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16、私の思い

 国にエターナルリーベを持つものが二人いれば、こんなにも心強いことはない。

しかし私にはまだ迷いがあった。


「わたくしはそのようなことは望みません。ユーリウス様が即位されたのなら、わたくしは影ながら応援して、私自身はビストニアに引きこもりたいと思います。王家の血統ではない私がエターナルリーベを持っていても、混乱を招くだけですから・・・」


「とてつもない能力をお持ちなのに、権力欲は全くないところは相変わらずですね、アストリット様」


クリスタがため息をついて肩をすくめた。

国とか領地とか聖結界とか腐海の侵食とか。

そういう煩わしいことから逃れたいという思いは、前世で散々それに苦しめられただけに、私の中で強い。

軍隊に指示を下し、多くの魔導士が死に、難民がたくさん出て、と前世での私の所業を思い返すとゾッとした。

そう考えると今私がしている孤児院の子供達の世話は、案外私のやりたい事、前世でやり残した事に沿っている気がした。


「わたくしは冒険稼業で気楽に暮らしながら、子供達に食料や衣服を届けたりしたいんです。

郊外に小さな家を建てて、庭で野菜と薬草を育てながら、ひっそりと暮らすのが夢なんです。

たまに昔の友達が会いに来てくれればいいなとか思ってます。

クリスタとかアデルベルトとか・・ユーリウス様とか」


私の今世でのささやかな夢を語ると、クリスタは困った顔をした。


「無理ですわ、アストリット様。すでに最終魔法アルカシア マダインを成功させた術者がいると中央でも噂になっています。なによりも他の皇子達にアストリット様を囲い込まれるわけには参りません。それにエターナルリーベの取得方法をユーリウス様に教える役割もお願いしたいのです。エターナルリーベの取得方法は未だに秘匿されたままですから。

以上の理由で、アストリット様にはグレゴリ家の養女として、オルロワの高位貴族になっていただきます」


「これは決定です」とクリスタが有無を言わさぬ様子で言う。と同時に扉が開き、前世で見知った顔が現れた。

魔導士庁長官のアブラム・グレゴリである。

彼は私のまえに跪き、しっかりと私を見上げた。


「お久しぶりでございます。アストリット様」


なんと彼も記憶持ちだった。

しかし肝心のユーリウスに記憶がないのだから頭が痛い。

ユーリウスに記憶があれば自分の身は自分で守れただろうし、エターナルリーベの取得方法も知っていたし、優秀な頭脳で皆を導いてくれたことだろう。

女神様は本当に意地悪なことをする。


「このように再び合い見えることができたことは、歓喜の極みにございます。このアブラム・グレゴリ、今世こそはエターリアの繁栄を失わないよう、全力を尽くす所存でございます」


彼は胸に拳を当てて誓った。

誓いの言葉が胸に響く。

ユーリウスの「この国を守って欲しい」という言葉が脳裏をよぎった。


「わたくしはずっと、わたくしがいない方がユーリウス様は無用な争いに巻き込まれなかったのではと思っていました。

最後にあんな殺され方をしたのは、わたくしがエターナルリーベを取得したことが原因ですから」


私はクリスタとアブラム・グレゴリを順番に見つめた。

アブラム・グレゴリ、彼も前世で私に魔術を教えてくれた師の一人だ。彼の紹介で私はユーリウスと出会うことができた。


「でも、わたくしがいることでユーリウス様のお役に立てるのなら、わたくしは迷わず、中央に向かいます」





 その夜夢を見た。

私は調合に失敗して、部屋中に薬草を散らかしてしまい泣きそうになっていて、ユーリウスがそれを見て呆れながらも「仕方がない子だ」と言いながらポンポンと背中を叩いて慰めてくれて、その隣でクリスタとリシュリアがクスクスと笑っていて、服を汚されたマティアスは仏頂面で、アデルベルトは笑いを堪えながら飛び散った薬草を片付けていた。


前世の何気ない日々の思い出なのに涙が出た。

もしも許されるなら、あの日常を取り戻したいと心から願った。






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