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番外編 ガレナ社長の一日

ガレナさん視点です


 マルデア首都の魔術研究所。

 私はいつもこの第三研究室で、仲間の出張を見送る。


「では、行ってまいります」

「うむ。健闘を祈るよ」


 デバイスのスイッチを押すと、ワープルームが作動する。

 桃色の髪を伸ばした少女は、白い光に包まれて消えた。

 今頃はもう、地球に着いている頃だろう。


 私はガレナ・ミリアム。ガレリーナ社の社長を務める者だ。


 そういえば、リナといつも一緒にいる妖精の姿が見えなかった。

 地球に飽きたのだろうか。


 まあいい、ワープの到着地点を確認しておこう。

 私は地球の観測データを取り寄せ、魔力が発生した地点を調べる。


「あ……」


 どうも、少し目標地点から離れた位置に落ちてしまったようだ。

 海岸から十キロほど北の海に……。


 まあ……、彼女の装備であれば、問題はあるまい。


 リナには『すまん、少しずれた』とメールを送っておいた。

 しばらくすると、


『落ちた所は水平線以外なにも見えませんでしたよ。

もう陸地に着いたから、大丈夫ですけどね!』


 と半ギレな返事が返ってきた。

 たくましく生きているようで何よりだ。


 と、そこへ。


「ねぼーしたぁぁぁぁ!」


 光の糸を引きながら、小さな妖精が窓から飛び込んできた。

 髪の毛がクシャクシャにハネているのを見るに、起きたばかりのようだ。


「やあ、フェルじゃないか。リナはもう地球に飛んで行ったぞ」

「のおおおぉぉ。わちしも行く! 海のさち! いそのかおり!」


 どうも、カリブ海の海鮮料理とやらを期待していたらしい。

 彼女はワープルームに飛び込み、さっさと飛ばせとばかりに羽を広げる。


「ダメだ。今から君をリナの元へ飛ばすのは難しい。

迷子になると厄介だし、今回は諦めたまえ」


 諭すように説明すると、フェルは突然しおれたように地面に落ちた。


「ううぅ……。フェル、美味いもの食えない。しんだ……」


 地球を巨大なレストランとでも思っているのだろうか。

 このままでも死にはしないだろうが、リナの相棒だし放置はしづらい。


「仕方がない。来たまえ。後で食事くらい用意してやろう」

「ほんと!? ならいく!」


 妖精の少女は飛び上がり、満面の笑みで私の肩に止まる。

 何という変わり身の速さだ。


 ただ、今日は朝から仕事の予定がある。

 私は現金な妖精を連れ、まずは取引先へ向かう事にした。



 やってきたのは、マルデアの市街が一望できるオズレール山の展望台。

 いわゆる観光地である。


 市からのオファーで、見晴らし台の傍にある休憩所にアーケードを置く事になったのだ。

 観光スポットに賑わいを与えるような娯楽機を置きたいのだという。

 取引としては少額だが、国の公的機関との初取引という事もあり、私が設置に向かう事にした。


「筐体を置く場所は、このあたりで?」

「ええ、その辺のスペースを使って頂ければ」


 施設に案内してくれた職員も、ゲーム機などどう扱っていいかわからないのだろう。

 場所だけは指定してくれたものの、それ以上は何の要求もなかった。


「さて、設置していくか」


 私は輸送機から、ある珍しい筐体を取り出した。

 それを見て、フェルが目を輝かせる。


「おおっ、マルオ!」


 そう。世にも珍しい、初代ハイパーマルオの筐体だ。

 ファミコム版は大ヒットだったが、アーケード版は地球でも結構レアモノらしい。

 リナが記念に数台取り寄せていた。


 こういう観光地に来る客層は、ゲームを遊んだ事がない人も多いだろう。

 ビデオゲームの入口として、マルオを設置して見る事にした。


 他にも、モグラ叩きやクレーンゲームを用意したが、さて。

 上手く行くだろうか。

 

 とりあえず通路の脇に設置して、様子を見る事にした。

 と、ふもとからやってきた客たちが、休憩所に入ってくる。


「父さん、あそこになんかあるよ」

「ん? ああ、何かの展示だろう。さあ、見晴らし台はあっちだ。行くよ」


 だが、彼らはすぐにお目当ての展望台へと向かってしまった。

 まあ、それ目当てだから仕方がない事ではあるが……。

 少し待っても、なかなかゲーム機に興味を示す者はいないようだ。


 ここは少し、プロモーションが必要かもしれない。

 ならば、あの手で行くか。


 私はバッグからお手製の魔術人形を取り出し、筐体の上に置く。

 自分で作った、お馴染みの丸顔おじさん人形だ。


『人形に命を』


 魔力を込めると、マルオはゲームサウンドに合わせて生き生きと踊り出す。


 これは、私が営業先でよくやる宣伝手法だ。

 筐体が奏でるラテンの音楽に乗って、おじさんがノリノリでジャンプする姿は、何だか面白くて評判がいい。

 キャラの魅力を伝える方法として、重宝している。


「いやっふぅーーー!」


 何故かフェルも、マルオ人形と一緒になってジャンプしていた。

 すると……。


「ねえ、あれなに?」

「おじさんとフェルクルがダンスしてるわよ。ふふ、楽しそうね」

「ぼく知ってる、あれマルオだよ」


 思った通り、通りすがりの客が反応した。

 そうすれば当然、アーケードにも注目が行く。


「ふーん。右にジャンプしていく遊びか」

「面白そう、わたしやりたい!」


 女の子がピョンピョン飛び上がって主張すると、父親は勝てないものだ。

 パパがコインを入れてあげると、彼女は喜んで席に着く。

 そして、マルオの最初のステージを遊び始めた。


「へえ、キナコを取ると大きくなるのね」

「コイーンコイーンって、たのしい!」


 きっと、生まれて初めてゲームを遊んだのだろう。

 少女は夢中になってブロックを叩いている。


 新鮮な遊びとの出会いに、夢中になる人々の笑顔。

 それを間近で見守れる事が、この仕事のやりがいである。


 客たちは観光のついでに軽く一、二回遊び、満足して去って行く。


 うん、こういう場所はこれでいい。

 気軽に遊べる場を提供できれば、成功と言えるだろう。


 最初は心配したが、なんとか順調な滑り出しになったようだ。

 これなら市も喜んでくれるだろう。


「フェルも、客引きを手伝ってくれたようだな。ありがとう」

「ふっふっふ。お礼は、うまいメシでいい」


 胸を張る妖精は何とも自慢げだが、礼はちゃんとしておくべきだろう。


 私たちは山を降り、会社の一階にあるモント食堂で昼食を済ませた。

 ここで食べる地球料理は、なかなかいける。


「はー、くったくった」


 私はお気に入りのチャーハンを食べたが、フェルは自分の腹よりでかいアイスをたいらげていた。

 どうやって消化しているのかわからんが、まあ気にしても仕方あるまい。


 私は支払いを済ませ、二階のオフィスへと向かった。


「おかえりなさい。あれ社長。なんでフェル連れてるの?」


 と、サニアたちが私の傍を飛ぶ妖精に気づいたようだ。


「今日はリナさん地球に出張っスよね。行きそびれたんスか?」

「うむ……。ふかく」


 メソラが声をかけると、フェルは残念そうに顔を落としていた。


「寝坊したらしくてな、私が少しの間だけ預かる事になった」

「へえ。社長って割と面倒見がいいのね」

「案外優しいっスよね」


 意外なものを見るような社員たちの目は心外だが、まあいい。


 デスクについた私は、デバイスでSNSをチェックする事にした。

 やはり、アレに気づいたゲーマーがいるようだ。


xxxxx@xxxxx

『なんか観光地の休憩所に、見た事ないバージョンのマルオがあるんだが』

xxxxx@xxxxx

『え? 休憩所にスウィッツ置いてあるの?』

xxxxx@xxxxx

『いや、アーケードだったよ。動画撮ったから出しとく』

xxxxx@xxxxx

『マルオのアーケード……、だと……!』

xxxxx@xxxxx

『ガチで見た事ないやつだし』

xxxxx@xxxxx

『ガレリーナ社の倉庫で撮ったとかじゃないよな』

xxxxx@xxxxx

『どこだ? どこにある!?』

xxxxx@xxxxx

『オズレール山の展望台だよ。誰でも普通に遊べる』

xxxxx@xxxxx

『よし、ちょっくらプレイしてくる』

xxxxx@xxxxx

『私も行く!』


 マルデアで未発売なタイトルの映像に、ファンたちが興奮していた。

 これでまあ、観光地の方は大丈夫だろう。


 さて、後はリナのサポートもしておかんとな。

 私は地球から来たメールを確認し、スケジュール調整を進めていくのだった。




 ふと気が付けば、既に日が暮れかかっている。

 時計を見ると、もう仕事を終える時間だった。


「さて、今日は業務終了だ。みんな、良い所で切り上げよう」

「はーい」

「やったー! ゲームするわよおおおお」


 みんなに声をかけると、サニアが拳を突き上げていた。

 さっきもゲームしていたように見えたが、気のせいだろうか。


「何やる?」

「今日はバイアがいいっス!」


 どうも、ホラーゲームをやるらしい。私はあのジャンルは少し苦手だ。

 なんというか、怖がらせる演出が、普通に怖い。


「社長もやる?」

「いや、いい……」


 ニヤニヤと声をかけてくるサニアに、私は逃げるようにして会社を出た。

 すると、後ろからフワフワと妖精がついてくる。


「しゃちょー、ママの所に帰るの?」

「いや、私はリナとは違う。寂しい一人暮らしだよ」


 答えると、妖精の子はなぜか眉を落とした。


「……。社長、さびしい?」


 その質問に、私は顎に手を当てる。


「そうだな。私はまあ、寂しい人間だ」

「ふむ。なら、今日はわちしが一緒に行って遊んでやろう!」

「はは、それは嬉しい話だな」


 どうやら、フェルに心配されてしまったようだ。

 なかなかどうして、優しい子らしい。


「社長の家、ゲームある?」

「ああ、あるぞ」

「サムライのやつは?」

「まあ、幾つかある」


 二人で下らない話をしながら、私たちは駅へと向かうのだった。 




sillaさんより、社長とリナ

挿絵(By みてみん)

 

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― 新着の感想 ―
[一言] あのVS筐体ですね?マルオは見たことありませんが 音速ライダーなら実物見たことあります。
[良い点] この二人が絡むのは珍しいのでとても良かったです!掲示板ネタも好きです。
[一言]  マルオのアーケード……。  自分が見たことある(知っている)のはマジの配管工時代の、POWブロックを叩いて虫とかの敵をひっくり返す、動かない一画面式の初代。  それと、花を奪おうとする羽…
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