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25、授業初日

 結局、ユーリウスを襲った黒魔導師達は捕らえられないまま、新学期が始まった。

王族を狙った襲撃事件が起きたということで、首都はピリピリムードであり、街では衛兵をよく見かけるようになった。

王宮から近衛騎士団が学校に配属され、王族の警備にあたるらしい。

私はクラスが違うので知らないが、ユーリウスと同じクラスの子達は事前のセキュリティチェックが大変だったようだ。


 今日は授業初日である。

私は真新しい制服に身を包み、門をくぐった。

 魔導学校には制服の種類が夏服と冬服共に男女それぞれ四種類ずつあり、個人でアレンジすることが許されている。

私の制服はこの中でも一番シンプルなデザインである。

黒に近い袖なしの濃紺のジャケットは、割と体にピッタリとしたデザインで、白の縁取りが清純な雰囲気を醸し出しており、真ん中には紋章入りの渋金色のボタンが縦に三つ並んでいる。

白のブラウスは肩の部分がほんのりバルーン型で、首元に大きな濃い赤色のリボンを一つ付けて、全体の雰囲気を優雅に見せ、ふわりとしたフレアスカートには、裾に白の縁取りとフリルが付けられており貴族らしい装いとなっていた。

前世では膝下までの長いスカートだったが、今世は動きやすい膝丈のスカートにした。

靴下はジャケットと同じ濃紺色で、上部の白のフリルがかわいらしい。

靴は皮のローファーだが、実はここに私は痺れ薬を塗った暗器を忍ばせていたりする。

いかなる場所でも戦闘準備を怠らないことは大切だ。


「ビーチェ、おまたせしました」


「リティ、遅いわよ。授業が始まっちゃうじゃない」


 校門で待ち合わせをしていたビーチェが、不機嫌そうに唇を尖らせた。

ゲオルグは現在、クリスタの命を受け、アクアーリアを第四皇子派にするための工作活動をしていて、魔導学校を休校している。どうやら事情を知り、自分も何か役に立ちたいとビーチェは私の側近になってくれたようだ。

 ビーチェとクリスタの二人は、彼女たちが一緒にしたいと言って聞かなかったので、私とお揃いだがリボンの色だけが違う制服を着ている。

私としては、その気持ちがちょっと嬉しかったりする。

 高位貴族の養女に過ぎない私が、領主一族の側近を二人も連れているということで、私は周囲から、かなり奇異の目で見られている。目立ちたくない私にとっては、少々居心地が悪かったりするが、当の二人が気にしていないようなのでどうしようもない。

 それから、入学してしばらくして分かったことだが、なんとユーリウスと同じクラスに前世の私の忠臣、リシュリアがいた。

リシュリアは制服が間に合わなかったのか、一人だけ私服で音楽の授業を受けていた。

音楽は選択制なので、クラスは関係なく自分で好きな講義を受けられる。

リシュリアは私を見るなり駆け寄り、涙を浮かべて跪いた。


「アストリット様、まさか同じ世代でお生まれになっているとは存じ上げずに、ご無礼したこと申し訳ございません」


「リシュリアが謝ることではありません。わたくしもまた会えたことうれしく思います。それよりも立ち上がってくれませんか。少し目立っているようです」


私たちを見つめる周囲の視線が痛い。リジェグランディアの領主一族まで取り込んだかとか言われてため息をつかれたり、とんだ女王っぷりだとかいう声まで聞こえてくる。


「申し訳ありません、わたくし癖でつい・・・」


「リシュリアは悪くありませんよ。わたくしが少し気にしすぎなだけですから」


私が微笑むとリシュリアも笑顔になった。

リシュリアは十三歳には思えないほど大人びていて、瘦せ型で背も高く灰色のロングヘアが美しい。紫色の瞳は光によっては青く澄んだ輝きを放ち、目鼻立ちも整っていて、通り過ぎたら思わず振り向きたくなるほどの美少女だ。

日焼けしてお肌真っ黒な私が並んで歩くのは、忍びないほどの差があった。


「どうして制服ではないのですか」


「実は結婚が決まっていて、ここに通うつもりはなかったのですが、相手が不慮の事故で亡くなり、女性としての経歴にも瑕疵がついてしまったので、もう魔導学校に通い、魔導士になるくらいしか領地の役に立たないとお父様に言われまして、急遽入学することが決まったのです」


結婚寸前までいって、次の結婚に差し障るような何かしらがあったということか。

貴族社会は結婚する年齢はいい加減なくせに、外面を妙にこだわる所だ。


「お相手は、どなただったんですか」


「中央で副魔導士長をしていた、ダライナ公ですわ」


「アブラムの部下ですね。お会いしたことが一度だけあります」


確かアブラムに連れられて魔導士庁に行ったときに会ったはずだ。中年の小太りのおじさんでリシュリアに釣り合うとは思えない。それに確か前世では強硬な第一皇子派だったはずだ。


「お気の毒ですが、リシュリアにはもっと良い出会いがあると思いますよ。それよりも聞きたいことが・・」


「お~い、リティ」


私がリシュリアに前世での記憶のことを聞こうとしたら、向こうからレイヴァルトがやってきた。

リシュリアがレイヴァルトを見て目を丸くする。


「お兄様!?お二人はお知り合いなのですか」


「実は第四皇子派に引き入れたのですよ。今はユーリウス様の側近をしています」


「ユーリウス様の!?」


「校内で襲撃事件が起きたので、レイも護衛任務についてくれているのです」


リシュリアが驚いてレイヴァルトを見る。


「久しぶりだな、リア。こんな美人になって。

結婚の件、聞いたぞ。災難だったな。あの家が嫌になったらいつでも俺の所に来いよ」


レイヴァルトがリシュリアの頭をガシガシと撫でながら、労るように笑いかけた。

リシュリアの美しく漉かれた髪が、みるみるぐちゃぐちゃになっていく。


「や・・やめてください、お兄様」


「ああ、悪い、悪い。あんまり愛らしかったから、つい可愛がりたくなっちまった。それよりも何?お前ら知り合いなのか?」


レイヴァルトが私とリシュリアを交互に見る。


「わたくし達、前世からの仲良し義姉妹しまいなのです」


「アストリット様!」


リシュリアがびっくりして私を見る。私的にはそう思っているのだが、迷惑だっただろうか。


「そうか、じゃあ俺はお前達の兄貴だな。可愛い妹達のために俺、頑張るよ」


レイヴァルトが私たち二人をギューと抱きしめた。

リシュリアの顔色が、何故か真っ青になった。



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