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第百四十四話 宣伝


 地元に戻ると、もう空は暗くなっていた。

 子どもたちも、今日は帰ったようだ。


 裏手から家に入ると、母がキッチンにいた。


「ただいま母さん」

「たでーま!」

「あら、二人ともおかえりなさい。もうご飯できるから、体を清めてきなさい」

「はーい」


 いつものように洗面所で浄化して、出来た料理を運ぶ。

 それから、家族でゆっくりとご飯を食べて過ごした。 


「おや、何だいこれは?」


 父さんが荷物の中から見つけたのは……、私のフィギュアだった。


「あらあら、リナがお人形になって、可愛らしいわぁ」


 案の定、母さんは大喜びでパッケージを開けて私の小さな頭を撫でていた。


「全部で十個あるわね。一つは居間に飾って、二つは保存用として……。

あとは、ウチの店で売ってみようかしら」

「えっ……」


 母がまた親バカじみた事を言い出した。

 地球では色々貢献したから付加価値みたいなものがあるんだろうけど。


 マルデアじゃ私は普通の人だよ。

 一般人のフィギュアなんてまず需要がないでしょ。


「さすがに誰も買わないと思うけど……」

「あら、私はそんな事ないと思うわ。とっても素敵だもの」

「きゃははは! ちっこいリナ、おもろい」


 フェルも母さんも、みんな好き勝手言ってる。

 ただ一応、このフィギュアも地球の職人が丁寧にデザインして作ったものだ。


 その技術分の価値はちゃんとあるわけで。

 家で腐らせておくよりはいいのかもしれない。


「まあ、好きにしてよ」


 私は投げやりに言って、二階へ向かった。

 もう疲れたし、今日は寝よう……。





 翌朝。

 私は少し寝坊して、のんびり一階に降りた。

 と、店の方から子どもたちの声がする。


「ねえ、この人形、リナお姉ちゃんじゃない!」

「おもしれー! ちっこいリナ姉ちゃんが売ってるぞ」


 彼らは私のフィギュアに群がり、楽しそうに騒いでいる。

 母さん、ほんとにアレを店に置いたらしい。


「40ベルだってよ」

「たっかーい」


 でもさすがに、子どもが冗談で買えるようなお値段ではない。

 話のネタにされてるだけって感じで、ちょっと恥ずかしいね。



 まあ、私のフィギュアなんて気にしてる場合じゃない。

 今日からまた、頑張って行かないと。




 ガレリーナ社。

 久しぶりのオフィスに出ると、みんなが待ち構えていた。


「へえ~。リナも地球じゃスターなのねえ」

「タオルなんかもあるっスよ」


 サニアさんとメソラさんは、ニヤニヤしながら私の荷物を漁っていた。

 うん。まあ、一通りグッズでイジられるのはわかってたよ。


「さて、会議に入るぞ」


 ガレナさんの一声で、みんながデスクに集まってくる。

 テーブルの上に置かれたのは、ゲームボイ・ミニだ。


「小っちゃくて可愛いです! これが携帯ゲーム機なんですね……」

「めちゃくちゃ軽いっスよね」


 フィオさんとメソラさんがポンポンと掌でゲーム機を転がす。


「ええ。この手軽さは武器になります。特に、小さな種族には売りやすいと思うんです」

「確かに、フェルにはピッタリよね」


 ゲームボイを抱える妖精の子を見下ろしながら、私たちは販売プランを語り合った。


「ふむ。妖精の里か。フェルクルたちの案内が無ければ辿り着く事も出来ぬ場所と言われているが……」


 社長は顎に手を当てながら、私とフェルを交互に見やる。

 妖精の里は、ワープで簡単に行けるような場所ではない。

 そもそもマルデアの世界地図に載っていないので、行こうと思って行ける所ではないらしい。


「何とかなりそうな気はするんです。出張していいでしょうか」

「いいんじゃない? 面白そうだし」


 軽い調子のサニアさんに、ガレナさんも頷く。


「うむ。勝算があるなら挑戦してみるといい。

ただ、どこに持ち込むにしてもプロモーション映像が必要だろう。

ゲームボイはそこが問題でもある。先にそれを考えねばな」

「問題っスか?」


 首をかしげるメソラさんに、ガレナさんは頷いてゲームボイを手にする。


「うむ。簡単に言えば、ソフトのビジュアルが弱い」


 画面に映し出されているのは、白黒で描かれたシンプルなドットの絵だ。

 グラフィックは、はっきり言ってファミコムよりもショボい。


「まあ、動画に出しても見栄えはしないわよね」


 映像担当のサニアさんも、お手上げとばかりに肩をすくめる。

 確かに、今までのようなPVではお客さんの気を引くのは難しいだろう。


 ただその分性能も必要なく、最も小さく、最も軽量なゲーム機が完成したのである。

 ならば、それを売りにした映像を出せばいいのだ。


「動画で売り込む方法はありますよ。CMみたいな形になりますけど」

「CM? どんなの?」


 と、社員たちが私に注目する。

 うん、やってみせろという事だね……。


 仕方がない。

 ここはプロモーションガールとしてのリナ・マルデリタを見せるしかない。


 私は立ち上がってポケットからスッとゲーム機を取り出し、ニッコリ微笑む。


「ポケットに入る小さなゲーム機、ゲームボイ! 手軽に持ち歩けるよ!」


 昔よく見たCMの雰囲気を真似てみたけど、なんか凄い恥ずかしい。


「……、とまあ、こんな感じでですね。ゲーム機の長所をプロモーションするわけです」


 私はゴホンと咳をつき、すぐに席に戻った。


 地球では携帯ゲーム機を売り込む時、各社が色んなCMを出した。

 その中でもやはり、携帯性を強調した宣伝は印象的だった。


 『自分だけの持ち物』という感覚。

 それが携帯機の魅力だ。


 スウィッツも携帯できるんだけど、ポケットには入らない。

 まあ縮小バッグには入るけど、やっぱり手に取ると大きさや重さが違うからね。

 その辺のお手軽感が売りだと思う。


「なるほど。ゲーム機を持ち歩くスタイルそのものを売りにするわけだな」

「サイズや軽さもわかりやすいっスね」

「リナもノリノリだったわね」


 みんなが口々に感想を口にする。

 うん、ちょっとやった事を後悔してるよ。


「どこで撮るのが良いっスかね」

「やっぱり見晴らしのいい場所が……」


 CMの案は採用され、すぐに撮影に入る事になった。


 会社を出て、都内にある広い公園へ。

 結局今回も、私とサニアさんが演じる事になった。


 今回はCMという事で、結構本格的な撮影魔術を使う。


 まず周囲の雑音を消して必要な音だけを拾う、音響魔術。

 太陽光を操って見栄えを整える、光魔術。

 余計な風を止める、操風魔術。

 そのあたりは、エリート魔術師なガレナさんが色々と手配してくれた。


 本当は本格的な映像会社に頼んだ方がいいんだけど。

 地球製品の宣伝だと、あんまり相手にしてもらえないからね。

 お金を出せばいいという問題ではないのだ。


 さて。環境が整った所で、いよいよ撮影だ。

 メソラさんが高級デバイスで、魔術撮影を開始する。


 用意した台本通りに、私とサニアさんは二人でベンチに腰掛ける。


「ちょっとした暇な時間に。ポケットから取り出せる、ゲームボイ!」

「お手軽に、冒険の世界に旅立とう!」


 二人で小さなゲーム機を手にし、カメラ目線でそんなセリフを口にする。

 うん、恥ずかしい。


『タイトルは充実の八本。マルオやドラクア、ゼルドも入って70ベル!』

「フェルクルたちも遊んでるよ!」


 さらにキャッチコピーも加えて、フェルとケッシーがプレイする様子も収める事にした。

 動物や妖精が遊んでる絵は可愛いし、他種族へのアピールにもなるからね。


 撮影した映像を編集すれば、CMの完成だ。


 昔のゲームCMと言えば、アメリカではやたらテクノロジー感を押し出したものが多かった。

 現代ならゲーム映像が凄いから、そのまま流すだけでも絵になるんだけど。

 当時はドット絵のビジュアルが売りにならないから、色んな工夫をしたんだよね。


 完成した動画は、すぐ公式チャンネルにアップロード。

 とりあえず、ゲーマーたちに周知しておく事にした。


「おお、リナもフェルも出てる!」


 フェルが映像を見て、嬉しそうに羽を揺らしている。



 ネットでは早速ファンたちが良い反応を見せていた。


xxxxx@xxxxx

『なんだこのちっこいゲーム機』

xxxxx@xxxxx

『可愛い!』

xxxxx@xxxxx

『グラフィックは期待できないが、めっちゃ軽そうだな』

xxxxx@xxxxx

『この中にオールスターが最初から入ってるって事か?』

xxxxx@xxxxx

『ゼルドある時点で購入は確定だな』

xxxxx@xxxxx

『そだてっちって何だ!?』

xxxxx@xxxxx

『ドラクア3が入ってるぞ!』

xxxxx@xxxxx

『70ベルなら買いだな』

xxxxx@xxxxx

『ソフトの詳細を頼む!』


 ゲーマーたちはとりあえず、お気に入りのタイトルが入っている事で喜んでいるみたいだ。


「なかなか好評みたいね」

「ドラクアやゼルドがあるっスからね。コア層の獲得は固いっスよ」


 サニアさんたちがデバイスを眺めながら、反響を分析していた。


「リナ。国内は私たちに任せて、好きにやってみるといい」


 ガレナさんは、私のやりたい事を察したのだろう。

 国外の事は、全て一任してくれた。

 

「ありがとうございます。では明日からちょっと、出張に出るかもしれません」

「わかった。頑張って行ってこい」


 社長は後ろから、私の背中を押す。


 といっても、今回はかなりあやふやな案件だ。

 成功する確証はなく、お目当ての国がどこにあるのかもわからない。


「あのさフェル。妖精の里って知ってる?」

「さと?」


 ポケットの中の少女は可愛らしく首をかしげるばかりだ。

 知らないっぽいし、この子はやっぱあてにならないね。


 まあ、そのあたりは想像していた。

 アホっ子に知識を頼ってはいけないのだ。


 とりあえず、私は会社を出て地元へ向かった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 神トラやマザー2とかのCMは神がかってたなあ(定期
[一言] > エリート魔術師なガレナさん そういえばこの会社の幹部は魔法省だったり魔法研究所に在籍するエリート集団だったんですよね‥
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