49、永久魔導機関
ユーリウスの住む場所は「東の宮」と呼ばれる王宮の東側の棟にあたる。
作戦会議をしていた王宮の中央棟から歩いて回廊を渡り、宮への入り口を通りぬけると二階の奥にある日当たりの良い部屋へと案内された。
ここは応接室だが、寝室や衣装部屋だと思われる扉がいくつか繋がっていた。
広いが、余分なものは一切置いていない。花瓶すらないので、かなり殺風景だ。
理由を聞いたら昔、花瓶に毒草を入れられたことがあり、それ以来危険なものは撤去したらしい。
ユーリウスの置かれている境遇がどれほど危険なのかを改めて感じて、私の表情は険しくなってしまう。
テーブルにお茶の用意がされ、ユーリウスは人払いをすると、椅子にかけるように私を促した。
向き合って座り、お茶を一口いただくと、ユーリウスが言葉を発した。
「私も君に聞きたいことがあったのだ。ちょうど良い機会だ。私から先に質問しても良いか」
「はい、何でしょうか」
「私と君の魔力の質は思った以上に近いものらしい。相乗魔法であのようになるのは滅多にないことだ。中央貴族でもない君が、何故中央の色を纏っている?」
「わかりません。私はグレゴリ家に養子に入る前は孤児でした。生後間もなくビストニアの孤児院の前に捨てられたので、親の顔が分かりません」
「ビストニアか・・しかし魔力の質からいっても、中央生まれであることは間違いないだろう」
ユーリウスは少し考え込んでいた。
魔力の質が近いというのが、いまいち私にはピンと来ないのだが、ユーリウスは他人の魔力を感知する能力が通常よりも高いようだ。
「やはり孤児ではユーリウス様のお側に仕えるのは無理でしょうか」
「違う。私は人の出自で判断したりはしないし、私の母も平民だった。少し別の可能性を考えていたんだ。では本題の聖結界の話をしようか」
ユーリウスは私を探るように見つめた。
「アデルベルトは北部を聖結界システムから外すと言った。そんな方法は一つしか思いあたらない。君は持っているのか?エターナルリーベを」
ユーリウスがいきなり核心をついてきた。私が頷くと、彼は目を見開いた。
「どのようにして取得したのだ?王笏が必要なはずだが、王族でもない君が手に入れられるわけがない・・」
「生まれつき持っていたんです」
「・・救いの御子・・なのか」
ユーリウスが信じられないという顔で、ぼそりと呟いた。
「王家に保管されている古文書で、そういった記述があった。聖結界が危機に陥った時、時を巻き戻すために発動する永久魔導機関があると。同じような例が大昔にも一度だけあったようだ。その時もエターナルリーベを持った救いの御子が現れ、御子の周りには御子を助けるための記憶を持った者達が転生して、世界を良い方向へ導いたらしい。
君は前世でエターナルリーベを取得したのか?」
「はい、前世で私とユーリウス様は知り合いでした。私はユーリウス様から王笏をお借りしてエターナルリーベを得たのです」
「私から?つまり私には取れなかったということか」
「前世のユーリウス様は、私が出会った頃には既に薔薇の呪いで聖魔力を封じられていたんです」
ユーリウスが固まった。
「犯人の心当たりがありすぎるな。それで護衛達が私から離れないのか。アデルベルトとマティアスも記憶持ちなんだな」
「よくわかりましたね」
「あの二人は最近どこまでもついて来るから、おかしいと思っていたんだ」
ユーリウスの話によると、二人は浴室やお手洗いの中までついてこようとしたらしい。私としては二人の忠臣っぷりを評価したい。
「それで私と君はどこで知り合ったのだ」
「ユーリウス様は王宮魔導士庁の長官で私が直属の部下でした。そのあと、エターナルリーベの取得方法を教わるために師弟関係を結びました」
「機密条項保持のためか・・・待て、まさかこのお守りを作り君に渡した師匠というのが私なのか?」
「そうです」
「・・・・!」
ユーリウスが絶句した。
しばらく考え込んで、私の方をじっと見つめた。
「私は確かに、このお守りの魔法陣を王宮図書館で見たことがある。だが君は、この魔法陣の本来の役割を知っているのか?」
「役割・・とは何でしょうか?」
「・・・やはり、知らないのか」
ユーリウスは大きくため息をついて、頭を抱えた。そして右手首のお守りに触れながら、魔法陣を見つめている。
「ユーリウス様、エターナルリーベをお見せしましょうか」
ユーリウスが顔を上げる。
それが同意だと見て、私はブラウスのボタンを上から一つずつ外していく。
「いや、それは・・」
彼は耳まで真っ赤にして止めようとするが、気にせず三つめのボタンまで外した。
どうせ一度見られているので、私はもう開き直っていた。
バンッとエリを開くと下着でほとんど隠れているが、エターナルリーベの上部がチラリと覗いた。
「これが、エターナルリーベ。魔法陣なのか」
私の胸に細かな装飾の鎖型の円が浮かび上がる。
ユーリウスの手が自然と伸びて、私の胸に触れた。
するとエターナルリーベがクルクルと回りだし、魔法陣が空中に浮き上がった。
魔法陣はそのままユーリウスの右手から腕へと這い上がり、全身を包むと、淡い光を放ちながらキラキラとした鱗粉のように魔力の粒を振りまいて収束していった。
他人に触れられるのは初めてなので、このような不思議な現象は私も見たことがない。
「綺麗でしたね・・・ユーリウス様?」
ユーリウスの様子が変だ。
言葉を失ったまま、じっと静かに固まっている。
「リティ・・リティアーナ・・」
「なんでしょう?」
「いや・・まずは衣服を整えよ」
ユーリウスは視線を私から外した。そのまま黙考に入ってしまったので、私はお茶を飲みながらユーリウスの考えがまとまるのを待った。
「確かに・・エターナルリーベを持っているのならアデルベルトの作戦は有効だと言える・・リティアーナ、頼めるか?」
「もちろんです。わたくしユーリウス様の為なら何でもやると言ってますでしょう」
私が胸を張ると、ユーリウスの手が私の頭にそっと触れた。
「ずっと君を巻き込みたくはないと思っていたが、やはりそうも言っていられないようだ」
「ユーリウス様・・・」
「決して無理はするな、リティアーナ。アデルベルトは簡単にやれというが、聖結界の目的とは真逆の行為をしようというのだ。聖結界がどのような反応をするのかはわからない。駄目だと思ったらすぐに戻るんだ。わかったな」
「わかっております、ユーリウス様。こう見えてもわたくし百戦錬磨をくぐり抜けたAAA +冒険者ですから。状況判断は得意なのです」
えっへんと自慢げに言うとユーリウスは複雑そうな顔をした。
貴族なのに冒険者だと自慢するのはユーリウスの価値観に合わなかったのだろうか。
しかし前回、私が妖精石の話をした時は彼は冒険に行くのが羨ましいと言っていた筈だ。
一緒に妖精石を取りに行く約束もしたというのに、あれは何だったのだろう。
ユーリウスを見つめると、彼は何も言わずに、ただ目を細めた。




