表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

158/171

番外編 フェルクルたちとの交渉


 今日はマルデアの祝日だ。

 ちょうど地球でもゴールデンウィークらしいね。


 私は家の裏手に出て、いつものようにお店を見ていた。


「マルオカーツで対戦しようぜ!」

「ボムバーマンがいいなあ」


 近所の子どもたちは、それぞれ好きなゲームで盛り上がっている。


 五月の暖かい風が心地よく、少し眠気を誘う。

 我が家の駄菓子屋周辺は、今日もバカみたいに平和だった。


 と、そこへ。


 公園の方から、一匹のフェルクルがふわふわと飛んできた。


 妖精の少女はぷやぷやの台に降り立つと、ゲーム画面をじっと見つめる。

 そして、ベシベシとボタンを押し始めた。


 フェルよりもだいぶ幼い子だけど、遊びたいのだろうか。


「よう、それはコインを入れなきゃプレイできないんだぜ」


 トビー君が声をかけると、フェルクルの少女は首をかしげる。


「こいん?」

「お金よ、お金」


 カレンちゃんが指で輪っかを作ってみせる。


 妖精の少女は何か思いついたのか、懐に手を入れた。

 彼女が取り出したのは……、ドングリ?


「これ、おかね……」


 彼女はそう言って、自分の顔より大きい木の実を差し出す。


 フェルクルは貨幣を持たないが、仲間同士で物々交換をする事があるらしい。

 それは彼らが食べる木の実だったり、珍しい形の石だったりする。


 彼らにとっては、ドングリがお金なのだろう。

 だが、残念ながら木の実はコイン投入口には入らない。


「おいおい、ドングリじゃダメだよ」

「1回1ベルよ。お安くないんだから」


 トビー君とカレンちゃんが説明すると、妖精の少女はシュンと顔を落とした。

 ほんとに悲しそうだ。


 お金のないフェルクルだって、アーケードを遊びたいのだ。

 しょうがない。一回くらい遊ばせてあげようかな。


 と思ったその時、私は驚きに目を見張った。


 ぷやぷやの台の上から、高い密度の魔力を感じる。

 少女のドングリに、異様な力が籠っているのだ。


 よく見れば、実の表面には白い粉が見えた。

 フェルクルの羽から出る粉がついたんだろう。


 そういえば、妖精の粉って結構な貴重品だ……。

 魔石より上質な素材だし、珍味としても知られている。


 それが少量であれ付着したドングリなら、十分に価値があるだろう。

 なら、これはちゃんとに対価になるわけだ。


「いいよ。このドングリ一個で、五回分遊ばせてあげる」

「ほんとっ?」


 一転して顔を上げ、目を輝かせる妖精の少女。

 私は頷き、裏のカギを開けて五回分のクレジットを入れてあげた。


「これでプレイできるよ」

「やった!」


 妖精の少女はさっそくレバーを操作し、ぷやぷやを遊び始める。

 本当に楽しそうだ。 


「おいおい、ドングリで遊べるとか聞いてねえぞ」

「私も拾ってくるから、五回遊ばせて!」


 アーケード好きな二人が立ち上がるが、そうは問屋がおろさない。


「ダメ。マルデア人はベルで支払ってね」

「なんだよー、ケチ!」


 ぶーたれるトビー君だけど、こればっかりはしょうがない。

 マルデア人にドングリで遊ばせたら、市場が崩壊しちゃうよ。


 私は苦笑いしながら、ぷやぷやに夢中なフェルクルを見下ろしていた。


『えいっ、ふぁいおー』


 割と器用に連鎖を作り、キャッキャと大喜びする少女。


 自分としては、珍しいやり取りをした程度の気持ちだった。

 これがフェルクルたちとの取引に繋がっていくとは、思いもしなかったのである。



 お母さんは、私がフェルクルにもらったドングリを面白がっていた。


「ついてる粉はそんなに多くないけど、結構貴重品よ。売ったら20ベルにはなるんじゃないかしら」

「へえ、そんなになるんだ」


 袋に入れた粉つきの木の実をじっくりと観察する母。

 評価額は2000円らしい。


 クレジット五回分だと少なかったね。


「これなら、妖精ちゃんたちも立派なお客さんになりそうね」

「うーん。どうかなあ」


 お母さんは嬉しそうにしているけど。

 フェルクルは気まぐれな生き物だ。


 律儀に対価を持ってくるような子は珍しいんじゃないだろうか。

 大体、ソファにいるフェルを見てほしい。


「とやっ、とああああ! どかーん!」


 彼女は私のスウィッツを勝手に使って、有名なパズルゲームに夢中だ。

 テトラスをあんな叫んで遊ぶ事があるだろうか。

 四列一気に消す時にドカーンと言うらしい。


 気分よくブロックを落としていく少女は、とても楽しそうだ。

 ただ、ちょっとスピードが速くなるとパニックになってしまい、ブロックが積み上がっていく。


「うわああああっ。しんだ……」


 ゲームオーバーで画面に倒れ込むフェル。

 いつもの死に芸である。


「まあ、期待しない方がいいかしらね」

「うん……」


 母さんも、遊ぶ妖精を見て少し諦めたらしい。

 勝手に住み着いてタダ飯食う子たちだからね。


 さて、もう夜八時だ。

 食事を終えた私は、二階の自室に戻る事にした。


 今後のためにも、色んなゲームをプレイしておかなければならない。

 これは決して遊びではない。商品の調査という名のお仕事なのだ。

 ふふ、ホラーゲームやってる途中だったんだよね。


「ふんふんふーん。さて、今日も楽しくバイア……、ん?」


 ドアを開けた瞬間。

 乙女の室内に、大量の小さな光が見えた。

 どうも、フェルクルの集団らしい。

 ただ、彼らにしては妙にきちっと並んで座っている。


「な、何か御用ですか?」


 恐る恐る声をかけると、中央の老フェルクルが顔を上げる。


「うむ。少し話があってな。

そなた、"びでおげーむ"を商っているようじゃな」

「はあ……」


 頷く私に、おじいさんは懐から一つドングリを取り出した。


「昼間、ミルがこの実を対価に"げーむ"を遊んだと聞いた。

実は、他の者たちも遊びたがっておるようでの」


 爺さんが後ろを振り返ると、仲間のフェルクルたちが声を上げる。


「フェルばっかり遊んでずるいぜ!」

「あいつ、帰ってきたらいっつも遊んだゲームの自慢してくるのよ!」


 不満を露にする妖精たち。

 フェル……、あんた何をやってるんだい。


「そこで、じゃ。我々も対価を払い、げーむの使用権を買いたいのじゃ」

「使用権、ですか」


 そう言えば、フェルクルたちにはゲーム機は大きすぎる。

 草むらで管理するのも難しいだろう。

 うちで遊ばせてあげるくらいしか方法はないわけだ。

 

「どうかね。この家のげーむを使わせてもらえるなら、一月300個の実を用意しよう」


 まあ、特に妖精たちにゲームを遊ばせる上でのデメリットはない。

 妖精の粉は貴重品だし、地球に持ち込めば色んな用途があるだろう。


「じゃあ、お願いします」

「うむ。交渉成立じゃの」


 私の人差し指を老フェルクルが握りしめる。


「やったぜ! これでゲームやり放題だ!」

「遊ぶわよー!」


 妖精たちは待ってましたとばかりに立ち上がり、モニターの前に飛んでいく。

 ゲーム機の傍には、大量のゲームソフトが置かれていた。

 彼らは、不思議そうにプレスタのソフトを見下ろす。


「なんだこの円盤?」

「『のぶながのやぼー』って書いてあるぜ。ゲームソフトだろ」

「バカね。ゲームソフトってのは四角いのよ!」


 ディスク媒体を見た事がないのだろう。

 妖精たちはそれがソフトなのかどうか議論している。


「これはゲームディスクって言って、ここに入れるんだよ」


 プレスタのディスクドライブを開けてやると、彼らは一斉に驚いた。


「おおっ、すげえ仕組みだ!」

「よし、あそこに運ぶわよ!」


 三人がかりでディスクを持ち上げ、ばちこんとドライブにはめ込む。

 ソフトを入れるだけでも、なかなかの運搬作業だ。

 電源ボタンを押すと、モニターに光が入った。


「ゲームがついたぞ!」

「これ、何のゲームだ?」 

「天下統一するんだって」


 妖精たちはプレスタのコントローラーを触りながら話し合う。

 織田信長の天下統一ゲームなんて、この子たちに遊べるのかな……。

 しかも未翻訳だし。


 まあ、なぜか日本語は読めてるみたいなんだよね。

 妖精たちには言葉の壁を超える力があるみたいだ。


 このゲーム、戦国時代の大名になって内政や戦をして成り上がっていくゲームなんだけど。

 もちろんフェルクルたちに当時の時代背景がわかるわけもなく。


「内政ってなに?」

「しらん、いくさじゃっ!」

「とつげきぃぃぃぃ!」


 なかなかアグレッシブなプレイをしてるみたいだ。

 この部屋には、未翻訳の地球産ゲームが山ほど置いてある。

 まあ、彼らだけなら何を遊んでもいいだろう。


 おじいちゃん妖精は、そんな若者たちの姿を優しく見守っていた……。

 かと思いきや。


「おんしら、何を戦争ばっかりしとるんじゃ。内政こそ組織のカギじゃぞ。

治安と生産をしっかりと安定させるのじゃ!」


 後ろからバリバリ指示を出していた。

 さすが、そこらの草むらを治めているだけある。


 まあ、楽しんでるようで何よりだ。

 私もちょっとホラゲーやって寝よう……。


 その日は、夜遅くまで妖精の喧騒が響いていた。





 翌朝。

 私は試しに、フェルクルからもらった木の実を何個か空き地に埋めてみた。

 特に反応もないので、魔術で水をあげてみる。


 木の実だから、こうしたら何か起きるんじゃないかと思ったのだ。


 すると、やはり効果があったのだろう。

 すぐに地面から芽が現れる。


 それはあっという間に大きくなり、床や柱のような形を作っていく。

 そして、簡易ログハウスのようなものが完成してしまった。


「うわっ、なんだこれ!」

「木の家が出来てるー!」


 子どもたちは、大喜びではしゃぎながら木の家に上がり込んでいる。

 しっかりした屋根も出来たし、これで雨の日も遊べそうだね。


 うーん、どんぐり凄い……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] フェルクルたちはフェルだけじゃなくてみんな面白いものが好きなんですね!小さな妖精たちと携帯機のゲームボイが相性がいいのは素敵だなぁと思いました。一時期はやった小さなテトリスやたまごっちなん…
[良い点] ミルちゃんかわいい(◕ᴗ◕✿) 妖精の粉に価値があるのかと思いきや、 どんぐりもすごかった件 そしてまさかの戦略シミュレーション… おじーちゃんすげぇ(ʘᴗʘ✿) [気になる点] これど…
[良い点] 妖精さん可愛い [気になる点] 内政じゃ!内政じゃ!妖精の内政? [一言] どんぐり凄い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ