21、王立魔導学校
王立魔道学校はエターリアの首都、アルランローゼにある。各領地から毎年百名程度の学生が新入生として入学しており、三年間学んだ後、それぞれの領地もしくは中央にて職に就く。
始業式は校内の大講堂に三千名程の学生と学校関係者、及び各領地の代表が集められ、熱気と人いきれに包まれていた。
最初に王の挨拶があった。
ルイズバルト王は年齢は五十代位だろうか。
面差しはどことなくユーリウスに似ていた。非常に痩せていて覇気がなく、弱弱しい声が体を悪くしていることを感じさせた。
彼が私を除くと、現在唯一のエターナルリーベ所持者である。
エターリア連合王国全体を包む防御機能が、この病弱そうな王一人の肩にかかっていると思うとやるせない思いがする。
聖結界の安定保持のためには、最低でも三人はエターナルリーベ所持者が欲しいものである。
王の挨拶が終わると、校長の挨拶があり、来賓のそれも終わって、学生生活の諸注意を受けるまでの間に少し時間が空いた。
私はユーリウスを探して講堂内を見回した。
王族席は前方にある。
そこだけ立派な敷物が敷かれ、他との差異を強調させていた。
単なる名誉職でしかないが副校長に任じられている第二皇子ヴェルスハルトと、一学年上の第三皇子ジャファラーン、それに第四皇子ユーリウスが順番に豪奢な椅子に座っていた。
「クリスタ、見てください!ユーリウス様がいますよ・・・もごっ」
クリスタに口を塞がれ、ギロリと睨まれた。
王族の名を気軽に呼ぶだけで、不敬にあたり投獄される恐れもあるのだ。
「なにとぞ慎重にお願いしますね」とクリスタに念押しされる。
それにしても、若い頃のユーリウス様も、かっこいいなぁ。
私は頬に手をあてて、うっとりとユーリウスを見つめた。
黒が基調の制服に身を包み、エターリアの国色である白地に金色の装飾を施したマントを纏ったユーリウスは、まだ十三歳とは思えないほど凛々しく颯然として見えた。
前世では短くしていた薄い金色の髪も、今は子供らしく肩まで伸ばしている。整った美しい顔立ちだが、十代らしく頬がまだふっくらしていて可愛らしくも見えた。
正直、彼が自分と同じ年というのは、目の前にいても理解し難い事実だ。
私は今初めて、逆行させてくれた女神に感謝した。こんな若い頃のユーリウスに会わせてくれてありがとうと、このままここで跪いてお祈りをしたい気分だ。
ヴェルスハルトが何事かを言い、席を立つ。
彼は赤い髪にオレンジ色の瞳で、確かに中央生まれの色ではない。取り替え子と噂されるのも理解できる。
私がじっと観察していると、あろうことかユーリウスが隣のジャファラーンと喋りだすのが見えた。
前世ではあの二人が仲良く話すことなどなかったので、私にとっては衝撃の光景である。
「ダメです。ユーリウス様、その男は危険です。今すぐ離れて!!」
思わず口から溢れてしまい、隣にいたクリスタが慌てて私の口元を塞いだ。
「リティ様・・・発言にはくれぐれもお気をつけください」
「・・申し訳ありません」
項垂れ、顔を上げると、騒いでいたのが聞こえたのか、ふとユーリウスの視線と私の視線が交差する。
ユーリウスは何事もなかったように、視線を再びジャファラーンに戻して話し出した。
私を無視するなんて、前世の彼では絶対にしなかった事だ。
別人なのだとわかった。
師であり恋人でもあり、常に私を導いてくれたユーリウスはもういないのだ。
あそこに座っているのは同一だけれど違う人物。
そう考えるととんでもない喪失感に襲われて、目の前が真っ暗になっていた。
どうやら私は始業式で倒れたらしい。目が覚めると見慣れない真っ白い天井と薬品くさい匂いがした。
「起きたんですね。良かったです、リティ様。気付け薬を使ったのに目が覚めなかったので焦りましたよ」
クリスタがホッとした様子で顔を出した。
「ここは?」
「教務練の二階にある休憩室です。リティ様は講堂で倒れられて、こちらに運ばれました。リティ様、喉が乾いてませんか。ジュースを持ってきますね。もうすぐお兄様が馬車で迎えにきますので、少しここでお待ちください」
そう言って部屋を出て行く。
私はベッドを降りると、何気なく窓の外を見た。
前世と今世のユーリウスが違うからと言ってそれがどうだというのだ。ユーリウスであることには違いないし、私の想いが変わるわけではない。
私のことを知らないのなら、また最初から知り合って、好きになってもらえばいいだけの話だ。
ユーリウス様が生きている。それだけでも私は満足すべきなのに・・・。
そんなことを考えながら何気なく地上を見ると、東屋の奥にユーリウスが一人で歩いているのが見えた。
これは女神が与えたチャンスに違いない。
すぐに腰のビーザムを取り出した。
次の瞬間、別の場所から一直線にユーリウス目掛けて、強い魔力攻撃が放たれた。
「襲撃?!えっ、こんなところで?」
私は咄嗟に窓を開けて、飛び出していた。




