19、養女になりました
昨日まで孤児院の拾われっ子だった私。今日からはオルロワの高位貴族グレゴリ家の娘となった。平民から高位貴族になるのは前例がなく、立身出世の極みである。
名前はリティアーナ・アストリット・イル・グレゴリという長ったらしいものとなり、高位貴族のみが許されるお印、つまり徽章は前世と同じ金色の薔薇に決まった。グレゴリ家の蔓薔薇に杖の紋章と共に、これから常に持ち歩かねばならない。
前世の名前が入ったのは、記憶持ちの臣下が間違えて昔の名で呼んでも差し障りがないようにとの配慮だ。
ちなみに貴族の苗字と名前の間に入るイルは養子を表し、ソリドは実子ということを表している。
血筋に重きを置く、貴族らしい習慣である。
そして私は王立魔導学校に入学するために、クリスタと養父となったアブラムと一緒に中央へと移動した。
クリスタは領主一族なので本来なら私より身分は上だが、どうしても私の側近になると言って聞かず、離れないので渋々グレゴリ家の屋敷に連れてきた。
今日は平民暮らしが長かった私のために、二人が中央の情勢を教えてくれるらしい。
応接室でお茶を飲みながら、まずはアブラムが王家の事情を話してくれた。
「王家にはご存知の通り四人の皇子がいます。第一皇子のディートフリート、第二皇子のヴェルスハルト、第三皇子のジャファラーン、第四皇子のユーリウスの四人です。
皆、母親が違っている上にさらに問題があり、ここだけの話ですが第一皇子は王の血を引いておりません」
「はっ?何故ですか」
私の素朴な疑問に答えたのはクリスタだった。
「浮気相手のお子なのですわ。最近も、そのような事例があったではありませんか」
クリスタが意味深な微笑みを浮かべる。
実際のところ政略結婚の多い貴族社会では、三男以降は誰の子だかわからないという例は、ままあることだ。貴族は離婚もできないので、大抵はお互い様ということで黙認される。
しかしそれは、スペアを二人くらい産んでからの話で、さすがに正妻の嫡男が夫の子ではないというのはまずい。しかも王家でというと、王家への不安感がいやましてくる。
浮気する方もどうかと思うが、周りも止めろよと言わざるを得ない。
「さらに第二皇子に関しても、これは疑惑でありますが、彼は生まれてすぐに誘拐されたことがあり、その際に取り替えられたという噂が実しやかに囁かれています」
アブラムが話を続ける。
「へっ、第二皇子もですか」
「リティ様もお会いになればわかりますが、第一皇子と第二皇子は全然、王に似てないのですわ」
前世で私が物心ついた頃には、すでに亡くなっていた二人なので、全く馴染みはないがそのような裏事情があったとは知らなかった。
「つまりその二人は、エターナルリーベを取れないということですね」
「はい、その通りです。エターナルリーベを取得するためには、強力な聖魔法力を必要とします。王の血を引かない二人にその力はありません」
つまり王の跡目争いは最初から第三皇子と第四皇子の二人にしか資格がなかったのである。
それを知らされずに振り回され、前世ではあのアストラルの大粛清が起きたのだから、とんだ茶番劇だったと言わざるを得ない。
「聖魔法力が一番強いのはユーリウス様です。でもユーリウス様の母親は、罪を犯し平民に落とされた旧王族の娘で身分が低いのです」
「能力的には関係ないのでは?」
「この場合は第三夫人と第四夫人の身分が関係してきます。ユーリウス様の母親であるアレクシア様は、御身分ゆえに正式な婚姻を結ぶことが許されませんでした。もともと平民として下働きをしていた娘などに手をつけた王も問題なのですが、そのせいでユーリウス様は王の嫡子ではなく庶子という扱いになってしまったのです」
「だから薔薇の呪いを受けたのでしょうか」
「はい、王になるには相応しくないと、おそらく第一夫人あたりが怪しいと睨んでおります」
アブラムが険しい表情で呟いた。