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34、お守り

 秋を迎えて、エターリアの情勢はますます悪化している。

第一皇子は北部を起点に勢力を拡大しているし、第二皇子も首都で不穏な動きを見せ始めた。

 私は上空の聖結界を見つめた。

聖結界の膜が春に比べて薄くなってきている。

王の祈りが足りていない証拠だ。

このまま守りの力が薄くなっていけば、聖結界は安全装置が働き、自動で守護範囲を狭くする。周囲の領地の境界線が狭まり、腐海に侵食されるのだ。

 前世で最も力を注いだのが、元の領土に戻す事だったので、私は嫌な焦燥感に駆られた。



 

 学校に着くと、マティアスからいきなり護衛を紹介された。


「王宮近衛騎士のマットとグレンだ。知ってるだろう」


もちろん前世では会ったことがある。問題は何故ここにいるかだ。


「ユーリウスがリティの身辺警護につけろってさ。ヴェルスハルトがリティに目をつけたらしいからな。マット、グレン、頼んだぞ」


「はっ」


マットとグレンが教室の入り口に立つ。一体何事かとクラスの皆がギョッとしながら私を見てきた。


「マティアス、護衛なんて必要ないです。いざとなったら転移陣で逃げますから」


ただでさえ領主一族の側近が三人もいるせいで、影では「女王様」とか呼ばれているのに、さらに王宮近衛騎士までついたら、今度はどんなふうに言われるのか気が気でない。


「だめだ。リシュリアも何かやらかしたらしいし、二人を守るためには護衛は何人いてもいいくらいだ」


「リシュリアがやらかすなんて珍しいですね。いつも沈着冷静なのに」


「そうか?意外に直情的になることもあったぜ」


前世のリシュリアは年上のお姉様的存在で、私からしたら何でも相談できる頼りになる人だったけど、同級生のマティアスからすると違う面も見えていたのかもしれない。


「私に護衛をつけるよりもユーリウス様の方が大事ですよ。私なんて平民出身のただの貴族の養女で、誘拐したって一銭も取れないんですから」


その言葉にクリスタが大きくため息をついた。


「何度言ったらわかるんですか。リティ様の魔力量を考えたら、その価値は計り知れないです。ユーリウス様だって必ずその価値に気付いて、そのうち前世のように求婚してくれるでしょう」


「それって例のエターナルリーベを得るためとか、資格を持つ子を産むためとか、そっちの方の理由ですよね。わたくしは地位とか能力など関係なく、わたくしだけを求めて欲しいのです」


「それは無理ですわ。リティ様」


「何故ですか」


「王族であるユーリウス様の立場で、地位や能力を抜きにして妻を選ぶなんて、まず考えられませんもの。普通に考えて領主一族、もしくは王家に連なる親戚筋の方で魔力量の多い方になるでしょう」


「なるほど」と思った。

確かに永続的な関係を求めるなら、王家に嫁ぐためには地位と能力は必要不可欠である。


「つまりわたくしの今の地位でも難しいということですね」


クリスタは何も言わなかった。




 お昼時間に食堂に行く途中で、ユーリウスを見かけた。深緑色の長髪の見知らぬ女性と、中庭の東屋で仲良くお茶を飲んでいる。


「誰でしょう?」


「シュルンベニアの領主一族、フィオリーネ様です。アデルベルトからの情報に寄ると、ユーリウス様との婚約話が持ち上がっているようですわ。前世でも彼女は一時期、婚約者だったそうですよ」


クリスタが教えてくれた。

前世のユーリウスに婚約者がいたことは初めて聞いたので、私はかなりショックだ。


「あの制服は校則違反ですよね」


「そうですね。少しのアレンジの範疇ではありませんね」


フィオリーネの制服はかなり奇抜だ。基本的に黒か紺が基調でなければならないのに、彼女の制服はピンク色だった。さらにレースがふんだんに使われていて、舞踏会でも滅多に見ないくらい派手さだ。

あんな女とユーリウスが結婚するとは、とても思えなかった。


「ちょっと近づきすぎじゃないですか。腕とか触ってるし、胸とか押し付けてるように見えますけど・・」


「落ち着いてください。リティ様」


「わたくしお邪魔しに行ってきます。それにユーリウス様に渡したいものもあるんです」


私はクリスタが止める間もなく走り出し、彼らの側近達を振り払って東屋の中に入りこみ、強引にユーリウスの隣に座った。

彼の右側が私、左側がフィオリーネである。


「な・・何ですか、あなた」


フィオリーネが突然の乱入に金切り声を上げた。ユーリウスがこめかみを押さえながら、迷惑そうに私の方を見た。


「リティアーナ嬢、貴族女性が校内で走ったり、このように断りもせず勝手に同席したりするものではない」


早速ユーリウスに叱られたが、今世の私は孤児院育ちの平民だ。貴族の常識は前世に置いてきてしまった。よって、気にしないことにする。


「おいしそうなお菓子ですね。一ついただいてもよろしいですか」


言いながらパクりと口に入れた。

シュルンベニアの特産品、甘酸っぱいリンリンの果実をふんだんに使った特製ゼリービーンズである。


「おいしい。わたくしの大好物なんです。少し持って帰ってもいいですか」


「・・私の話を全然聞いてないな・・」


遠慮なくパクパク食べる私を、フィオリーネは目を吊り上げ、ユーリウスは呆れた顔で見ていた。


「リティ様、ご迷惑ですよ。それに、そろそろ次の授業が始まりますから参りましょう。」


クリスタが背後から耳打ちした。今世、あらゆる糖分不足の私は、お菓子を見るとつい手が止まらなくなってしまう。これは反省せねばならない。


「そうだ、ユーリウス様。ちょっと右手を出してくれませんか」


ユーリウスは嫌がったが無理矢理、右腕を掴んで身体強化で持ち上げた。

そして懐に隠し持っていたお守りを取り出す。

リティ特製、呪い耐性はもちろん、毒耐性、守備力、攻撃力向上、魔力量増加など他にもいろいろ、ありとあらゆる効果をつけたスペシャルアミュレットである。

実は前世のユーリウスが私に贈ってくれたものだが、くれた本人に付けることになるとは思わなかった。

ユーリウスが逃れようと魔力を纏わせるが、私は無効化呪文であっさりと弾いた。

すかさず右腕にお守りを巻き付けて呪文を唱えれば完了だ。

お守りはユーリウスの手首のサイズに伸縮し、鈍く光ると吸い込まれ、タトゥーのように鎖の形に刻み込まれた。


「よし、これで完璧ですね」


「なっ、何をした?この魔法陣は何だ?」


「お守りです。私の師匠が、かつて私のために作ってくれたものと同じものです」


「君の師匠だと?アブラムのことか」


「前世のあなたです」とは言えない。私はその質問には無言を貫いた。


「こんな気持ち悪いもの、今すぐ外せ」


「えへへ、無理です。そのお守りの外し方は教えてもらっていませんから」


唯一の方法は私が死ぬことだ。前世でユーリウスの命が尽きたことを、最初に教えてくれたのがこのお守りだった。


「ユーリウス様、そんな変な子、放っておいて行きましょう」


フィオリーネが私を睨みつけながらユーリウスの腕を引っ張り、二人は怒りながら校舎の中へと入っていった。


「これは・・また嫌われちゃいましたかね」


クリスタが「あ〜っ」と大きくため息をついた。




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