29、マティアスの誓い
オリエンテーリングとはあらかじめ決められたポイントを巡り、いかに早くゴールに辿り着けるかを競う競技である。今回はそれプラス、より良い素材を集めることにより、ポイントが上乗せされる特別ルールが設けられていた。スピードだけでは上級生には勝てないので、新入生でも勝てるように設定されたようだ。
私たちは今、一人一つずつ袋を担いでビーザムに乗り、北方の山脈へと向かっている。
本当は転移陣で移動すれば一瞬で済むのだが、ビーザムの操縦技能訓練も兼ねているのだ。
私たちの班は、護衛のために送られてきた王宮近衛騎士団の数人と王族の従者達もついてきているので、なかなかの大所帯だ。
従者はユーリウスよりもジャファラーンの方が多い。
ジャファラーンも身の危険を感じて護衛騎士をさらに増やしたらしい。
近衛騎士団の騎士達を先頭にして、お互いの距離を取りつつ、しばらく飛行を続けた。
「マティアスもユーリウス様の従者なのですか」
ビーザムで並びながらマティアスに問うと、彼はコクンと頷いた。
「ああ、俺は前からそうだぜ」
前からとは、前世のことだろう。
ユーリウスとマティアスが仲が良かったのは知っていたが、もともとは従者だったというのは驚きだった。
「父上が上に立つものは下のものの気持ちも汲まなくてはだめだと言って、俺をユーリウスの従者にしたんだ」
ネメシスニアの次期領主として育てられたマティアスが、人に使われるという経験は耐え難いことだろう。
それをあえてさせるマティアスの父親は、なかなか厳しい人だと思う。
しかし、本人はともかく、マティアスは剣の腕も立つので、ユーリウスにとってこれほど力強い味方はいない。
「マティアス、確認したいことがあるのですが・・・」
「ああ、呪いの件だろ。アデルベルトとカイルの三人で、ユーリウスを絶対に一人にはしないようにしている。
それから呪いの種はネメシスニアの呪術師が作っている魔術具だから、使用目的がはっきりしない者には売らないように領地に通達を出しておいた」
「売らないとか、作らないとかいう手段は取れないのですか」
「残念ながら、あれは貴族に罰を与えるには一番有効な手段だ。流通を止めると他領から苦情が出るし、裏で作って売ったりする奴が出てくるだろう」
呪いの種が出回らなければ良いと思ったけれど、そういう訳にもいかなさそうだ。
「そもそも、そのような罰が必要なのでしょうか」
「どういう意味だ?」
「薔薇の呪いは呪われた人間の人生を一生縛ります。悪いことをしたら罪を償うのは当然ですが、それは一生をかけて償わなければいけないことでしょうか。許すことも大切ではありませんか」
「ユーリウスの場合は別として、薔薇の呪いは、本来は魔力を悪用した者への罰だ。被害を受けた者達が、果たしてそれを簡単に許すことができると思うか?」
「・・それは・・・」
「当然、彼らは悪用した者に対して、二度と魔法なんて使えないようにしろと願うに決まっているだろう」
黙り込んだ私を、マティアスが気遣わしげに見ていた。
「安心しろ。俺は今世こそは、ユーリウスを守って見せると剣に誓っている。前世のように、あいつをみすみす死なせはしない」
私の懸念を汲んだマティアスが、力強く約束してくれた。
ユーリウスの側に、常にマティアスとアデルベルトがいるというだけで、私は安心できる。
「ありがとうございます、マティアス。アデルベルトにも、よろしくと伝えてください」
「アデルベルトがお嬢に会いたがってたぜ。どうして俺だけ三つも年上なんだってね」
「わたくしもアデルベルトに会いたいです」
「近いうちに会えるさ」
そうこうおしゃべりしているうちに目的地に到着した。
北の山脈にあるティティオス湖周辺は、なだらかな傾料地で初心者が動き回るには打って付けの場所だ。すでに私たちの班だけではなく、他の班も到着して準備している。
早速各ポイントが書かれた地図を受け取ると、歩いて出発した。
「お嬢、北部は第一皇子を強硬に推す王の正妻ペトロネラの実家があるところだ。何があってもおかしくないから、気をつけろ」
マティアスから忠告を受け、気を引き締める。ユーリウスの身の危うさを改めて感じて、思わずため息が出た。




