表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/171

第百四十七話 ぱーりぃ





 翌朝。

 遠くの山から日が昇りきった頃に、フェルクルたちはのんびり起き出してきた。

 彼らの大半は何も聞かされていないのか、今日もお喋りをしたり、花の周りを飛び回ったりして過ごしている。


 と、姫様が従者を連れて城から出てきた。


「皆の者、姫からのお言葉だっ! 耳を傾けるがよいぞ!」


 側近が呼びかけると、妖精たちはなんだなんだと集まって来る。

 王女様はゴホンと咳をつき、里のみんなに向けて言った。


「みんな、覚えているかしら。今日はお母さまが帰ってくる日よ」

「ほんとっ?」

「わーい! お母様に会えるわ!」


 記念日である事に今気づいたのか、大勢の妖精たちが喜びの声を上げる。


「ゴホン。満月の夜は私たちフェルクルにとって、記念すべき時。

それを祝って、今日はお祭りを用意したわ!」

「おまつり?」

「なにそれー」


 里に住む妖精たちは、そもそもお祭りという言葉すら知らないようだ。


「とっても楽しい催しよ。今日は広場で、一緒に盛り上がりましょう!」


 王女様の宣言とあって、妖精たちはわいわい話し合いながら広場に集まってきた。


「わあ、何これ!」

「でっかいのいっぱいいる!」


 彼らの目に入ってきたのは、沢山のカラフルなヌイグルミたち。

 お祭りはやっぱり、まず見た目からだ。

 ポツモンやマルオたちのキャラクターが、祭りに賑わいを与える。

 まあ、子ども向けっぽい雰囲気だけどね。


「とつげきー!」

「フワフワしてる!」


 大きなヌイグルミに抱きつく小さな妖精たちは、それだけで楽しそうだ。


「あれ、なんか良い匂いするぞ」

「これ、なんだろ?」


 次に、彼らはテーブルに置かれたオレンジ色の飲み物に気づいたようだ。

 お祭りと言えば当然、飲み食いも楽しむものである。


 最初に用意したのは、里にある果実や野菜を混ぜて作ったジュースだ。

 妖精たちはさっそく、ストローでジュースを飲み始めた。


「ごく、ごく。何これ、うまあっ」

「花の蜜より甘いわ!」


 果実の甘味が凝縮されたジュースは、彼らの舌にぴったり合うらしい。

 みんな大喜びでテーブルに群がり、乾いた喉を潤していた。


 さて、これである程度場は整った。

 ここからは、お祭りのメインとなる『遊び』の仕掛けだ。


 広場の奥に設置するのはもちろん、ツインBの筐体だ。


「何これ? でっかいなあ」

「あ、撃ちまくるやつだっ!」

「やろうぜ!」


 さっそく飛びついて来たのは、やっぱり昨日遊んでいた子たちだった。

 彼らは台の上に止まると、ゲームを遊び始める。


「それっ、くらえ!」


 バンバンボタンを押して弾を撃ち、敵を倒しながら空を進んで行く。


「なんだなんだ?」

「すごい、絵の中で戦ってるぞ!」


 その爽快な映像に、里の仲間たちも気になったのか集まって来た。


「へへっ、みんな見とけよ。これでパワーアップだ!」


 妖精の少年がベルを取ると、ツインBが今度は巨大な火のビームを放ち始める。


「うわあ、すごいっ!」

「たくさんの敵が一発で落ちて行くわ!」

「かっこいいなあ!」


 初めて目の当たりにする華やかな光景に、妖精たちは大盛り上がりだ。

 プレイヤーの少年少女はそのまま勢いに乗り、ボスの巨大ガニに挑む。


「気を付けて! こいつ口から泡が来るわよっ」

「わかってる、よけながら撃つんだっ」


 彼らは息を合わせ、機体を上手く操作しながらボスに火の玉を撃ち込んでいく。

 すると、今回はうまくやったようだ。


 大きなカニの体が爆発し、空へと消えて行く。

 妖精たちが見事、ステージ1をクリアしたのだ。


「やったー!」

「ナイスナイス!」

「すげえー! あの二人、あんなでかいヤツをやっつけたよ!」

「もっと見たい!」


 筐体にはあっという間に見物の妖精たちが溢れ、みんなでツインBの活躍を見守り始める。

 死んでは交代し、ガンガンクレジットを消費しながらステージを少しずつ進めているようだ。

 ちなみにこの筐体は、お金を入れなくても無限に遊べるように設定されている。

 妖精の里では、そういう仕様にした方がいいと思ったのだ。 


「凄いわ。みんな盛り上がっているわね」


 姫様が嬉しそうにみんなを眺めると、側近のおじさんは顔をしかめる。


「むう……。しかし、あれ一台だけでは楽しめない者が沢山出てきますぞ」


 彼の言う通り、筐体一つでは何百という妖精たちを楽しませるのは難しい。


「私も遊びたい……」

「順番待ちが多すぎて並べないよー!」


 当然、遊べなくて不満を漏らす子たちも出て来る。

 そこへ、いよいよ新商品の登場である。


「みなさん、ご注目下さい。

こちらのゲームボイなら、絵は小さいけどすぐ遊べますよ!」


 私はそう言って、小さなゲーム機を沢山広間に並べてみせる。

 すると、妖精たちがすぐさま飛んできた。


「おお、手で持てる大きさだ!」

「これでツインBできるの?」


 妖精たちはゲームボイを抱えながら問いかけてくる。


「もちろんです。他にもいろんなゲームが楽しめますよ。上のスイッチを入れたら動きます」


 説明してあげると、彼らは私の真似をして電源を入れた。


「ついたわっ」

「あ、ツインBがある!」


 最初の選択画面で、オールスターのラインナップからプレイするゲームを選ぶ。

 多くの子はやっぱり、さっき見ていた奴を遊びたいようだ。


「撃て撃てー!」

「ベルとったらヒコーキが三つになった!」


 みんな大喜びで、小さな画面に夢中になっている。

 もちろん、他のゲームを遊ぶ子もいる。


「このカビアっていうの、敵を食べちゃうよ。つおい!」

「剣の敵を食べたら、剣を使えるようになるぞっ」


 何でも食べる星のカビアは、敵の能力を吸収する力を持っている。

 色んな技を使うカビアが面白いのか、妖精たちはキャッキャと騒ぎながら色んな敵を飲み込んでいた。


「じゃんぷ、じゃんぷ!」


 他にも、やっぱりキャッチーでわかりやすいのだろう。

 小さい子たちがピョンピョン飛ぶマルオを操作して喜んでいた。


 ゲームボイに群がる妖精たちの姿は、とても可愛らしいものがある。

 配信のネタにもなるだろうと思い、私はカメラでお祭りの様子を撮影しておいた。



 ただ、お祭りの間ずっとゲーム画面を睨んでいるというのも良くない。

 あんまり長い事やると、目が悪くなっちゃうしね。


 皆で遊べるものとして、簡単なボードゲームを用意した。

 といっても複雑なやつだと子どもが遊べないから、ほんとにシンプルな双六ゲームだ。


「今度はおっきい板が出たぞ!」

「何か絵がついてる。どうやって遊ぶの?」


 ボードの上に集まってきた小さな妖精たちは、興味津々と言った表情でこちらを見上げる。


「これはスゴロクって言って、サイの出た目だけ進んでゴールを目指すんだよ」


 ルールを説明すると、彼らは自分の顔くらいあるサイコロを投げて遊び始めた。


「えいっ! やった、五だ! いち、に、さん、し、ごっ!」


 小さなフェルクルは、自分自身がコマになってボード上のマス目を進んで行く。

 なんか楽しそうだね。


「ふっふっふ、たつじんゲームァーの腕前を見せてやろう。そりゃっ!」


 フェルも参加して、サイコロを思い切り全力投球。

 だが、出た目は赤いのが一つだった。


「いち……。わちし、一マスだけ……」


 悲しそうに一歩進んで止まる我が相棒。

 自称達人のショボさが半端ない。


「たったのイチ! きゃっきゃっ」


 大笑いしながら次の子がサイコロを振ると、今度は何と六が出た。


「ひゃっほー! いち、にっ、さん、しい、ごっ、ろく! げっ……」


 大喜びでマスを進む少年フェルクルだったが、最後のマスで凍りつく。


 六マス目に書かれた文字は、『スタートにもどる』。

 スゴロクで思いつく限り最悪のコマだった。


「……、やだ。オレ、戻らない!」


 少年はどうしても勝ちたいらしく、マスの指令を拒絶した。

 だがそうなると、他の参加者たちが黙っていない。


「おい、ルールやぶりはダメなんだぞ!」

「書かれた事は守らないと失格よ」

「もどらないと、ゴールしても勝ちとは認めないぞ!」


 周りからのブーイングで、少年は泣く泣くスタート地点へと飛んでいく。

 たかがスゴロクで、なんという人間模様だ。


 みんな初めて遊ぶボードゲームを真剣に取り組んでいるようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ビデオゲームだけでなく、ボードゲームも受けるのね(◕ᴗ◕✿) 人生ゲームとかめっちゃやりましたね… ゲームボイミニもかなり普及しそうだし アーケードもかなり売れそう! [気になる点] フェ…
[一言] この後この妖精は三回連続6を出して涙目になったとさw(* ´ ▽ ` *)
[一言] 自分がコマに乗れるすごろくとかめっちゃ楽しそう……w うーむ、祭り(パーティ)だと知ってたらケーキでも用意したのに。果実があるだし砂糖があればリンゴアメみたいなのくらい作れたかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ