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41、小聖結界の構築

 メクルベニアの領主館は、小聖結界を張るには打って付けの場所だった。

エターリアの領土の各地にある聖結界は聖脈という魔導流の流れを通じて、それぞれが繋がっている。

その聖脈が屋敷の庭の花壇の真下を走っていた。


「ここなら中央(エターリア)神殿の聖結界とも繋がっているので上手く結界が張れるでしょう。こんな都合の良いことってあるんですね」


「ここは元々傍系王族の離宮だった場所だ。その一族は今はもういないが、聖魔力の強い一族だったので、ここから中央エターリア神殿の聖結界に向けて魔力供給をしていたとしても不思議ではない」


そう言ってユーリウスは遠い目をした。

なんとなくそれはユーリウスの親族のような気がした。

遠隔地からも聖結界に魔力供給ができるような有能な家系を、王族はなぜ失ったのだろう。

その一族がいればルイズバルト王はたった一人で聖結界への魔力供給をする必要がなかったかもしれないのに。

詳しく聞きたいがユーリウスの険しい表情を見ると、聞けるような雰囲気ではなかった。


「小聖結界も本来は祈りの間を起点にするのが基本なのですが、今回はここの庭から妖精石を擬似聖石に見立てて張っていこうと思います」


私が袋から取り出した妖精石を見て、ユーリウスが目を丸くした。


「大きいし高純度だな」


「でしょう。今回使うのは特に上質で純度の高い妖精石です」


「そのような物どこで取れるのだ」


「これはオルロワのテレティアナ山の麓で採りました。途中ゴースキメラの群れに襲われて大変だったんですよ。まぁ、そちらの方も全部ひっ捕まえて羽をむしって売っぱらいましたが」


ユーリウスが眉を寄せた。

少し貴族女性らしくない物言いだったかもしれない。


「確か冒険者AAAだったな」


「AAA+です」


+が付くか付かないかは業界内では大きな違いなのだ。間違えないで欲しい。


「どちらでも良いが、楽しそうだな。羨ましい・・私も自由があれば行ってみたいものだ」


「いつか一緒に行けるといいですね」


王族であるユーリウスは基本的にエターリアからは出られない。エターナルリーベ取得者になってしまえば、他に取得者がいない限り聖結界に張り付いて魔力供給する日々となる。

私も前世では素材採集どころか王宮からは一歩も出られなかった。

王家のエターナルリーベ取得適応者として生まれたばかりに、生きる道を決められてしまうのは少し気の毒な気もした。


「そろそろ始めましょうか」


私が妖精石を地面に置くと、ユーリウスが身を乗り出した。


「ユーリウス様は聖魔力が強いので、聖脈が読めますよね」


「ああ、問題ない」


ユーリウスは軽々と聖脈を読み取った。ユーリウスが疑似聖石に魔力を流すと、地面に金色の筋がいくつも浮かび上がる。


「妖精石が疑似聖石となって聖脈から魔導流の流れを一時的に吸い取っています。ここで疑似聖石に向かって聖言を唱えます。教えますから、やってみてください」


私が聖言を伝えると、ユーリウスは一発で暗唱した。さすが我が師匠ユーリウス、若い頃から優秀である。

早速ユーリウスは疑似聖石に向かって聖言を唱えた。


「我を守りし聖なる至宝

東のリーベ

西のデル

北のオスカナ

南のユリル

ユーリウス ソリド エターリアの名において

ここに堅牢なる守護陣を敷く

そは永遠なる愛 そは悠久の力

我が願いはあらゆる時を超え

聖オルティスの流れとともに 我らに不滅の守りを与えよ」


疑似聖石が浮かび上がり、金色の光が溢れて、空を覆っていく。

それは中央エターリア神殿にある大聖結界石により大空に張られた守りの力と反応して一瞬虹色に光ると、キラキラと光の粒を撒き散らして同化していった。

あまりにも美しい情景に、遠巻きに見ていた屋敷や護衛の者たちから歓声が沸き起こる。


「初めて聞く聖言だ」


「ユーリウス様が将来エターナルリーベを取得する際に必要になる大切な言葉なのでしっかりと覚えておいてください」


「何故それを君が知っている。オルロワには古い伝承を伝える本でもあるのか」


聖言は古くから使われているので神話の本などには頻繁に登場する。前世、エターナルリーベの取得方法を王から教えてもらえなかったユーリウスもそういった古典の類から導き出したのだろうが、私には分からない。


「昔、師匠だった方に教えてもらったのです」


「その師匠とは誰だ?」


「それは言えません」


「何故言えないのだ。そのような貴重な情報を持つ者ならば、当然高名な者であろう?」


前世のあなたに教えてもらいましたと言ったら信じてくれますか。


私は何も言えないまま、ユーリウスを見つめた。

ユーリウスは苦虫を噛み潰したような顔で私を睨みつけている。


「君は信じろと簡単に言うが、大切な情報を隠すような人間など、私は信用できない」


ユーリウスは身を翻して私から離れた。


「ユーリウス様、素晴らしかったですわ」


屋敷の方から、ユーリウスの魔術を見ていたフィオリーネが頬を紅潮させて、興奮した様子で駆けてくる。

ユーリウスは相変わらずの仏頂面だが、無視するようなことはなかった。

将来王となるからには、各領地の領主候補とは親睦を深めておかなければならないだろう。


地位と能力。


身分が高く血筋も問題ない。魔力的にも優秀であり、王から認められた婚約者である彼女。

フィオリーネはユーリウスが王になった時、王妃に必要とされる要件を全て兼ね備えている女性だ。

孤児院育ちの私が太刀打ちできるような相手ではない。

第一、それがバレたら私が王妃になどなれるはずがないのだ。

ユーリウスが王になるということは、そういうことだ。

私はそれでもユーリウスを王にするために手を貸さなければいけないのだろうか。


彼がエターナルリーベを取り、王となる日。

それは私たちの道が分かれる日。


私は今度こそ本当に、この想いを諦めないといけないのかもしれない。




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