


「知らないのか。アルカシアの王冠ティアラ、サリフの指輪、リティーアの腕輪。王家に代々伝わる門外不出の宝だぞ」


「ユーリウス様から頂いたのです」


「ユーリウスめ。勝手に宝物庫から持っていったな。あいつは物の価値がわかっておらぬ」


ジャファラーンが怒りを爆発させた。

ユーリウスは価値がわからないのではなく、無頓着なのである。

高いとか安いとかは全く関係ない。

しかしユーリウスは相変わらず私に分不相応なものをくれたらしい。

王家の大切な秘宝ならジャファラーンが怒るのもわかるので、そこはちゃんと兄弟で話し合ってクリアしておいて欲しかった。


「そういえば、ユーリウスが其方のことを救いの御子だと、たいそうな名で呼んでおったな。それでその腕輪か。其方が救いの御子となり世界を救うとは片腹痛いわ」


「わたくしもそんなご大層なものではないと自覚しておりますので、いちいち指摘しないでください!」


ユーリウスは永久魔導機関が働いたとか救いの御子がやってきたとかいろいろ言っていたが、私が世界を破滅に導きかけた本人なので救世主などではない。

断じて違う。

かと言ってジャファラーンに馬鹿にされるのもお門違いなので、私は不機嫌さ全開で彼を睨みつけた。


「とにかくその腕輪を返せ!それは王家のものぞ」


ジャファラーンが手を伸ばしてきたので、私はそれを思い切り叩いた。


「いやです。返して欲しければユーリウス様を通して下さい。私からは返しません」


「なんだと!」


ジャファラーンと私の攻防戦が続いた。両方の護衛達があたふたとその様子を見守っている。ジャファラーンの手を叩いたり、避けたり、それを何度も繰り返してお互いぜぇぜぇと息が切れてきた頃、背後から声をかけられた。


「リティ」


振り向くとユーリウスがにこやかな笑顔で手を振っていた。


「ユーリウス様」


学校で会うのは久しぶりだ。

私が跳ねるようにユーリウスに駆け寄ると、彼はさらりと私の髪を撫でた。


「北部との話し合いは済んだのですか」


「ああ、時間が空いたからリティに会いたくてこちらに来たんだ」


リティに会いたくて、だなんて!!


最近ユーリウスの私への態度は変化しつつあった。

たまに頭を撫でたり、髪を引っ張ったりして(これは少し痛いこともある)親密度がアップした。

でも今日のユーリウスはいつもの倍くらい甘い。

この様子では前世のように恋人同士になれるのも、もうすぐかもしれない。


「ちょうど良かった。ユーリウスよ、其方、勝手に王家の秘宝を持ち出したな。リティアーナにその腕輪を返すように言え!」


ユーリウスはそれを無視して私の手を握ると「行こう」と言って校舎裏へと歩き出した。


「待て!其方らどこに行くのだ」


「二人きりになりたい。護衛はしばしここで待て」


ジャファラーンが一瞬ポカンとした顔になる。その後ハッとなりユーリウスを咎めた。


「待て、ユーリウス。護衛は連れて行け。二人きりは外聞がまずいだろう」


「うるさい、ジャファラーン。私の邪魔をするな。

行くよ、リティ」


「待ってください、ユーリウス様。マット、グレン、この場で少し待機です」


護衛に指示を出してユーリウスを見上げると、ユーリウスは私の腕を引っ張り、校舎の裏へと駆け出した。

振り払いたくても、ものすごい力で握られていて振り払えない。

校舎裏へとたどり着くと、ユーリウスは屈んで地面に何かを描き出す。

魔法陣だ。


「ユーリウス様、何の魔法陣ですか?」


背後に屈んでそれを覗き込む。

振り向いたユーリウスの顔は、ユーリウスではなかった。




王宮 ー北の宮ー


 ユーリウスは王の寝室に北部制圧の報告に来ていた。

王の顔色は悪く、病の重さを感じさせる。恐らくもう長くはないだろう。

この人も可哀想な人だと思う。

後宮は争いが絶えず、安らげる場所ではなかった。

王の責務に日々追われ、ひたすら魔力供給をして国に尽くしたというのに、最終的に人々の印象に残ったのは息子たちの叛逆と国土を腐海に飲み込まれた無能な王というレッテルだけだった。


「父上、王笏をどこにやったのですか。このままではエターリアの聖結界は壊れます」


実際にはリティアーナに頼り維持できているのだが、王はもちろん周囲にもそれは伝えていない。

リティアーナを危険に晒すことは避けなくてはならないので、知っているのはユーリウスが信頼している側近達だけとなっている。

だが聖結界の状態を見れば、リティアーナの存在がバレるのも時間の問題だった。


「其方が試練を受けるというのか」


王は面白そうに笑った。


「ユーリウス、其方がなぜ生まれたか知っているか。近衛の連中が息子達に聖魔力が足りないことに気づきアレクシアを市井から強引に連れてきたのだ。アレクシアとならばエターナルリーベの有資格者が生まれるという理由でな」


ユーリウスはグッと拳を握った。そんな話は母から何度も聞かされて知っている。普段は明るく優しい母が、父に対しては冷たくあたる姿もユーリウスは子供の頃からずっと見ていた。


「奴らは利用したんだ・・・私の思いを・・・」


「・・父上・・」


「私は疲れた・・もう休む」


王の側近達に追い立てられるように部屋から出される。王はエターリアにも王家にも関心を示さず、もはや誰にも王笏を渡す気がないようだ。北の宮のどこかに隠されていることは知っているが、強力な守護結界が張ってあり自由に出入りできない。


「どうするべきか・・」


王の側近の一人を味方につけて王笏の行方を探させてはいるが結果は芳しくない。

平和的なやり方ではないが、王を言いなりにする方法がないわけではない。

だがそれは全ての方策が尽きた時の最終的な手段にしたかった。


「王は自分の側近でも少数のみしか北の宮に入れなくなったそうです。現在王笏を探させている者もいつ切られるのかわかりません」


アデルベルトがユーリウスに耳打ちした。


「いつまでもリティアーナに頼っているわけにもいかない。急ぎ、対応を練ろう」


東の宮へと戻る途中、護衛をゾロゾロと引き連れたジャファラーンとすれ違った。

ユーリウスを見て驚いた顔をしている。


「其方、リティアーナをどうしたのだ?護衛対象を失って途方にくれていたから、其方がアレに付けた護衛は私が連れてきたぞ」


見るとリティアーナに付けたはずのグレンとマットがいた。


「どういうことだ?私は今日はリティアーナに会ってなどいない」


「お昼頃学校に来たであろう?」


「北部から直接ここに戻り、父上に報告をしたところだ。今は学校になど行っている暇はない」


ジャファラーンが真っ青になった。


「連れ去られたのでは?すぐに捜索隊を出しましょう」


アデルベルトが即座に動き出す。


「不要だ。私が探査魔法を使う」


ユーリウスは懐から小さな皮の袋を取り出すと、中から一本の髪の毛を取り出した。


「何だ、それは?」


「リティアーナの髪だ」


「其方、そんなものを持ち歩いているのか!?」


ジャファラーンが派手に驚いて、ユーリウスの方をじとっとした目で見た。


「こんなこともあろうかと保管しておいたのだ。別に変な意味ではない!」


ジャファラーンに言い訳がましく言って、ユーリウスは探査魔法を唱えた。範囲はエターリア領地内でとりあえずは良いだろう。


「与えよ 探りし力 追え かの者の血脈を

インベスティゲート」


リティアーナの魔力を帯びた髪が一直線に首都の東へと飛んだ。



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