第九十一話 今年の終わりに(挿絵あり)
主人公視点です。
ニニアちゃんと話をした後。
モニター前に戻ると、すぐにスタ2の決勝戦が始まった。
白熱した試合を制したのは……。
やっぱり、あの猫だった。
「やったにゃあああ!」
肉球という名の拳を突き上げ、喜びを表現するニャンコさん。
「な、なんとなんと。マルデア人が集まるマルデア国のイベントで。
たった一人のニャムル人が優勝を決めてしまったぁ!」
サニアさんがノリノリで叫ぶと、会場からは拍手が巻き起こる。
「優勝したナゴロさんには、ダルサムのボイスつきぬいぐるみをプレゼントしまーす!」
ニャムルの猫さんに、フィオさんからぬいぐるみが手渡される。
彼が肉球でぬいぐるみを押してみると、『ヨグファイオ』とゲームボイスが流れた。
「にゃははは、こいつは面白いにゃ!」
猫さんはもらった賞品を何度も押して、ゴキゲンに笑っていた。
と、ぷやぷやの方も決勝が終わったようだ。
「栄えある初代優勝者は、ガレナ・ミリアム!
なんと、ガレリーナ社の社長です!」
そう。ガレナさんが実力で優勝してしまったのである。
静かだと思ったら、参加者に回っていたというオチであった。
まあ、ぷやぷや上手いのは知ってたけどさ。
「ははは、すまんすまん。つい意地になってしまった。この賞品は君にやろう」
ガレナさんは賞品のヌイグルミを、準優勝の人に譲っていた。
そうして、全ての大会日程が終わり。
本日のイベントも終了時間に近づいてきた。
「いやあ、白熱した大会だったな」
「色んな出し物もあって、とても楽しかったわ」
客たちは、そろそろ帰宅しそうな雰囲気だ。
でも、これで終わりじゃない。
最後に、一番大事な発表があるのだ。
私はサニアさんと頷き合い、最後のアナウンスへと向かう。
「みなさん。本日はガレリーナ社のゲームイベントにお集まり頂き、ありがとうございました。
楽しんで頂けたでしょうか?」
「よかったわよー!」
「ガレリーナ社に感謝を!」
会場からは、賞賛の声が響いていた。
私はそれに手を振って応えながら、負けないように声を張り上げる。
「ただ、まだ終幕ではありません。
最後に、年明けに発売する新作ソフトを発表します!」
「な、何っ、新作だと!?」
「いきなりここで発表されるの?」
観客はこういう経験がないためか、騒然としているようだ。
ふふふ、最後のサプライズだよ。
「では、こちらをご覧ください」
私がモニターを指すと、映像が再生される。
映し出されたのは、ファンタジー世界を舞台にしたゲームだ。
中世、現代、古代、未来、原始。
様々なマップを、時を超えて旅していく。
と、ある男性の声がナレーションで流れ始めた。
『このゲームは当時、夢のプロジェクトと呼ばれていました。
Final Fantasiaとドラゴン・クアストのスタッフが集結し、一つの大作RPGを生み出したのです』
「な、なんだと。ドラクアとFinal Fantasiaが合体……!?」
「一体どういう事なのっ?」
観衆たちはみな驚きに目を見開き、声を上げている。
すると、モニターにタイトルロゴが映し出された。
『CHRONA TRGGER』
クロナ・トルガー。
1995年に発売された、2DRPGの記念碑とも言える名作だ。
二大RPGの開発者による合作のニュースは、当時のゲーマーたちに衝撃を与えた。
だがこのゲームは、ただスタッフが豪華というだけではない。
ストーリーの巧妙さ。
音楽やキャラクターの魅力。
そして、斬新な連携システム。
全てがガチリと嚙み合った、RPG最高傑作の一つと言われるほどの作品である。
さて、ここからが本当の発表だ。
映像が止まり、私はモニターの前に出る。
「クロナ・トルガーは、時を越えて世界の謎を解き明かすRPGです。
このゲームをお届けしなくては、2D時代のゲームを伝えた事にはなりません。
そして、もう一つ発表があります。
来年初頭になりますが……。
クロナやフェイナルファイツなどをラインナップした、オールスター第三弾を発売します!」
その宣言に、会場全体から叫び声が上がる。
「うおおおおおおおおおおっ!」
「新作オールスターだああっ!」
マルデアのファンたちが熱望していたのは、やっぱりこれだったようだ。
新作の発表ほど、ゲーマーを喜ばせるものはない。
ニニアちゃんと友達の二人も、ピョンピョン飛び上がって笑い合っている。
イベント終盤にもかかわらず、その熱狂は最高潮に達していた。
そうして、ゲームイベントは大盛り上がりのうちに終幕を迎えた。
「これで、本日のイベントは終わりです。
みなさん、ありがとうございました!」
「最高だったぞ!」
「新作待ってるわよー!」
私がペコリと頭を下げると、ファンのみんなが声をかけてくれる。
「いい雰囲気で終われて、よかったわね」
「ええ」
私はサニアさんと頷き合い、会場を見回す。
ファンたちはまだ帰るわけでもなく、ゲーマー同士で交流したり。
アーケードで遊んだりして過ごしていた。
みんな、イベントの余韻に浸っているのだろう。
さて。
私はニャムルの猫さんと話をしてみようと思っていた。
国外の事情について聞いてみたかったのだ。
しかし、既に会場に猫さんの姿はない。
かわりに、ネズミさんがいた。
「ニャムルの猫はもう帰ったチュウ。あの人、気が早いチュウ」
「お二人は、仲良いんですか?」
問いかけると、彼は首を横に振る。
「いや、今日知り合って話した程度だチュウ。
あの人マルデアに住んでて、アーケードをやり込んでるみたいだチュウ」
なるほど。だからあんなに上手いんだね。
まあいいや、ネズミさんに聞いてみよう。
「あの。ネズム国でゲームを展開するのって、可能だと思いますか?」
「うーん。内容自体は面白いから、売れると思うチュウ。
でも、ネズム人は他国の商売人を嫌うチュウ……」
ネズミさんは苦い顔をする。
この星は排他的な国が多い。
それぞれ種族が全く違うから、独自の文化を持ってるしね。
「やっぱり、売り込むのは難しいですか」
「厳しいと思うチュウ。でも、フェルクルの仲介があれば何とかなるチュウ」
「妖精、ですか」
フェルクルと言えば、以前yutubeで撮影した不思議な妖精の事だ。
ネズム国では、信頼の証になるほど愛されているらしい。
「フェルクルがいれば、話はうまく進みやすいチュウ。でも、難しいと思うチュウ」
彼はそう言って、悲しげに顔を落としていた。
フェルクルか。
気まぐれな妖精を味方につけるのは簡単じゃないけど、いずれ考えてみようかな。
私はネズミさんに礼を言い、その場を離れた。
それから少しすると、お客さんたちも帰っていった。
私たちは会場の片づけを済ませて、ホールを出た。
ワープステーションの前まで来ると、ここで今年の仕事はおしまいだ。
私は振り返って、ガレリーナの社員たちを見回した。
「じゃあ、皆さん。
今年一年、私のワガママを聞いて頑張ってくれてありがとうございました」
そう言って、私は深く頭を下げる。
なんだかんだ、私はまだ十六だ。
みんなの支えがなければ、ここまで来る事はできなかった。
「そうね。この一年色々と大変だったけど、楽しかったわ」
サニアさんは、疲れた表情ながら満足そうに笑う。
「私、ガレリーナ社に入ってよかったです」
フィオさんは少し涙ぐんでいる。
「ゲームもいっぱいできて、楽しかったっス!」
メソラさんはいつものように、明るく声を上げる。
「うむ。リナも本当によく頑張ったな。お疲れ様」
ガレナさんは、私にねぎらいの言葉をかけてくれた。
「来年はもっとたくさんのゲームを輸入して、できればマルデアの国外進出を果たしましょう!」
「おうっ!」
来年の抱負を掲げ、私たちはみんなで頷き合った。
そして私たちは駅の前で別れ、それぞれの帰路についた。
ガレナさんも、いつもとは違う地方行きのワープを選んでいた。
さすがに年越しは実家に帰るんだろう。
私も地元の駅に出て、見慣れた町の夜を歩いた。
この冷える中、さすがに子どもたちの姿もない。
表の玄関を開けて家に入ると、すぐに母さんが出迎えてくれた。
「ただいま、母さん」
「おかえりなさいリナ。疲れたでしょ。すぐお鍋するわね」
晩飯は年越し恒例の、ごちそう鍋だ。
「今年も、もう終わるんだね」
「そうね。早いものだわ」
代り映えのない話をしながら、私はゆっくり家族との時を過ごした。
そうして、マルデアの一年が終わる。
来年もまた、頑張ろう。
ながぶろさんより、リナなど




