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第百四十三話 ちっさいね



「まったく……」


 ニューヨークから発った機内で、トレイの上に座る妖精を見下ろす。

 フェルが数時間帰らなかったので、国連ではパニックが起きていた。


「妖精殿が行方不明だ。東海岸全域を捜索しろ!」


 テレビでも速報が出て、北米全土でフェルを探す展開になりつつあった。

 まあ、そしたらすぐ見つかったんだけどね。


『お騒がせ妖精、即発見』


 そんなニュースが世界のトップを飾っているのは、どうかと思う。

 記事の写真には、ロブスターロールにかぶりつくフェルの姿がでかでかと映し出されていた。


xxxxx@xxxxx

『フェル君さあ……』

xxxxx@xxxxx

『エビを喰いたくて遠出しましたって顔してやがる』

xxxxx@xxxxx

『マジで緊急速報出てびびった』

xxxxx@xxxxx

『アホっ子グルメ妖精め……。でも可愛いから許す!』

xxxxx@xxxxx

『あはは。大した事なくてよかったよ』


 みんな笑って許してくれてるみたいだけどね。

 それを知ったらまた調子に乗るだろうし、フェルには教えないでおこう。


「それで、何しに行ってたの?」

「さんぽ。リナのファンがいじめられてたから、助けた」


 散歩で地球騒がすの、やめてくれないかな。

 ただ、あの男の子は私のフィギュアを持っていた。


 以前色んな企業の話を見た時に、グッズ化も「別にいいですよ」とは言った覚えがある……。

 私の人形なんて誰が買うんだと思ったけど、ネットを見ると売れてるらしい。


xxxxx@xxxxx

『【悲報】リナのフィギュア、発売と同時に売切れ。次回入荷未定』

xxxxx@xxxxx

『くそがああああああああああ』

xxxxx@xxxxx

『予約の時点で戦争だったし、わかってた事だ』

xxxxx@xxxxx

『店頭販売もあったけど、一分で売り切れたらしい』

xxxxx@xxxxx

『今までリナグッズはパチモンすらそうそう出回らなかったからな。

初の公式フィギュアに世界中が群がった形だろう』

xxxxx@xxxxx

『生産が絶望的に足りていない』

xxxxx@xxxxx

『俺のリナコレクション、未だゼロ……! 圧倒的ゼロ……!』

xxxxx@xxxxx

『グッズを持たないファンなんて、ただの視聴者だぜ』


 購入できなかった人たちが悲痛の声を上げている。

 世の中ほんと、おかしな事になってるよね。


 私も商品のサンプルはもらったけど、確かにしっかり作られている。

 ただ、自分のフィギュアを見るのはやっぱり複雑な気分だ。


「あら、リナのお人形? 可愛いじゃない」

「ははは、そっくりじゃないか」


 マリアとジャックが後ろから顔を出し、楽しそうに笑っていた。


 二人はアメリカ経由の移動中、いつも護衛についてくれる。

 たまに存在を忘れそうになるのは、うん。気のせいだよ。



 ニューヨークから十時間超のフライトを経て、関西空港へ。

 やってきたのは京都某所、Nikkendo本社だ。


「お久しぶりですね、リナさん。アルゼンチンの旅はいかがでしたか?」

「ええ、パワフルで面白かったですよ」


 迎えてくれた営業部長と世間話をしながら、ビルの上階へと向かう。


「アルゼン、肉がうまかった! ヌーヨーク、エビがうまかった!」

「ははは、妖精君は美食家だね。私も世界のグルメを現地で楽しみたいものだ」


 やかましいフェルにも、部長は優しく微笑んでくれた。

 いい人だよね。


 六階の一室に入ると、さっそく本題の会議だ。

 テーブルの上に置かれていたのは、スウィッツの新作ソフト……ではない。


「ちっさい。何これ、おもちゃ?」


 フェルはよくわからないのか、首をかしげている。


 大きさは、スウィッツの四分の一くらいだろうか。

 それは小さな小さな……、ゲーム機だった。



 うん。

 今回はちょっと趣を変え、一つの『ゲーム機』を発売する事になった。

 と言っても、そんなに大きなプロジェクトではない。


 小さなゲーム機にソフトをあらかじめ収録し、セットで7000円くらいの価格で販売する。

 地球でも近年人気を博した、ファミコム・ミニなどと同じ形の商品だ。


 その名も、『ゲームボイ・ミニ』。


 ゲームボイは、1989年に発売されたNikkendoの携帯ゲーム機だ。

 ポツモンなど様々なヒットタイトルを生み出し、据え置き型とは異なる市場を生み出した。

 鼠色のボディが印象的な、歴史的ゲーム機である。


 オリジナルのサイズは、高さ15cmに幅が9cm、奥行きが3cm程度だ。

 ゲームボイ・ミニは、その半分以下のお手軽サイズとなる。


 こういう商品を用意したのには、それなりに理由がある。


 まず、収録されたタイトルは以下の通りだ。


 マルオと小さな大冒険。

『ハイパーマルオランド 六つの銀貨』


 ゲームボイで遊べるドラクア!

『ドラゴン・クアスト3』


 二人プレイが魅力の可愛いシューティング。

『ツインBだ!』


 大ブームを巻き起こした携帯育成ゲーム。

『そだてっち!』


 伝承もポケットで楽しめる。

『ゼルドの伝承 夢見がちの島』


 吸い込んだら、変身する!

『星にカービア2』


 難関ニンジャ・アクション。

『忍者流刀伝 魔天牢バトル』


 お医者さんになって、ウイルスをやっつけよう。

『ドクター・マルオ』



 うん。めっちゃ豪華である。

 この小さな小さなゲーム機で、これだけの遊びが楽しめる。


 しかも、無線通信機能も搭載してマルチプレイも可能という充実ぶり。

 それだけあってお値段は、なんと70ベルだ。


 もちろん、マルデア国を中心に展開していく予定ではあるんだけど。

 このゲームボイには、新たに一つ大きな狙いがある。


 今回のラインナップを見ればわかると思うんだけど。

 はっきり言って、鉄板タイトルばっかりだよね。


 このゲーム機で、新たに開拓したい市場がある。


「フェル、ちょっと遊んでみる?」

「おう!」


 試遊機を手渡すと、彼女は元気にカービアを遊び始めた。


「ていっ、ていっ。おお、とてもいいサイズ!」


 遊びやすい大きさらしく、彼女はご機嫌にバシバシボタンを叩いて操作していた。


 マルデアには、フェルのように体の小さい種族が存在する。

 彼らに本格的にゲーム機を売るには、やはりそれに見合うサイズ感が重要だ。


 スウィッツを魔術で縮小して売る事も考えたんだけど、画面を小さくするとグラフィックが潰れて変になるんだよね。


 その点ゲームボイ・ミニは、元々が小さい。

 小さな種族に向けて特化したゲーム機と言えるだろう。


 この新しいゲーム機を、なんと十万台も用意してもらった。

 スウィッツやアーケードなどの追加分も、一緒に輸送機に詰め込んでいく。


 さて。

 色々あったけど、今回の地球旅行もおしまいだ。


「じゃあフェル。帰るよ」

「ほいよっ!」


 妖精がしっかり掴まったのを確認して、私は腕のリストを起動した。






 マルデア星。

 研究所を出たら、空はもう赤くなっていた。

 出張終わりで少し疲れたけど、今日はちょっと行くべき場所がある。


 ワープ経由で久しぶりにやってきたのは、首都の中枢。


 荘厳な城のような建造物が立ち並ぶこの区域で、ひときわ目立つ緑の光に包まれた塔。

 私の古巣とも言える魔法省だ。


 中では、今日も超エリートな魔術師たちが規律正しく仕事に従事していた。

 一時的とはいえ、私がよくこんなとこで働けたもんだよね……。

 まあ、一応まだ籍は残してあるんだけど、今さらここに戻りたいわけでもない。


 通路を進んで第四部署に入ると、見知った顔の部長が奥の席に腰かけていた。


「やあリナ君、久しぶりだね。どうだね、仕事の方は」

「はい。それなりに軌道に乗りまして……」


 部長にこの一年の事を話すと、彼はなんか楽しそうに笑っていた。


「ははは。そこまで地球に入れ込むとは、君は本当に変わっているね。

魔術長官の娘も君と同い年くらいだが、恋人と遊ぶのに忙しいようだよ」

「は、はあ」


 まあ、私は同世代の中ではだいぶ……、だいぶ変わってると思う。

 道行く女学生たちが「彼氏がさ~」とか言ってるの見ると、ほんとに別の世界に生きている気がする。


 ここ数日の私なんて、アルゼンチンの宗教団体を潰してゲームボイを入荷したからね。

 ちょっと意味がわからないよね。

 まあ、それが私の人生なんだろうけど。


 一通り報告を終えると、彼は存分に笑った後で言った。


「なるほど。地球ではよほど活躍しているようだね。

で、今はどんなものを商っているのかね」

「はい。こちらの輸送機に……」


 私がカプセルを取り出すと、部長は中の商品を幾つか確認していた。


「ふむ……。この小さなオモチャは、子どもに売るのかね?」


 そう言って、彼はゲームボイのパッケージを手に取る。


「ええ。できれば妖精の里にも売り込めればと思っています」

「妖精の里? はっはっは! きみ、なかなか面白い冗談を言うね。

フェルクルたちに商談を持ち込むなんて、大手商社でもしない無茶だよ」


 呆れたように肩をすくめる部長。

 確かに、自由奔放な妖精たちに物を売るなんて、なかなかマルデアでも無い発想だ。


「でも、可能性はあると思います」


 私が反論すると、彼は苦い顔をして言った。


「ふむ。君は少し成功していい気になっているのかも知れんが。

マルデアの伝承とも言われる彼らが、地球の娯楽など遊ぶわけがないだろう。

売り込むどころか、里に辿り着く事も出来んだろうさ。はっはっはっは!」


 豪快に笑い続ける部長。

 まあ、何と言われようがやるけどね。


 一応問題なく報告は終わったので、私は魔法省を出た。


「おしごと、終わった?」


 と、胸ポケットで眠っていたフェルが顔を出す。


「うん。今日はもう家に帰るよ」

「おう! ゲームボイ、ゲームボイ!」


 新しいゲーム機をやってみたいのか、彼女は手を上げて催促していた。

 この子がこれだけ反応してるんだし、フェルクルたちが気に入る可能性はある。

 しっかり準備をして、一つ一つ進めて行こう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とうとうミニシリーズが登場ですね(◕ᴗ◕✿) 小型のスマホサイズならかなり小さいですね。 フェルクルの大まかなサイズがわかりやすい… これは部長さんの鼻もあかせるはず! [気になる点] …
[気になる点] リナのグッズで転売ヤーが祭りを… (日本より海外の方が酷いらしい)
[一言] >>ゼルドの伝承 夢見がちの島 一気に残念な感じにw
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