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50、エターリア神殿

 私は中央(エターリア)神殿にやってきた。

ここは王宮の中心に位置し、中央(エターリア)の聖結界がある場所だ。

前世ではほとんどここで魔力供給して過ごしたので懐かしい思いもする。

神殿の最奥に鎮座するユースティティアの像に触れると、像が動き地下へと繋がる階段が現れた。


「では行ってまいります」


祈りの間はエターナルリーベの取得者しか入室できない。

ユーリウスが心配そうに見つめている。

カイルやその他の護衛達は半信半疑のようだ。

私が祈りの間への階段を降り始めると、ユーリウスの側近達の間からざわめきが起きた。

「取得者だ」という声が上がる。

その声を無視してどんどん奥へと進み、しばらく歩くと魔法陣が描かれた白い大理石の扉が現れた。開門の呪文を唱えると、扉はギシギシ音を立てながらゆっくりと開いていった。


「聖結界、久しぶりだな」


清浄な空気に包まれる。聖結界の中は少しも音がしない静謐な空間だ。

中央に浮かび光っている巨大な水晶がエターリア連合王国全体の聖結界システムを稼働させている聖魔石と呼ばれる石だ。

聖結界はこれに何層もの魔法陣を重ねがけすることにより、地下の聖流脈を通して隣の聖結界と繋がり、国全体を覆う防衛魔法陣を起動させて、腐海の侵食を防いでいる。

多くの人は誤解しているが腐海は周囲から来るものだけではない。

地下からも這い上がってくるのだ。

だから私が少し聖結界を操作して、中央(エターリア)の聖結界と北部との繋がりを切ってしまえば、北部は防衛魔法陣の範囲から外れて、地下から腐海に侵食される。


「そう考えるとやっぱりエターナルリーベ取得者が一番の権力者だよね」


 例えば私がシュルンベニアに対して聖脈を断ち切るぞと脅せば、シュルンベニアを私の言いなりにすることはできる。

フィオリーネなんてすぐに蹴散らせるだろう。

だが前世も今も私はそのような使い方はしたくない。

聖結界を悪用するような人間はそもそも資格適応者から弾かれてしまう。

純粋に国を支える気持ちを持つ者のみが取得者となり得るのだ。


私は聖魔石の前に立ち、杖を振りかざした。


「出でませユースティティアが化身よ かの者の名はデル オルロワ 聖なる血と闇の魂を持つ者であり 聖魔を具現せし器」


聖魔石を覆うように魔法陣を敷くと目の前に青白い光を帯びた人型が現れた。

彼は「聖結界の代理者」と呼ばれ、聖結界システム全体を監視している管理人だ。

聖結界の仕組みに通じており、前世の私は何度も彼にお世話になった。


「サマヨイビト ナニヲノゾム」


「しばらくの間エターリアの聖結界から北部への魔力供給を遮断したいのです」


「シュヨウジョウコウニ テイショクスルオソレアリ キョカデキナイ」


「言い方を変えます。魔力不足の南部に北部の魔力を送りたいのです」


「チュウオウブモ キョウキュウトギレ ホウカイスンゼン チュウオウブガサキ キョカデキナイ」


代理者はエターナルリーベ所持者の意見を全て聞いてくれるわけではない。特に遮断に関しては慎重になる。ここは取引が必要だ。


「ほんの少しの間です。中央部と南部の両方に北部の魔力を回せませんか。その後はばーんと魔力供給すると約束しますから」


「・・・シカタナイ エターナルリーベヲモツモノ コトバ ゼッタイ ヤクソク マモル ゼッタイ」


代理者は古代語で呪文を唱えると聖魔石が光り出した。北部の方角へ光が打ち出され、魔石の一部から光が消えた。


「アマリナガクモタナイ システムコワレソウナトキ キンキュウソウチハタラク シュゴハンイセマクナル」


「ありがとうございます、デル」


名前で呼ぶと心なしか嬉しそうに、彼は淡く光った。





 ペトロネラはその様子を静かに見ていた。

中央(エターリア)神殿の聖結界がある祈りの間から少女が出てきてユーリウスと話している。

どうやら彼女は今まで聖結界の中にいたらしい。

祈りの間に入れるということは、あの少女はエターナルリーベを持っているのだろう。

ペトロネラは少女の顔に見覚えがあった。


エトノス一族


幼い頃、父に連れられてきた王宮でアレクシアの側にいた女達の中に、あの少女と同じ菫色の瞳を持つ者がいた。


「まだ生き残りがいたのか。ユーリウスで最後だと思っていたのに」


エトノスの者なら、あの少女が既にエターナルリーベを手に入れていても不思議ではない。

あの一族は恐ろしいほど聖魔力に特化した一族だった。

元は王家の分流らしいが、その能力の特殊性を買われ、長い間王家から庇護されてきた。

エトノスに娘が生まれると王族との婚姻が約束され、その間に生まれた子は高い確率でエターナルリーベを取得できた。


「どこまでも邪魔な一族・・」


 ユーリウスの母、アレクシアもエトノスの一族だった。

父がペトロネラとルイズバルト皇子との婚約を願い出て、初めて王宮に行った時にはすでに皇子とアレクシアの婚約が成立していた。

そこにペトロネラが入り込む隙間は微塵もなかった。

 王家は常に決まった者達だけを重用してきた。北部貴族はいつも軽んじられ、冷遇され続けてきた。

ペトロネラとルイズバルトの婚姻は北部貴族全体の願いでもあった。

がっかりするペトロネラにルイズバルトは優しく声をかけてきた。

その瞬間ペトロネラはルイズバルトに心を奪われてしまった。

美しくも儚く微笑む、寂しげな皇子。

この男を手に入れるためなら手段は選ばないとそう心に誓った。


アレクシアの父親のエターナルリーベを、ルイズバルトに献上した時、彼は震えていた。

「何と言うことをしたのか」とペトロネラ達を罵ったくせに、エターナルリーベはしっかりと自分の物にした。


「王のエターナルリーベを手に入れようと思ったが、北の宮は強力な結界術が施されていて入れない。作戦を変更してあの娘のエターナルリーベを頂くとするか」


ついでに顔の皮も剥いで自分のものにしてしまえば、あの美貌も我がものにできる。

さて、どのような手段にするか。

ペトロネラは変化魔法が得意だった。今も花瓶の花に扮して、聖結界に一番近い神殿の奥の間に入り込んでいる。

何でもいい、あの娘の側に近づけるもの。

ペトロネラは、ほくそ笑んだ。



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