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第百三十八話 マルデリタ教


 さて、また地球出張の時期がやってきた。

 ちょっとまた、地球のネットで気になるニュースが出ている。


『南米の国でリナ・マルデリタ教が発足!?』


 うん。何ともはがゆいタイトルである。

 なんでも、私を神として崇める宗教が生まれたとか……。


『メキシコの火山を鎮めた活躍から、リナ・マルデリタの名声は更に高まった。

特に南米は熱狂的だ。アルゼンチンのサンタローサ近郊では、彼女を現人神とする教団が発足したという』


 まあ、そんな内容の記事だった。

 とても小さな組織らしいんだけど、さすがに気になる所だ。


「きゃははは! リナが神様だって!」


 フェルは大いに笑っていた。


 まあ、現人神って冗談みたいな話だよね。

 私はただのマルデア人だよ。


 宗教は自由だけど、私の名前を使って変な事されてたら困るしね。

 観光がてらこっそり調査しに行きたいと思う。


 というわけで、今回の訪問先はアルゼンチンに決まった。


「おおっ、美味そうな国じゃ!」


 妖精さんは、アルゼンチンのグルメ画像を見て興奮していた。

 まあ、この子はそういう部分しか見ないからね。

 アルゼンチンはお肉大好きな国らしく、国民たちは毎日のようにバーベキューをするらしい。

 なんか陽気そうで楽しみだね。




 出発の準備を済ませて、当日。

 私たちは朝早くから、魔術研究所へと向かった。


「ちっきゅう、ちっきゅう!」


 フェルは小さな水筒を肩にかけ、麦わら帽子を被ってゴキゲンに歌っている。

 よっぽど楽しみらしい。


 今回の輸出品は、マルデア魔石が11万、ドワフ魔石が1万。

 そして縮小ボックスを1000個。


 母さんお手製のお弁当も全てカプセル輸送機に入れてあるので、私は手ぶらだ。

 教団に潜入するため、髪の色も変えてメガネもかけておいた。

 これでぱっと見はわからないだろう。



 第三研究所に入ると、ガレナさんが準備を進めてくれていた。


「やあリナ。地球の神となった気分はどうだね?」

「……。あんまり笑えないですね」


 ため息をついてみせると、社長は私の肩に手を置いた。


「宗教は危険な組織もあると言うからな。気を付けていくといい」

「はい。では行ってきます」

「れっつごー!」


 フェルと一緒にワープルームに入ると、私たちの体は光に包まれていくのだった。




 次の瞬間。私は町中に立っていた。


 レンガ造りの建物に、生い茂るヤシの木。

 乾いた風が頬を撫でる。


 南米の町、と言った感じだろうか。


「おお、空がカラッとしとる」


 広がる澄んだ青空に、フェルもゴキゲンだ。


 スマホでマップを確認すると、現在地はサンタローサの少し北。

 ガレナさん、今回は上手くいったようだ。



 少し歩くと、広場で遊ぶ人々の姿が見えてきた。


 大人も子供も、みんなボールを蹴り合っている。

 さすがアルゼンチン。サッカー大国という感じだね。


「あの、ちょっといいですか」


 青年のグループに声をかけると、彼らは足を止めて振り返る。


「なんだい? 見ない顔だね」

「はい、このあたりにリナ・マルデリタの教団があるって聞いたんですけど……」

「ああ、よく大通りでオッサンたちが演説やってるよ。『リナ様を信じる者は救われる』ってね」


 そう言って、男性は肩をすくめてみせる。

 オッサン……。一体何をやってるんだよ。


「あの、あなた方はそういうの信じたりしますか?」


 試しに聞いてみると、彼らは一斉に笑った。


「あはは、リナは凄いけどさ。ああいう新興宗教は信じてもしょうがないよ」

「そうそう。あいつらにお布施しても、何も出やしないぜ」


 市民たちは概ね、その教団を相手にしていないようだった。


「奴らの教会は町の北はずれにあるけど、行くなら騙されないように気を付けなよ」

「あはは、ありがとうございます」


 私は彼らに礼を言って、広場を離れた。

 北へ向かうと、左手には見渡す限りの小麦畑が見えた。


 ていうか、地平線が見えるのが凄いね。


 このあたりの地域はパンパといって、農作が盛んらしい。

 開けた景色の美しさを楽しみながら、私は通りを北へと向かった。


 しばらく歩くと、教会らしい建物が見えてくる。


「フェル、隠れててね」

「おう……」


 ごそごそと妖精がポケットに潜り込むのを確認して、私は教会の大きなドアを開ける。

 中に入ると、十人を超える市民が席についていた。


 集会の最中だったらしく、教壇に立った男の声が響いていた。


「リナ・マルデリタは現世に生きる神と言っていい存在です。

彼女は明確に存在し、私たちを救いに来てくださるのです」


 語る教主に、前列に腰かけた男性が手を上げる。


「でも、うちの国にはまだ一度も来てないじゃないか」


 もっともなご指摘に、恰幅のいい教主はニコリと微笑む。


「その通りです。リナ様をお呼びするには、それなりの根回しが必要です。

私たちは皆さんから頂いたお布施を使い、リナ様に来て頂けるよう働きかけています。

他の宗教とは違い、マルデリタ教のお布施には明確な意味があるのです」


 教主の話は、何となくそれっぽい雰囲気がある。

 この教団にお布施をすれば、アルゼンチンにリナがやってくる。


 そう信じた人もいるのだろう。

 市民たちは感心したように教主を見上げていた。


「皆さんのお力を少しずつ、分けて頂きたいのです。

そうすれば、リナ様が皆さんを救いに来て下さるでしょう」


 演説が終わると、市民たちは教団員にお布施を手渡していく。


「ありがとうございます。あなたの御献金があった事は、リナ様にしっかりお伝えしましょう」


 教主は嬉しそうに信者たちに声をかけていた。

 このオジサン、どうやってマルデアに伝えるつもりなんだろう。

 まあ、どういうわけか私の耳には入ってるけどね……。


 信者の中には、小さな女の子の姿もあった。

 彼女はお布施用の箱に、握りしめていたコインを投げ込む。


「リナ様。うちの畑を救ってください。お願いします」


 手を合わせて祈る少女を、教主たちはニコニコと笑みを浮かべて見下ろしていた。

 さて、この教団の正体を調べないとね。



 私は一旦立ち上がり、教会の外に出る事にした。

 そのまま建物の裏手に回り、輸送機から布を一枚取り出す。


 そして、魔力を込めて録音の術式を書き上げた。 

 完成した陣を建物の壁に貼り付ければ、準備は完成だ。

 上手く行けば、教主たちの本音を聞けるはず。


 陣の発動を確認してから、私は目の前に広がる畑を眺めた。

 よく見ると、どうも麦の実りが悪いように見える。


「むう。土に元気がない」


 フェルもポケットの中から、残念そうに畑を見下ろしていた。

 さっきの少女の悩みはきっと、この事だったんだろう。

 不作は、農家や現地住民の生活に関わる問題だ。


 この程度の規模なら、私の手で解決出来なくはない。


 ただ彼女の願いをこのまま叶えてしまえば、それは教会の手柄になるだろう。

 その前に、彼らの正義を見定めなければならない。


 と、かけておいた魔術陣から男の声が響き始めた。


『一回の集会で20万ペソか。悪くない稼ぎだな』

『ああ。思った通り、リナの名前を使えばバカどもが金を出してくれるぜ』


 教主たちが、奥の部屋で語り合っているらしい。

 私は教会に近づき、聞き耳を立てる。


『しかし、信者たちはほんとにリナが来ると信じてるみたいだぜ』

『知った事か。大国が呼んでも来ないのに、こんなチンケな献金でマルデア大使様を呼べるわけねえだろ。

俺たちの酒代に使った方が、よっぽど有意義ってもんだぜ』


 二人は何がおかしいのか、ケラケラと笑い合う。

 予想通り、お布施をまっとうに使う気はないようだ。


『で、これからどうするよ? 今はいいが、さすがにずっとリナが来なかったら信者たちも怪しむぜ』

『問題ねえよ。適度な所で教団を畳んで逃げりゃいいだけだ。

だが近い内にリナがこの国に来れば、ウチの手柄にして更に信者を増やせる。そしたらもっと美味え事になるぜ』

『だな。お優しいリナ様に、せいぜい期待しておくか』


 どうやら、夜逃げの算段まで済ませているようだ。

 市民を騙すだけ騙して、利益をすする事しか頭にないのだろう。


 こいつらを野放しには出来ない。

 市民たちのお布施も取り返さないと。


『壁の向こうへ』


 私は教会の外壁をすり抜け、そのまま中の部屋に入って行く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぼくは詐欺集団じゃないマルデリタ教に入信したいです、ゲームをお布施に
[良い点] 感想欄に鋭いツッコミが(ʘᴗʘ✿) でもやはりこういう暗い部分も出てきますね。 われわれからしたらこのあとのリナちゃん無双に 胸踊らせる瞬間です( ꈍᴗꈍ) [気になる点] 思えば魔石や…
[一言] ガレナさんの腕は今回も冴えているようだ 今回も? 前回はカリブ海のど真ん中だったじゃ?ww
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