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4、孤児院生活

「あなたの名前はリティアーナよ。愛称はそうね、リティがいいわ」


 「聖なる山、テレティアナの名から取ったのよ」と、そう言われてぐりぐりと頭を撫でられた。どうやら私は命を救われたらしい。見知らぬ誰かが砂糖水を飲ませてくれて、オムツを替えてくれる。

 世話をしてくれている人たちの服装から、彼女達が教会関係者なのだとわかる。

恐らく教会に隣接する孤児院か救護院の類に保護されたのだろう。

赤ちゃんなので寝たままだが、ここがどこなのかは言語から推測できた。


ビストニア


 エターリア連合王国の西の領地だ。

エターリア連合王国は中央のエターリア政府と、それを囲む六つの領地により構成されている連合制の王国だ。

それぞれが聖結界と呼ばれる国を支える防御壁を持っており、外部の腐海と呼ばれる森の侵略と魔物達の侵入を防いでいる。

 前世では政変の粛清により王族を始め領主一族が大量に殺され、魔力不足でこの聖結界が弱まった。

それによりいくつかの町が腐海に飲み込まれて、多くの平民が死んた。

 ビストニアはその中でも、最も被害の大きかった領地だ。

ここは中央で王位継承争いが起きる以前から、政情が不安定になっていた。

周囲を見回すと、私と同じように魔力持ちの赤子が何人かいる。

魔力持ちは主に貴族に生まれるので、領地内で内部抗争がすでに始まっているのだとわかる。

もしかしたら私もその内部抗争の末、貴族位を剥奪されたどこかの家に生まれて捨てられたのかもしれない。


 そうして私の孤児院生活が始まった。四歳にもなると、いろいろなお手伝いをさせられた。

朝は早起きして井戸から水を運び、鶏の卵を得るために格闘し、私よりも小さい子達の面倒を見て日々が過ぎていった。

孤児院は常に貧窮しており、食事も衣服も満足には与えられない。

虫の湧いた藁のベッドで雑魚寝することも、カビの生えたパンを食べることも、前世の私には一度も経験したことがない衝撃的なことだった。    

 私は前世は不幸せだと感じていたけれど、ふかふかのベッドと美味しい食事があるだけでも幸福なことだったのだと悟った。

 お金のない孤児院は、冬を越すのも大変だった。

干し肉や芋などを買うために、子供達も簡単な仕事を得て働いた。

 しかもその頃、ビストニアの内部抗争はますます深刻化して、領主の後継者争いに巻き込まれた末に取り潰しとなり、親を失った貴族の家の子弟が次々と孤児院に預けられてきていた。


 ロンとベスは兄妹で魔力持ちだ。ロンは私よりも少し年上でベスは同い年だ。

妹のベスはともかく、ロンの魔力はかなり強く、彼はそれを悪用してお金を得ていた。

 具体的には火魔法で放火騒ぎを起こし、その隙に店頭に置いてある食べ物を盗んだり、すれ違いざま金持ちに火傷を負わせ、パニックに陥っているうちに金目のものを奪ったりということだ。


「ロン、また行くの?もうやめた方がいいよ。この間、街でロンを探してる店主がいたもの」


六歳になった私は必死にロンを止めた。

その頃には孤児院の男の子が悪事を働いていると、街では噂になっていたからだ。


「お兄ちゃんがいなくなったら私生きていけない。お願いだから悪いことはやめて」


 ベスの必死の懇願にも関わらず、ロンは首を横に振った。

孤児院には人手が少なく、お金も食料も足りていない。

ロンのしていることは悪い事だったが、それで得たお金は孤児院の子供達にとって必要な生活の糧となっている。

これではいけないと私は感じていた。

何か自分にできることで、お金を得る手段を考えなければいけない。


 一年後のある日、ロンがとうとう街の衛兵に捕まった。

私はその頃ギルドに登録して、冒険者稼業をやり始めたところだった。

前世の知識を活かし、森で薬草などを集めて業者に売ったり、魔法陣を付したお守りを作ったりして収入を得て、孤児院にお金を入れていた。        

 ロンが囚われた拘置所にベスと一緒に何度も足を運び、被害を受けた店主達に謝り、和解金を支払って、ロンがやっと解放された。だが孤児院に戻された時、彼の右腕にはおぞましい黒薔薇のツルがぎっしりと巻きついていた。


薔薇の呪い


 魔力を抑制する呪いの一種で、高位の闇魔法だ。ロンが二度と魔法を悪用しないように、領主が自ら施したらしい。

私は前世、ユーリウスの右腕にも同じものが巻きついているのを見たことがあった。

体内魔力を無理やり押さえつけるので、痛み出したり、時には動くことができなくなったりする。


「ロン・・・」


「リティの言う通りだった。俺って馬鹿だよな」


 ロンは笑いながら言ったけど、目は泣きそうだった。

生きるために彼が犯罪を犯すことは必然だった。誰がそれを責められよう。

責められるべきは罪のない子供達に充分な施しを与えられない領主であるべきだ。


「ロン、守ってあげられなくてごめんね。私、もっと強くなって、孤児院の皆がお腹いっぱいご飯が食べられるようにするから・・」


 魔力をうまく調整するための杖も、稼いだお金で手に入れた。これで魔物を倒すことができるようになったし、その素材を売れば孤児院を運営するための費用は充分に稼げる筈だ。


もっと早くに手に入れていれば、ロンを止めることが出来たのに・・。


 悔しいが、今の私にできることは非常に限られている。皆を守れる力が欲しいと切実にそう願った。


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