1、プロローグ
初めての投稿です。よろしくお願いします。
「ユーリウス様・・・!」
駆けつけた城の玉座の間で私が見たのは、既に冷たくなった彼の亡骸だった。
どうして?一体、誰が・・・。
震える手で彼に手を伸ばす。縋り付くように、私はその場に崩れ落ちた。
あなたのいないこの世界に、一体何の意味があるのだろう。
王宮に来て、初めて魔術について教えてくれたのがユーリウスだ。魔導士として生きていくためにあらゆる知識を与えてくれた。優しく、いつも包み込むように私を温めてくれる愛しい人。
「・・・嘘ですよね、ユーリウス様・・・もう二度とあなたの声が聞けないなんて」
声が震える。大粒の涙が頬を伝う。彼の体に落ちるたびに魔力を吸収して、それは淡く光った。彼の体は死して尚、魔力に満ちている。
優しい光はまるで私に「泣くな」と言って、慰めてくれているようだ。
「この国を守るように」と彼は私に約束をさせた。
「無理ですよ。ユーリウス様のいないエターリアで、どう生きてゆけばいいのですか」
国など、世界など、もはやどうでもいい。体の中で魔力が渦巻く。胸のエターナルリーベの印が光り、私の思いに触発された邪悪な魔力が集まってくる。私を追ってきた側近達がうめき声を上げて、苦しそうに胸を押さえ、床にうずくまった。
こんな世界、滅んでしまえばいい!
玉座の間にヒビが入った。メキメキと気味の悪い破壊音が鳴り響く。壁が斜めに避けた瞬間、私の意識はエターリアの中央神殿にある、神々の間に飛ばされていた。
目の前には金色の髪に銀の瞳の女神ユースティティアが立っていた。
「アストリット、エターナルリーベの印を持つあなたが何故、世界の崩壊を望むのですか」
ユースティティアは怒っているようだ。神力による威圧感が凄まじく、私は床にグシャリと押し潰された。「ゴホッ」と咳き込み、口の端から血が流れる。
「ユーリウス様のいない世界など、何の意味もありません」
「あなたにはユーリウス以外にも、大切なものがたくさんあるでしょう」
「女神様にはわかりません。私にとってユーリウス様は、私の命そのものなのです」
彼がいなくては生きていけないのだと、そう言ったのに女神には通じない。所詮、人の悲しみなど神々にとっては些末だ。
「でもねアストリット、ユーリウスを巻き込んだのはあなたなんですよ。あなたがエターナルリーベを望んだ結果、彼は運命の渦に飲み込まれたのです」
ユースティティアの言葉に、私は唇を噛み締める。心の中では後悔と自責の念が渦巻いていた。どうして私は迂闊にもあの男に目をつけられるような行動をしてしまったのか。それさえなければユーリウスが殺されるようなことはなかった。犯人はあの男に決まっている。
「とにかく、エターリアを滅ぼすわけにはまいりません。あなたは自分の使命を果たしなさい」
「無理です・・・他の方に頼んでくれませんか」
「エターリアを救えるのは、エターナルリーベの印を得たあなたしかいません。エターナルリーベの力あってこそ、エターリアの聖結界は維持できるのです」
ユースティティアが言うには、今現在この世界には私しかエターナルリーベの印を手に入れられる魔導士はいないのだそうだ。
なにそれ、そんなの私、知らない。
私はユーリウスの死と引き換えにしてまで、エターナルリーベを望んだわけではない。
「ユースティティア様に理解していただこうとは思っていません。取り引きをしませんか。エターリアは救います。だからどうか、ユーリウス様を救う術をお示しください」
「代償は?」
「わたくしの大切なもので構いません」
「わかりました。今からあなたの記憶の一部を消します。あなたが使命を果たした後に、あなたの願いを叶えるとしましょう」
そう言ってユースティティアは私の体に干渉し、術を施した。
「アストリット、あなたの想いをしかと見せてもらいます。試練を与えても尚、そこに真実の永遠なる愛があるならば・・・」
私が意識を取り戻した時、世界は何事もなかったかのように時を進めていた。
私が望んだ世界はこのようではなかったはず。
それが何なのか思い出せない。
私は現在女王と呼ばれて、このエターリアを統治している。