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第二十一話 新しい仲間




 その日は夜遅くまで、ガレナさんと二人で通話対応を受け続けた。

 マルデアにはビデオゲームの文化が一切ない。

 どういう風に遊ぶという常識がないから、お客さんたちも戸惑って問い合わせてくるのだろう。


「このキノコみたいなやつ、取っていいの?」

「いいですよ」


 そんなやり取りもあった。

 はっきり言って、攻略とかいうレベルではなかった。

 ゲームの概念というのは、こうやって一歩一歩作っていくのだろう。

 通話対応がようやく静まった真夜中に、私は机の上で眠りに落ちた。



 翌朝。

 始業時間の九時頃に追加発注の通話が集中し、私たちは注文を取り続けていた。


「これは、かなり品薄のようだな」


 目をやつれさせながら、ガレナさんが言う。


「ええ、もう在庫分の余裕がなくなってきました。

デパートやスーパーからはまだ追加発注はないですが、玩具屋はかなり売れてますね」


 やはり遊び道具を売る店は、遊びを欲しがる客が来る。相性がいいようだ。

 既に次の生産待ちになっており、一月は待ってもらわねばならない状況だ。


「しかし、この通話対応はまいるな。さすがに二人ではそろそろ無理だぞ」

「ええ、人を雇う必要がありそうです」


 私たちは、二人で今後の業務について話し合っていた。

 と、そこへ。


「ちょっと!」


 ビルの一階から駆け上がってきたのは、赤い髪の女性だった。


「な、何か御用ですか」

「何もかにもないわよ。レースゲーム売ってないじゃないのぉっ」


 悲痛な表情を浮かべてるのは、やはりというか昨晩通話してきた研究所の女性だった。

 このオフィスの住所は通話番号と一緒に書いてあるので、それを見てきたんだろう。

 彼女はズカズカと中に入ってきて言った。


「さっき玩具屋に行ったら、売り切れだって言ってたわ。

今日は休みだし一日中マルオでレースしようと思ってたのに、どうするのよぉ……」

「どうするって言われましても。ガレナさん、どうしましょう」


 困った私が助けを求めると、ガレナさんは女性を見上げて言った。


「お前、第一研究室のサニア・ベーカリーだったな。そんなにゲームがしたいのか」

「何よ。したいわよ」


 憮然とした表情の女性に、ガレナさんは苦笑いだ。


「いや、まあ気持ちはわかるさ。マルオは当たるとすぐ死ぬし、目が離せないからな」

「そうよ。あいつよわっちいんだから。私がうまくよけてやらなきゃいけないのよ。

でも、操作をちゃんとしたら私の思ったようにピョンピョン飛んでいくわ」


 サニアさんがゲームを語り出すと、ガレナさんもしみじみと頷く。


「うむ。そこが面白い所だな。さて、私たちはそんなゲームを売っているわけだが、現状二人しかいなくてな。人員が足りないのだ。

お前がもし手伝うというなら、そこにあるマルオカーツを遊ばせてやってもいい」


 その誘いに、サニアさんはゴクリと唾を呑んだ。


「マルオカーツ……。でも、私は第一研究室の人間よ。ゲームはできても、仕事を手伝うほどの時間は……」

「お前、あちらの研究が楽しいのか?」

「う……」


 苦い顔をしたサニアさんに、ガレナさんが続ける。


「第一研究室にいれば、出世の近道ではあるだろう。

だが魔術研究者には選択権がある。自分が何を研究するか、その自由を得られるのがマルデアだ。

そして、自分の愛する道を行くのが研究者というものだ」

「……、私は……」


 サニアさんが迷いを見せると、ガレナさんはにやりと笑みを浮かべた。


「あとな。ウチに来れば、未発売の地球産ゲームをいくらでもプレイできる特権が得られるぞ」

「な、なんですって! 未発売ってどんなのよ!?」

「どんなのだ?」


 サニアさんとガレナさんが一緒にこちらを向く。


「そうですね。例えば、マルオたちがお互いにぶっ飛ばしあう超乱闘スマッシュブルザース。

世界を冒険して謎を解き明かすドラゴンクアストやFinal Fantasia、ゼルドの伝承。

広い世界でクリエイトを楽しむメイン・クラフト。

他にも他機種のスケールたっぷりのゲームが、ここなら未翻訳ですが遊べます」


 私の説明に、サニアさんは突然ドカリと席に着いた。


「いいわ、私は今からここの人間よ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。だから、マルオカーツを遊ばせてちょうだい」


 禁断症状でも出ているのだろうか。目にクマができたサニアさんがこちらを睨む。

 どうやら、また個性的な仲間が出来たようだ。

 マルデアでは二人目の味方である。まあ、なんであれ嬉しいのは嬉しい。

 私は最初、一人ぼっちだったからね。


 仕方なく、私は巨大モニターでマルオカーツを起動した。

 サニアさんにコントローラーを渡し、私も一つ握る。


「あんたもやるの?」

「マルオカーツは対戦ゲームですから。複数人でやった方が楽しさがわかります」

「そうだな。私も参加しよう」


 ガレナさんも加わって、三人で対戦することになった。

 サニアさんに簡単な操作方法を教え、ゲームをスタートする。


「わわっ、何よこれ。ハイパーマルオと全然違うじゃない!」


 奥行きのある壮大でカラフルなグラフィックに、サニアさんが目を見張っている。


「3Dゲームですから、画面の奥に向かいますよ」

「うむ、豪華なビジュアルだな」


 ハイパーマルオは2Dの安心して見れるゲームだ。

 誰でも遊びやすいゲームの入門書と言える。

 だがマルオカーツはフル3Dであり、スピード感もあって迫力満点だ。


「うわあああ、すごい昇ってるわっ」


 縦横無尽に駆け回るカートに、サニアさんが興奮していた。


「アイテムを拾ってくださいね。使うので」

「ふっふっふ、赤コウラだ」


 ガレナさんはアイテムを拾うと、わざと減速してサニアさんに投げつけた。


「うわっ、マルオがやられたわっ」

「はっはっは! アイテムでガードしないからだ」


 ガレナさんのヨッスィーが横を素通りしていくと、サニアさんもさすがに気づいたのか怒りだした。


「このっ、やったわね!」


 そこからはもう、友情崩壊ゲームである。

 互いに怒りをぶつけあい、私にも青いコウラが飛んできた。

 それでも私が一位を取ったのは、前世にスーファムで遊びまくった経験だろう。


「もう一回よ!」


 彼女はガレナさんと対戦を続け、マルオカーツにハマり倒した。

 結局、その間の通話対応は私がやる事になったのである。





「え? 私、客対応なんてしたことないわよ」


 それがゲームを終えた後のサニアさんの言葉だった。

 さんざん遊び倒した後で何を言っているんだろうか。


「今のところ、仕事は客対応が多いんです。特に質問の通話がじゃんじゃん来ます。

お客さんがゲームをクリアできなくて、攻略法を聞いてくるんですよ。サニアさんならマルオの内容わかるでしょう?」


 私の言葉に、サニアさんは眉を寄せる。


「そりゃあテストルームでやりまくって、昨日も徹夜でやったから大体わかるけど。

でもいちいち同じ事答えるの面倒だし、通信ページに攻略法出しておいた方がいいんじゃない?

私、ホームページとか色々作ってるのよ。だから、お客さん向けの情報発信の仕事ならできると思うわ」


 胸を張るサニアさんに、ガレナさんが頷く。


「ふむ。サニア・ベーカリーで検索すると、こんなページが出たな」


 ガレナさんが出したデバイスを見ると、サニアさんの顔写真が華やかに映ったページが表示されている。

 彼女の個人サイトだろう。

 デザインがきれいで見やすい。

 写真もすごく可愛い。

 なんていうか、リアルの三割増しくらいだ。


「お前、ずいぶん可愛く映してるな。目も実際より大きくなっている。画像いじったか?」


 嫌味な笑みで問いかけるガレナさんに、サニアさんは顔を赤くした。


「い、いいでしょそれくらいっ! 誰でもやってるわよ」


 ともかく、彼女はページのデザインが得意らしい。

 案外、頼りになる味方が出来たかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 超乱闘 やはリ地球人は野蠻
[一言] >>「これは、かなり品薄のようだな」 くっN社めっ異星でまで品薄商法かっ(違
[一言] オンライン対戦できたら盛り上がるで
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