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第七十九話 アルバム


 奈良に降りた私は、さえ子ちゃんと墓地で話を済ませた。

 次は、久しぶりに地球の実家に帰らなきゃ。


 私は帽子で耳と髪を隠して、お寺の門を外に出た。

 見知った道を南へと向かい、商店の通りを歩く。

 すると、見慣れない人だかりが出来ていた。


『しょーるーけん!』


 店先にスタリーツファイターのアーケードが見える。

 そして、学生やおじさんたちが集まっているのだ。


「いやあ、懐かしいなスタ2」

「ははは、昔の感覚がまだ出ないよ」


 楽しそうに話し合いながら、対戦に興じる四十代くらいの男性たち。

 ちょっとしたリバイバルブームが起きているのだろうか。


 地球人たちも、マルデアのゲームニュースで盛り上がってくれているらしい。

 今の日本ではなかなか見れないはずの光景に、私は少し嬉しくなった。


 信号を待ちながら日本のSNSを見ると、ゲーマーたちが熱心に語り合っていた。


xxxxx@xxxxx

「スーファムのオールスターにクロナが入ってないぞ!」

xxxxx@xxxxx

「ああ。これは由々しき事態だ」

xxxxx@xxxxx

「ポツモンいつ出るのかな……」

xxxxx@xxxxx

「メーカーに嘆願書を出しまくるしかないな」


 ……。うん。もりあがってるね。さすがゲーマーだ。

 色んな声があるのは、みんなのゲームへの愛が深い証だ。

 私も一つ一つ、タイトルを運んでいきたいと思う。


 ただ今日は休日だから、仕事の事はまた今度考えよう。

 私はスマホをしまい、青になった横断歩道を進んでいった。



 日本的な家屋の通りに入ると、懐かしい和菓子屋が見えてくる。

 私がずっと住んでいた、奈良の家。


 中に入るのは、ちょっと照れくさいんだよね。

 入口の戸を見ると、貼り紙に『臨時休業』と書かれていた。

 今日は私が帰るから、お休みにしたみたいだ。

 店の戸を開けてみると、カウンター前の席に両親が腰かけていた。


「えっと、ただいま」

「ああ、おかえり」


 母さんは、優しい笑顔で迎えてくれる。


「……よく帰ったな」


 父は照れくさそうにしながらも、ちゃんと声をかけてくれた。



 それから、私たちは奥の居間に入った。

 懐かしいこたつに入り、お茶をもらって一息ついた後。

 私は墓地での事を二人に話す事にした。


「そう。ちゃんとさえ子ちゃんに会えたんやね。あの子、どうやった?」


 心配そうに問いかけてくる母さんに、私は頷いて手を広げて見せる。


「うん。私の事説明したら、泣いてスッキリしたみたいだったよ」

「そう。よかったわ。あの子、奈良に来るときはいっつも暗そうな顔して。

過去の事で自分を縛り付けてるみたいやったから。気楽になった方がいいんやわ」


 母さんはほっとしたのか、小さくため息をついていた。


 それから私たちは、三人で一緒に天ぷら蕎麦を食べた。

 父さんは黙々と食事を済ませると、すぐに「仕事がある」と言って厨房に向かった。

 前来た時と全く同じだったので、ちょっと笑ってしまった。


 と、お母さんが箪笥から、アルバムみたいな大きい冊子を取り出した。


「お父さん、あんな風にそっけなくしてるけどね。いつもリナの事ニュースで追いかけてるんよ。

あんたが新聞に出たら、全部切り抜いて保存してるんやから」


 本を広げると、私のニュース記事が沢山貼られていた。


『リナ・マルデリタがオーシャンシティで台風を排除。史上初の快挙』

『フィレンツェでマルデア大使が悪党退治!? さらわれた少女を救う』

『エジプトに降りたリナ・マルデリタが民家を修復。魔石の知られざる力』

『インドネシアのチタルム川を一気に浄化。マルデアの奇跡ふたたび』


 新聞の一面記事に描かれた私の顔が、次のページにも、その次のページにも貼られている。


「あの人、『リナはよう頑張ってる』って。いつもこのアルバム眺めて呟いてるんよ」

「そっか……」


 父さんは、私の活躍を喜んでくれているらしい。

 手作りのアルバムを眺めているだけで、私はなんだか温かい気持ちになった。


「いつもいろんな所に行って頑張ってるんやから、今日はゆっくりしていきや」

「うん」


 私は母さんの言葉に甘えて、お父さんの宝物をじっと見つめていた。

 アルバムの最後には、前世の私……、ユウジの写真もあった。

 写真の中で、小さい頃の"俺"と、母さんが笑っている。

 その傍で、父さんがいつものように不機嫌な顔をして立っていた。


 年月は経って、みんな年を取ったけど。

 父さんと母さんはずっと変わらず、私の事を見てくれている。


 ここはやっぱり、私の家だ。


「リナ。いつでも帰ってきいや。私らは、ここでずっと店やりながら待ってるから」

「うん……」


 お母さんは、優しく私の手を握ってくれた。

 その温かいぬくもりは、いつまでも変わらない。私のお母さんだった。



 それから少しして。

 私は家の中に不思議なものを見つけた。


「これ、スウィッツ?」

「うん。お父さんが買ってきたんよ。リナが扱ってる商品やからって」


 あの頑固親父が、自発的にゲーム機を買ってくるなんてね。

 と、母さんがコントローラーを持って言った。


「私もマルオカーツやるようになったんよ。一緒にやる?」

「……。うん!」


 私はお母さんと一緒にレースゲームを始めた。

 その後父さんもやってきて、三人で一緒に対戦をした。


「あはは、父さんへたっぴだね」

「うるさい……」


 そんな事を言いながら、私たちは一時間くらい一緒に遊んだ。


 時にゲームは、会話のない家族が一つになるための繋ぎ手になってくれる。

 何もない場所に、『楽しさ』を作り出してくれる。

 だから私は、ビデオゲームが大好きなんだ。



 その日は、家族水入らずで過ごす事が出来た。

 でも、私には仕事がある。

 夜もふけた頃に私は両親と別れ、実家を出た。


 ずっとこの家にいたい。そんな風にも思った。

 でも、私は止まるつもりはない。


 日本にも、危険の種は沢山ある。

 母さんたちの安全な生活と平和を守るためにも、魔石を地球に運ぶんだ。

 そしてゲームをマルデアに運んで、みんなを笑顔にしたい。

 今それができるのは、私しかいない。

 ドクターにも言われたし、変に気負うつもりはないけど。


 私の旅はきっと、まだまだ続くんだ。




 マルデア星のワープルームに戻ると、ガレナさんの姿があった。

 どうやら、また私の帰りを待っていてくれたらしい。


「やあリナ、戻ったか。どうだったね、二度目の奈良は」


 立ち上がって問いかけてくる社長に、私は笑顔で頷く。


「はい。とてもいい旅でした。あの、ガレナさん。ちょっと聞きたいんですけど」

「なんだね?」


 首をかしげるガレナさんに、私は以前から気になっていた疑問をぶつけてみた。


「ガレナさんは、実家に帰ったりしないんですか?」

「私か。仕事ばかりで親不孝な人間だが、年末には帰る事にしているよ。一応、家族だからね」


 彼女は、懐かしむように宙を見上げていた。

 そっか。ガレナさんもちゃんと両親とは会ってるんだ。


「ならよかったです。あ、私ももうガレナさんの家族みたいなものですからね。

何かあったら、私に頼ってくださいよ」

「ははは、そうだな。嫌な見合い話があったら、君に相談する事にしよう」


 冗談めいた言葉に、私はクスクスと噴き出してしまった。

 ガレナさんも、楽しそうに笑っていた。


 うちの会社にはもう、沢山の仲間がいる。

 私は一人じゃない。


 みんなで手を取り合って、ゲームを売る仕事をしている。

 そのお金で安全な魔術服を買ったりして、装備も充実してきた。

 おかげで、地球の旅も少しずつ楽になってきている。


 だから、心配しないでね父さん、母さん。


 私はこれからも、きっとやっていけるから。




これで二章は終わりになります。

読んで頂いてありがとうございました。

よろしければ、評価など頂けると嬉しいです。

次はゲーム回をやって、また三章に入っていきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろう読んでて初めて泣いてしまった。 凄くいいお話ですね。
[一言] 優しい人がいっぱいで読んでいて暖かくなりました。 さえ子さんは今まで以上にリナのニュースを見て笑顔になってくれるでしょうね。 ポツモンは出たらマルデアでもまたたく間にモンスターコンテンツへ…
[一言] 一章に続いてめちゃくちゃよかったです!! 毎日楽しみにさせていただいてます! さえ子ちゃんの枷が一つ、リナの心残りも一つ解決して本当によかったです。 お父さんとお母さんも本当に、マルデア…
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