第百四十八話 精霊
その後は、デバイスから陽気なゲーム音楽を流してパーティタイムだ。
「なんだか素敵な音ね」
「体が弾んじゃうぜ!」
ツインBの軽快なメロディに、妖精たちはノリノリである。
みんな自由に空中を飛び回り、パーティを楽しんでいた。
なんだろうね、この予想を超えるツインBフィーバーは。
空飛ぶ可愛い戦闘機が彼らの魂に響いたのだろうか。
更にカービアを流すと、フェルクルたちは更に盛り上がっていく。
みんなが腰をくねらせ、ダンスを踊り始めたのだ。
面白いので、撮影してそのまま地球に生配信してみた。
『ちょ、突然リナの生放送ハジマッタと思ったら何これ!?』
『フェルの仲間たちがカービアで踊ってる!』
『可愛いいいいいいいいいいいい』
『すごい、妖精の国だ。どこにあるのかな?』
『きっと天国だよ』
『めっちゃ楽しそう!』
やっぱりというか、反響が凄い。
「地球の皆さん、こんにちは。今私は、妖精のお祭りに参加しています」
「いやっふぅぅぅ、ちきゅー人みとるー?」
フェルが手を振ると、視聴者たちは大いに沸いていた。
『フェルちゃんだあああああ!』
『リナチャンネル半端ねえ……』
『こんなに幸せそうな映像、見た事ない』
『もう800万人くらい見てるんだが。サーバ大丈夫?』
『やばい、映像読み込めない』
あまりに視聴者が多すぎるせいだろうか。コメントがピタリと止まってしまった。
まあいいや。後でアーカイブを残しておこう。
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リナ・マルデリタを語るスレ103213
375.名前:名無しの地球人
おい、いきなり通信切れたんだが
376.名前:名無しの地球人
リナあああああああああああ。見れん! 見れんぞ!
378.名前:名無しの地球人
妖精の里の反響が凄すぎて、yutubeの生配信機能がパンクしたのかもな。
379.名前:名無しの地球人
しっかりしろ! 世界一の配信サイトだろ!
383.名前:名無しの地球人
こうなったら繋がるまで更新連打しかねえ……。
384.名前:名無しの地球人
余計にパンクするからやめろ。
385.名前:名無しの地球人
yutubeの公式アカウントに死ぬほど苦情きてるw
386.名前:名無しの地球人
『早く再開してくれ』って声がネットに溢れてるな。
387.名前:名無しの地球人
サーバー強化まったなし。
388.名前:名無しの地球人
しかし、やっぱマルデアは凄いわ。
SFかと思ったらファンタジーなんだもの。
389.名前:名無しの地球人
宇宙の果てに楽園が存在した。俺は見たよ。
392.名前:名無しの地球人
天使たちがゲームボイらしきものを遊んでいたな。
393.名前:名無しの地球人
俺のよわよわ回線ではもう無理だ。繋がらない。
395.名前:名無しの地球人
頼む……。アーカイブを残してくれぇ……。
397.名前:名無しの地球人
お、yutubeの公式回答が出たぞ。
『yutube@xxxxx
マルデア側で何かしらの通信トラブルがあった可能性があり、生配信が突然中断しました。
原因については現在確認中ですが、リナさんの個人的な活動であるため、こちらから配信の再開を求める事は出来ません』
だってさ。
398.名前:名無しの地球人
yutubeじゃなくてリナの方に問題が起きたって事?
399.名前:名無しの地球人
マルデア側って、何かあったのかな?
401.名前:名無しの地球人
星間配信なんて大変だろうし、切れちゃったのかね。
402.名前:名無しの地球人
機材トラブルとかそういう事か。
ならしょうがないな。
404.名前:名無しの地球人
800万人が見てる個人的な活動って一体……
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それから、私たちは夕方までお祭りを楽しんで過ごした。
配信の調子がおかしくて途中で通信が切れちゃったけど、まあ別にいいや。
依頼主の王女様たちも、ゲームボイを楽しんでいるようだった。
「じいやもやってみる?」
「わ、私ですか?」
側近は戸惑いつつも、ドクターマルオを遊び始める。
「色を四つ合わせたら、悪いウイルスが消えるのよ」
「ほう……。これはなかなか……」
彼も、パズルゲームの奥深さに唸っているようだった。
そして、夜。
辺りが暗くなり、いよいよ満月が上るのを待つのみとなった。
ここから先は、私の出る幕ではないだろう。
ゲーム類を輸送機に仕舞うと、辺りはだいぶ静かになった。
「ありがとうリナさん。とても楽しいお祭りになったわ」
「いえいえ。うちの宣伝もかねてますからね」
「そうだったわね。いいわ、あのアーケードとゲームボイは、是非うちで買わせてもらいたいわ。
いいでしょう、じいや?」
「え、ええ。楽しいのは間違いないようですからな」
側近さんは、照れ臭そうにしながらも商談を認めてくれた。
「では、手始めにゲームボイを500台ほど」
「ええ。一台につき、ドングリを七個出すわ」
そうして、私は王女様と契約の握手を交わしたのだった。
その後。
妖精たちは広間から出て、里の奥にある泉へと向かった。
そして、静かにその時を待った。
満月が夜空に上り、水面を照らす。
その瞬間。
長い黄金色の波が、宙をゆらめいていた。
現れたのは、ふわふわと輝く髪に包まれた美しい女性。
その大きさは、私たち人族に近いものがある。
彼女の目は優しく、フェルクルたちを見下ろしていた。
「お母さま!」
「おかーさまだ!」
妖精たちはこぞって、母なる精霊に群がっていく。
「久しぶりね、愛しい我が娘たち。はぁ~ぁ。よく寝たわ」
「でっけーアクビ!」
「さすがおかーさま!」
精霊様のアクビですら、諸手を上げて称賛するフェルクルたち。
みんなお母さんが大好きなんだろうね。
そこへ、王女様が恭しく頭を下げた。
「お母さま、お久しぶりです」
「あら、姫ちゃん。元気にしていたかしら?」
「え、ええ。今日はお母さまのお帰りを祝って、お祭りを開いていたんです」
「そう。それは楽しそうね。うふふ」
二人はどういう関係なのだろうか。
王女様も嬉しそうに精霊様とお話しているようだ。
「おかーさま……?」
一方、私の相棒はぽかんと首をかしげるばかりだった。
「あの人、フェルのお母さんじゃないの?」
「しらん……。わちしのママ、田舎でだがし屋やってる」
フェルさんや。それ私のママだよ。
アホすぎるせいだろうか。本物の母を知らない子っていうのも可哀想な話だ。
まあ妖精と精霊の関係は、私たち人族の親子関係とは違うかもしれないけどね。
「お母さま、これ面白いんだよ!」
「ゲームボイっていうの!」
フェルクルたちは、自分たちがもらったゲーム機を母親に見せていた。
「あらまあ。何かしら」
なんと、成り行きとは言え精霊様が、この星の伝説がゲーム機を手にしてしまったのである。
「Aでジャンプだよ」
「ブロックを叩いたら、アイテムがでるよ!」
子どもたちが口々に操作方法を教えると、精霊様はマルオを操作し始める。
「まあ、箱からキナコが出てきたわ」
「それをとったら、マルオがおっきくなるよ!」
「まあまあまあ……」
精霊様は、目を見張りながらゲームを進めて行く。
そして、一ステージクリア……、で終わる事はなく、彼女は普通に次のステージへと向かう。
「あら、次は空のステージなの? 楽しそうねえ」
彼女は夢中でボタンを押し、アクションを楽しんでいるようだった。
「きゃはは、マルオが雲の上にのってる!」
「宇宙のステージもあるんだよ」
妖精たちみんながそれを見守り、声援を上げる。
もはやその場は、精霊様のゲームプレイを見守る会になってしまった。
そして、二時間くらい経っただろうか。
彼女は何と、ラスボスの元までたどり着いてしまった。
「おかーさま、そこだっ」
「ふんじゃえーっ!」
悪の親玉『ワルオ』と戦う時は、みんなが声援を上げていた。
まあ、このゲームのボス戦はそんなに難しく作られていない。
何度か踏みつけると、ワルオは涙を流して逃げ出してしまった。
悪の城は一夜にして消えてなくなり、世界には平和が戻っていく。
精霊様はその場で、全面クリアしてしまったのである。
「やったわー!」
「おかあさま、すげー!」
「めっちゃうまい!」
何という事だろうか。マルデアにおける六つの銀貨の初制覇者は、精霊様になってしまった。
ゲームボイのソフトはミニスケールで、難易度も優しいものが多い。
とはいえ、初めてのゲーム体験であっという間にクリアしてしまうなんて、さすが精霊というべきかな。
「あー、楽しかったわ。こんな遊びがあるなんて知らなかったわねえ。
誰が作ったのかしら」
満足げな笑みを浮かべるお姉さんは、しっかりマルオを満喫したようだ。
「あのおっきい人が持って来たんだよ」
「マルデア人の、リナさんですわ」
王女様がこちらを指さすと、精霊様はフワリと立ち上がる。